第六百四十五話:観光を終えて
その後、移送の約束を取り付けつつ、洞窟を後にすることになった。
なんか、結構壮大な話になって来たけど、結局やることは変わらない。
異世界から来た神様を見つけ出し、それを元居た世界に帰すこと。そして、クイーンを打倒し、この世界の脅威を取り除くことである。
一夜が妙な能力を入手してしまったのは想定外だったけど、クィスも一夜のことは相当気に入っているようだし、そう悪いことにはならないと信じたい。
そう言えば、勝手に決めてしまったけど、ルーシーさんにも話を聞けばよかったな。
異世界の神様のことはほとんどわかっていないけど、ウルさん経由で知れることはあるだろうし、結晶化の危険性とかも、もう少し早くわかったかもしれない。
当の一夜は特殊能力を得られてラッキーみたいな感じで喜んでいるけれど、もし問題があったら、何としてでも返還させなければ。
[とんだ観光になっちゃったね]
[でも、楽しかったよ? 特殊能力も貰っちゃったし!]
[それが一番の問題なんだけどね……]
一夜が貰った菱形の結晶体だけど、手のひらほどの大きさがあるため、常備するには少し嵩張る。
一時は、私の竜珠のように、体に埋め込むということも提案されたけど、そんなことをしたら、それこそ身体を乗っ取られそうだったので、全力で拒否した次第だ。
まあ、鞄に入れておく分にはそこまで嵩張らない気もするし、問題はないだろう。
そもそも、使ってほしくもないしね。
[一応言うけど、本当にいざという時にしか使わないこと。いいね?]
[えー、せっかくもらったのに]
[い・い・ね!]
[わかったよ……]
ちょっと圧を強めに言うと、しぶしぶと言った感じで頷いていた。
やれやれ、一夜の好奇心にも困ったものである。
「なあ、一体どんな話をしていたんだ?」
「ああ、お兄ちゃん達は全然聞こえてなかったんだっけ」
勝手に盛り上がっている私達を見て、お兄ちゃんが少し不機嫌そうな顔で聞いてくる。
まあ、傍から見たら、勝手に話がついていた状態だからね。話に混ざれなかったのは、少し不満だっただろう。
私は、クィスと話したことを粗方説明する。
世界の危機、ということには少し驚いた様子だったけど、そもそもあれが神様だったということ自体驚きが強かったようだ。
まあ、見た目は超巨大な魔石だしね。私も、最初見た時は気づかなかったし。
そう考えると、異世界の神様特有のプレッシャーというものがなかったということでもあるのか。それはそれで、運がよかった気がしてきたな。
「神様にも色々いるんだな」
「色々いすぎて困っちゃうよ」
せめて、タクワみたいに元の世界に帰ろうとしているなら、利害も一致するし、多少は協力もできるんだけど、帰ることに興味がないとそれすらできないわけで、本当に困る。
もっと元の世界に興味を持ってほしい。
「それで、これからどうするの?」
「うーん、目的は終えたし、帰ろうかなって」
色々起きていて忘れていたが、元々ここに来た理由は観光である。
その主目的である魔石の洞窟はすでに堪能したし、お土産もある程度見繕った。
そのうち、クィスを移送するためにまた来る必要があるとはいえ、それは転移でいつでも来れるし、それよりも神様がいる場所にいつまでも長居したくない。
一夜も満足しただろうし、帰っていいだろう。
「おっけー。帰りは転移で?」
「いや、帰りは私が乗せていくよ。約束もしたしね」
ちらりと一夜の方を見る。
行きはエルの背に乗ってきたわけだけど、一夜は私の背に乗りたいようだからね。
どのみち、ルディを連れて転移はしたくないし、そこまで時間もかからないから問題はない。
というわけで、町を出て、人気のない場所まで移動した後、竜の姿に変身する。
一夜は、私の竜姿にきゃーきゃー嬉しそうな声を上げているけど、そんなに違うんだろうか?
確かに、私もこの姿はかっこいいと思うけど、エルだってかっこいいと思うんだけどな。
[やっぱりハク兄の背中は落ち着くね]
『そんな変わる?』
[エルさんの背中も悪くはないけど、やっぱりハク兄がいいかなって]
『契約者よ、我の背に乗せてもいいのだぞ?』
[え? でも、ルディは実体がないから、安定感がなさそう]
『なっ!? い、いや、その気になれば実体化することも可能だ。契約者の兄よりも快適な空の旅を約束しよう』
[興味はあるけど、実体化したらみんなが驚いちゃうから、また今度ね]
『うぬぬ……』
なんかルディが喚いているけど、一夜はばっさり切り捨てていた。
でも、確かにルディが実体化したら大惨事な気がする。
元々、ルディのプレッシャーは半端なくて、近くにいるだけで死を選びたくなるような、そんな恐怖がある。
今の靄のような姿でさえそれなのだから、実体化したらどうなるかなんて目に見えている。
いくらルディの姿に動じない一夜でも、流石に恐怖を覚えるかもしれないし、お互いのためにも、やらない方が吉だろう。
ルディは納得していなさそうだけど、なぜか気分がよかった。
その後、途中で一泊した後、王都へと帰ってくる。
イレギュラーがあったせいで、すでに一週間くらい滞在している気がしていたけど、全然そんなことはなくてびっくりしていた。
お次はどこへ行こうかと考えていると、不意に頭上から気配を感じた。
「失礼します。神剣を無事届けて参りました」
「ああ、ありがとうございます、ルーシーさん」
出発する前に、ルーシーさんには神剣を預けていたわけだけど、きちんと届けてくれたようだ。
それにしても、神剣を強くするのはいいんだけど、どうやって強くするんだろうか?
剣だから、鍛え直したりするんだろうか。あんなでっかい剣を鍛え直すって大変そうだけど。
「強化にはいましばらくかかります。それと、お伝えしたいことが」
「なんですか?」
「ハク様の強化案についてです」
そう言って、ルーシーさんは説明を始める。
元々、私の強化案というのは協議されてきたようだ。しかし、あまりに強化しすぎると、人の道から外れてしまうため、それでは今の生活を守れないからと、協議は難航していた。
本来なら、世界の命運を分けるような事態なのだから、私一人の我儘など聞かずに、さっさと強化すべきだったのかもしれないが、私のことを気に入っている創造神様は、あくまで私の選択を尊重する形を取っていた。
クイーンが、今のところ目立った動きをしていないのも、その要因の一つかもしれないね。
だが、このままでは、中途半端に強化した挙句、その力を使いこなせなかったり、使いこなせたとしても、クイーンに力及ばず負けてしまうということにもなりうる。それでは意味がない。
だからこそ、どうするべきかを悩んでいたわけだが、ここにきて、一つの案が浮上したそうだ。
それが、器の強化である。
「器の強化?」
「正確には、魔力の器ですね。ハク様は、神力の多くを竜珠という形で保管しておられますが、大枠ではそれと似たようなものです」
竜珠と同じ、つまり、外部に力を溜め込むってことかな?
私は、詳しい話を聞くべく、耳を傾けた。
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