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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十三章:思考する結晶編
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第六百三十七話:魔石の洞窟

 洞窟に入ると、真っ先に目に入ったのは、洞窟の壁から張り出す、巨大な魔石の結晶群だった。

 本来、自然に生成される魔石は属性を持たないことが多いけど、この辺りは豊富な魔力を得た影響か、いずれも青白く輝いている。

 多分、水の魔石になっているね。

 ここまで巨大な魔石は、自然ではほとんど見ることはなく、まさに自然の奇跡と言えるものだろう。


[わぁ、凄い!]


 その神秘的な光景に、一夜ひよなは大はしゃぎである。

 これほどの絶景は、こちらの世界でもなかなかお目にかかれない。

 ただ残念なのは、この洞窟では魔法はもちろん、魔道具の使用も禁止されている。

 これだけの魔石がある中で、魔力を使う行為をすれば、それに反応してしまうかもしれないからね。

 特に、こんな巨大な水の魔石が一気に反応したら、洞窟内に大量の水が溢れて、溺れることになる。

 止めることはできるかもしれないけど、そうなったら、魔石は魔力を失い、この輝きは二度と見ることができなくなるだろう。

 だからこそ、そうしたものは排除しなくてはならないのだ。

 一夜ひよなが持つカメラは、別に魔道具ではないけれど、説明する関係上、魔道具と言い張るしかないし、それ以外だと言い張るにしても、どっちにしろ怪しいことをしていると映るのは確かなので、迂闊に使えない。

 だから、結局写真は撮れないってことなんだよね。

 ちょっともったいない。


[これこれ、こう言うのを求めてたんだよ!]


[喜んでくれたのなら何よりだよ]


 しかし、久しぶりに来てみたけど、かなり見事なものである。

 私も、その光景を目に焼き付けながら、引率役に従って、奥へと進んでいった。

 しばらくして、洞窟の奥地へと辿り着く。

 そこには、小さな滝が流れていて、その周りには、多くの魔石の結晶が連なっていた。

 洞窟の中の滝、それに魔石の結晶。かなり神秘的な光景だ。

 一夜ひよなの他にも、一緒に来ていた貴族らしき少女達も、その光景に感嘆の息を漏らしていた。


[あ、だめだよ!]


 あまりの絶景に、しばし心を打たれていると、不意に少女の一人が近くの壁に生えている魔石に触れようとした。

 事前に説明された禁止事項の中には、魔石に触れてはいけないというものもあった。

 魔石に触れてしまうと、その人の魔力に反応する可能性もあるし、何より、魔石自体がかなり脆いものだから、下手に触れて壊れてしまったら問題である。

 だから、絶対に触るなと言われていたはずだけど、その少女はそんなことお構いなしに触ろうとしていた。

 それを見た一夜ひよなは、とっさに少女の腕を掴み、それを阻止する。

 それ自体は、褒められた行為だと思うけど、少女にとってはそうではなかったようで、キッと一夜ひよなのことを睨みつけてきた。


「いきなりなによ! 放しなさい!」


「ええと、触れちゃ、ダメ、です」


「いいじゃない、少しくらい。何なら買い取ってもいいわ。ね、パパ、いいでしょ?」


「え? まあ、それくらいなら……」


「いいわけないでしょう」


 なんだか面倒なことになりそうだったので、一夜ひよなの間に割って入る。

 お兄ちゃん達も、なんだか不穏な雰囲気を感じ取ったのか、さりげなく私達を守る位置に移動した。


「この魔石はとても貴重なものです。それに、ここに入る前に、触れてはいけないと言われたでしょう?」


「なによあんた。私の邪魔をしようって言うの?」


「純粋に禁止されたことをしてはいけないと言ってるんです。あなたも何か言ってくださいよ」


「えっ? ええと、そうですね。非常にデリケートなものですので、お手を触れるのはご遠慮いただきたく」


 このグループの引率役である男性にも話を振ると、少し遠慮がちにそう言った。

 少女は納得していないようだけど、ほんの軽い思い付きで触れていい代物じゃない。

 ここにある魔石は、高純度の魔力に当てられて、急激に変化したものであり、本来自然に生成されることはほとんどない。

 その価値は、あちらの世界で言うなら、世界遺産ものであり、買い取ろうとすること自体が無謀な話である。

 恐らく、少女は記念と思って、軽い気持ちで魔石を折って持ち帰るつもりだったんだろう。

 その気持ちはわからないでもないが、そう言った人物が何人も出てくれば、この洞窟はボロボロになってしまう。

 ただでさえ貴重なものなのに、そんな理由で穢されていいものではないのだ。


「なによ、ケチね。あなた、私を誰だと思ってるの?」


「あなたが誰であろうと、この洞窟を傷つけることは許されません。お土産が欲しいなら、お土産屋さんで買ってください」


「ふん、あなた、名前は?」


「私はハクと言います」


「そう、後で覚えておくことね」


 しばらく睨みつけられたが、やがて諦めたのか、魔石に伸ばした手を引っ込めた。

 やれやれ、軽率な行動には困ったものである。

 もし、これがきっかけでこの洞窟が観光資源として使えなくなったら、どうするのか。

 もし弁償しようと思ったら、恐らく白金貨が飛んでいくと思う。

 いくら貴族でも、その値段は流石に払えないだろうし、払えたとしても、相当な痛手であることは確か。

 少女には、自分のしたことの意味を考えてほしいものだね。

 父親らしき人物の下に戻った少女は、私のことを睨みつけながら、なにやら言っている。

 なんか、この後何かしら報復されそうだけど、まあそれはいいや。


「そ、それでは、そろそろ戻りましょうか」


 引率役の人は、そう言って洞窟の外に出るように促す。

 元々、ここは洞窟の行き止まりだったし、見るものはもうすべて見た。

 もう少し、この神秘的な光景を目にしていたいという気持ちもあるけど、次の人も控えているし、長居するわけにもいかない。

 もと来た道を引き返し、洞窟の外に出る。

 一夜ひよなにとって、いい思い出になればいいのだけど。


[ハク兄、なんかごめんね?]


[何を謝ってるの? 一夜ひよなは正しいことをしたんだよ]


 一度受付まで戻り、設置されている椅子で一休みしていると、一夜ひよながそう言って謝ってきた。

 まあ、確かに貴族に対していきなり腕を掴んだわけだから、下手したら切り捨てられる可能性もあったし、危険な行為ではあっただろう。

 あの場には護衛がいなかったから、特に何かされることもなかったし、親の方はまだ常識があったのか、こちらを逆恨みした様子もなかったのが幸いだったね。

 でも、相手が誰であろうとも、あの洞窟を穢す行為をしようとした相手を咎めるのは間違ったことじゃないと思う。


[でも、なんだか面倒事になった気がするし……]


[その時はその時だよ。一夜ひよなが気にするようなことじゃない]


 まあ、あの様子だと確かに報復してきそうな気がするけど、別にそこまで怖くはない。

 仮に、護衛とかを差し向けられたとしても、返り討ちにできる自信があるからね。

 一夜ひよなが狙われる可能性もあるけど、私やルディが見張っている以上は下手なことはさせないし。

 まあ、ちょっと気を張っている必要はあるかもしれないけどね。

 私は、何をしてくるかと想像しつつ、せっかく観光地に来たのだから、お土産でも見て行こうと思い、土産物通りに向かう提案をすることにした。

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