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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十三章:思考する結晶編
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第六百四十九話:狂気の力を取り込んで

『じゃあ、さっそくやってみるから、杭を出してくれる?』


「わかりました」


 私は、【ストレージ】から例の杭を取り出す。

 相変わらず、禍々しい雰囲気を纏っているけど、本当に大丈夫だろうか。


『そのまま持っててね。行くよー』


「なにをするつもりで……ッ!?」


 疑問を問いかけるより前に、私の体が動かなくなる。

 それと同時に、杭から黒い煙が立ち込め始めた。

 とっさに手放そうとしても、体が動かず、ただ見つめることしかできない。

 煙は、徐々に私の体を覆い尽くし、視界が塞がれていく。

 それと同時に、頭の中に、何かが響いた。

 これは、声だろうか?

 ほの暗い水底から聞こえてくるような、おどろおどろしい声。

 深く、魂の奥底に響くようなその声は、私という自我を曖昧にしていく。

 これが、狂気の力……?

 私はとっさに、自我を強く保とうと意識したが、そんなもの関係ないと言わんばかりに、奥へ奥へと入り込んでくる声。

 このまま、消えてなくなっていくかのような感覚に、恐怖で声を上げたかったが、それすらもできない。


『よっと、こんなものかな?』


 このままではまずいと思いながら耐えていると、不意にリクの声が聞こえてきた。

 それと同時に、絡みつくような声は聞こえなくなっていき、視界も晴れていく。

 助かった……?

 一体何をしたのかわからないけど、リクが何かしたようだ。


『流石狂気の神の一部、大きいね』


「終わった、んですか……?」


『まだだよ。これから馴染ませるから、もうちょっと待って』


 そう言うと、不意に胸のあたりが熱くなってきた。

 視線を動かして覗いてみると、竜珠が見たこともないような光を発している。

 神力の光? いや、これはそれよりもっと禍々しいものだ。

 光は一定のリズムで明滅を繰り返している。

 一体何が起こっているのかはわからないが、何かが作り替えられているのは理解した。


「熱い……!」


『我慢して。何百年と修行するよりましでしょ』


 最初はほんのりと暖かかっただけなのに、徐々に熱を増していき、今や熱した鉄を押し付けられているかのような感覚がする。

 未だに体は動かず、抵抗することもできないため、私はもだえ苦しむしかなかった。


「ハク……」


 いつの間にか姿を現していたアリアが、心配そうに私を見ている。

 しかし、私にそれを気にする余裕はない。

 ただひたすら、この熱さが過ぎ去るのを待つ。


『ま、こんなもんでしょう。もう動けるよ』


「はぁはぁ……」


 やがて、処置が終わったのか、体が動くようになった。

 胸に感じていた熱さも、徐々に落ち着きを見せ始め、耐えられるようになっている。

 一体、リクは私に何をしたんだろうか。

 とっさに胸に手を当ててみるけど、少し違和感を感じた。

 改めて、確認してみると、そこには、歪んだ形に変形した竜珠があった。


「これは……」


『杭の力を取り込んで、竜珠の強化に当てた、と言えばわかりやすいかな? 容量的には、相当増えたと思うよ』


 球体に近かった竜珠が、ところどころが尖った形に変形している。

 リクが竜珠に住まうようになってからも、多少の変化はあったけど、ここまではっきり変わるのは、初めてだ。

 軽く触れてみると、ほんのりと光ったのを感じた。

 わずかに透明度を増した竜珠の表面には、揺らめく炎のようなものが見える。

 恐らく、これが取り込んだ狂気の力の一部だろう。

 思いの外すべらかで、綺麗ではあるけど、その内に秘められた力は、今までの神力とは少し違うのだと理解できた。


「これで、強化されたんですか?」


『いや、まだこれは途中段階。膨大な力に耐えられるだけの器を用意したに過ぎない。あの天使も言っていたように、器だけ作っても意味がないからね。ちゃんと、それに入れるものを用意しないと』


「まあ、それはそうですね」


 今回やったのは、神力を蓄えておくための器を作る作業。

 一応、神剣をタンク代わりにするという方針にはなったけど、それだけでは足りない。いずれにしても、それに入れるための神力を確保する作業は必要だ。

 そう考えると、リクのやった行為は、あまり意味のないものなんじゃないかと思えてくるけど、わざわざ容量を拡張したということは、これから神力を確保する手段を考えているということだ。

 単純に修行して蓄えていくってわけではなさそうだし、何をする気なんだろうか?


『精神力、この場合は神力かな? を手っ取り早く手に入れるためには、それに代わる膨大なリソースを用意すればいい。狂気の神の一部がリソースとして使えたように、他の神の一部だって、それと同じようなことができるはずだよ』


「それって、つまり神様から体の一部を貰って来いってことですか?」


『そういうこと。まあ、手段を問わないなら、別の方法もあるけど、ハクにはあくまで今の姿のままでいてもらわないといけないからね』


「私を化け物にでもする気だったんですか?」


『そうすることもできるってだけの話だよ。大丈夫、僕らは化け物になった君は見たいけど、そのまま理性をなくして暴れまわるただの獣にはなって欲しくないから』


 なんか、いまいち信用しきれないけど、とりあえず、神力を得る目途は立ったようだ。

 と言っても、神様の一部を譲り受けるって、そんなことできるんだろうか?

 ルディなら、一応呼び出し用の棘を貰っているけど、タクワの杭は偶然持ち帰ったものだし、他の神様が快く譲ってくれるかどうかはわからない。

 というか、そんなに異世界の神様の力を取り込んで、本当に大丈夫なんだろうか?

 確かに、リソースとして考えるなら、これ以上ないものかもしれないけど、私は本当に人のままでいられるんだろうか。


『まあ、ハクならそう難しくはないと思うよ。今までいくつもの神に会って、無事に帰ってこられているのがその証拠だよ』


「うーん、まあ、やるしかないですか」


 竜珠の強化は終わったから、後は神力をどうにかするだけ。

 ルーシーさんの案に乗っていれば、私は何もせずとも強化はできたのかもしれないけど、一時的に無防備になるというデメリットもあった。

 であるなら、きちんと魔法が使える状態で強化が望める今の状況の方が、まだいいのではないかとも思う。

 まあ、こっちはこっちで、得体のしれない力を取り扱うわけだから、ちょっと心配ではあるけどね。

 差し当たって、まずはクィスから交渉すべきだろうか。

 どちらにしても、移動させる必要があるし、一夜ひよなのことを考えれば、協力くらいはしてくれるかもしれない。

 後で、一夜ひよなに頼んでおかないと。

 私は、少し形の変わった竜珠を撫でながら、家に戻るのだった。

 感想ありがとうございます。

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