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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十三章:思考する結晶編
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第六百四十五話:観光を終えて

 その後、移送の約束を取り付けつつ、洞窟を後にすることになった。

 なんか、結構壮大な話になって来たけど、結局やることは変わらない。

 異世界から来た神様を見つけ出し、それを元居た世界に帰すこと。そして、クイーンを打倒し、この世界の脅威を取り除くことである。

 一夜ひよなが妙な能力を入手してしまったのは想定外だったけど、クィスも一夜ひよなのことは相当気に入っているようだし、そう悪いことにはならないと信じたい。

 そう言えば、勝手に決めてしまったけど、ルーシーさんにも話を聞けばよかったな。

 異世界の神様のことはほとんどわかっていないけど、ウルさん経由で知れることはあるだろうし、結晶化の危険性とかも、もう少し早くわかったかもしれない。

 当の一夜ひよなは特殊能力を得られてラッキーみたいな感じで喜んでいるけれど、もし問題があったら、何としてでも返還させなければ。


[とんだ観光になっちゃったね]


[でも、楽しかったよ? 特殊能力も貰っちゃったし!]


[それが一番の問題なんだけどね……]


 一夜ひよなが貰った菱形の結晶体だけど、手のひらほどの大きさがあるため、常備するには少し嵩張る。

 一時は、私の竜珠のように、体に埋め込むということも提案されたけど、そんなことをしたら、それこそ身体を乗っ取られそうだったので、全力で拒否した次第だ。

 まあ、鞄に入れておく分にはそこまで嵩張らない気もするし、問題はないだろう。

 そもそも、使ってほしくもないしね。


[一応言うけど、本当にいざという時にしか使わないこと。いいね?]


[えー、せっかくもらったのに]


[い・い・ね!]


[わかったよ……]


 ちょっと圧を強めに言うと、しぶしぶと言った感じで頷いていた。

 やれやれ、一夜ひよなの好奇心にも困ったものである。


「なあ、一体どんな話をしていたんだ?」


「ああ、お兄ちゃん達は全然聞こえてなかったんだっけ」


 勝手に盛り上がっている私達を見て、お兄ちゃんが少し不機嫌そうな顔で聞いてくる。

 まあ、傍から見たら、勝手に話がついていた状態だからね。話に混ざれなかったのは、少し不満だっただろう。

 私は、クィスと話したことを粗方説明する。

 世界の危機、ということには少し驚いた様子だったけど、そもそもあれが神様だったということ自体驚きが強かったようだ。

 まあ、見た目は超巨大な魔石だしね。私も、最初見た時は気づかなかったし。

 そう考えると、異世界の神様特有のプレッシャーというものがなかったということでもあるのか。それはそれで、運がよかった気がしてきたな。


「神様にも色々いるんだな」


「色々いすぎて困っちゃうよ」


 せめて、タクワみたいに元の世界に帰ろうとしているなら、利害も一致するし、多少は協力もできるんだけど、帰ることに興味がないとそれすらできないわけで、本当に困る。

 もっと元の世界に興味を持ってほしい。


「それで、これからどうするの?」


「うーん、目的は終えたし、帰ろうかなって」


 色々起きていて忘れていたが、元々ここに来た理由は観光である。

 その主目的である魔石の洞窟はすでに堪能したし、お土産もある程度見繕った。

 そのうち、クィスを移送するためにまた来る必要があるとはいえ、それは転移でいつでも来れるし、それよりも神様がいる場所にいつまでも長居したくない。

 一夜ひよなも満足しただろうし、帰っていいだろう。


「おっけー。帰りは転移で?」


「いや、帰りは私が乗せていくよ。約束もしたしね」


 ちらりと一夜ひよなの方を見る。

 行きはエルの背に乗ってきたわけだけど、一夜ひよなは私の背に乗りたいようだからね。

 どのみち、ルディを連れて転移はしたくないし、そこまで時間もかからないから問題はない。

 というわけで、町を出て、人気のない場所まで移動した後、竜の姿に変身する。

 一夜ひよなは、私の竜姿にきゃーきゃー嬉しそうな声を上げているけど、そんなに違うんだろうか?

 確かに、私もこの姿はかっこいいと思うけど、エルだってかっこいいと思うんだけどな。


[やっぱりハク兄の背中は落ち着くね]


『そんな変わる?』


[エルさんの背中も悪くはないけど、やっぱりハク兄がいいかなって]


『契約者よ、我の背に乗せてもいいのだぞ?』


[え? でも、ルディは実体がないから、安定感がなさそう]


『なっ!? い、いや、その気になれば実体化することも可能だ。契約者の兄よりも快適な空の旅を約束しよう』


[興味はあるけど、実体化したらみんなが驚いちゃうから、また今度ね]


『うぬぬ……』


 なんかルディが喚いているけど、一夜ひよなはばっさり切り捨てていた。

 でも、確かにルディが実体化したら大惨事な気がする。

 元々、ルディのプレッシャーは半端なくて、近くにいるだけで死を選びたくなるような、そんな恐怖がある。

 今の靄のような姿でさえそれなのだから、実体化したらどうなるかなんて目に見えている。

 いくらルディの姿に動じない一夜ひよなでも、流石に恐怖を覚えるかもしれないし、お互いのためにも、やらない方が吉だろう。

 ルディは納得していなさそうだけど、なぜか気分がよかった。


 その後、途中で一泊した後、王都へと帰ってくる。

 イレギュラーがあったせいで、すでに一週間くらい滞在している気がしていたけど、全然そんなことはなくてびっくりしていた。

 お次はどこへ行こうかと考えていると、不意に頭上から気配を感じた。


「失礼します。神剣を無事届けて参りました」


「ああ、ありがとうございます、ルーシーさん」


 出発する前に、ルーシーさんには神剣を預けていたわけだけど、きちんと届けてくれたようだ。

 それにしても、神剣を強くするのはいいんだけど、どうやって強くするんだろうか?

 剣だから、鍛え直したりするんだろうか。あんなでっかい剣を鍛え直すって大変そうだけど。


「強化にはいましばらくかかります。それと、お伝えしたいことが」


「なんですか?」


「ハク様の強化案についてです」


 そう言って、ルーシーさんは説明を始める。

 元々、私の強化案というのは協議されてきたようだ。しかし、あまりに強化しすぎると、人の道から外れてしまうため、それでは今の生活を守れないからと、協議は難航していた。

 本来なら、世界の命運を分けるような事態なのだから、私一人の我儘など聞かずに、さっさと強化すべきだったのかもしれないが、私のことを気に入っている創造神様は、あくまで私の選択を尊重する形を取っていた。

 クイーンが、今のところ目立った動きをしていないのも、その要因の一つかもしれないね。

 だが、このままでは、中途半端に強化した挙句、その力を使いこなせなかったり、使いこなせたとしても、クイーンに力及ばず負けてしまうということにもなりうる。それでは意味がない。

 だからこそ、どうするべきかを悩んでいたわけだが、ここにきて、一つの案が浮上したそうだ。

 それが、器の強化である。


「器の強化?」


「正確には、魔力の器ですね。ハク様は、神力の多くを竜珠という形で保管しておられますが、大枠ではそれと似たようなものです」


 竜珠と同じ、つまり、外部に力を溜め込むってことかな?

 私は、詳しい話を聞くべく、耳を傾けた。

 感想ありがとうございます。

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