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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十三章:思考する結晶編
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第六百三十六話:旅の醍醐味

 食べてみた感想だけど、予想通り、油っこかった。

 肉自体は、恐らくオークの肉かな? そこまで悪いものを使っているようには思えなかったけど、油がすべてを台無しにしている感じがする。

 少なくとも、想像していたような、サクッとした感触は見込めなかった。

 しかも、ソースなどもなかったし、キャベツもない。

 唯一の救いは、米が割と美味しかったことだけど、それでもプラス評価にするにはなかなか難しかった。


[う、うーん……]


[一夜ひよな、まずかったら食べなくてもいいんだからね?]


[い、いや、最後まで食べるよ……]


 一夜ひよなは、一口食べた時点で微妙な顔をしていたし、あんまり美味しいと思ってないのは見え見えだった。

 しかし、出されたものは全部食べるというのが親からの教えである。

 私も、だからこそできる限り食べるようにしているけど、悪いものを食べてお腹を壊してしまったんじゃそっちの方が問題だし、無理する必要はないと思うけどね。


「割とうまいと思うんだが、そんなに嫌だったか?」


「お兄ちゃんは何とも思わないの?」


「んー、まあ、あっちの世界の料理と比べたらそりゃグレードは落ちると思うが、普通にうまいと思うぞ?」


 意外にも、お兄ちゃんやお姉ちゃんには好評のようだった。

 なぜだろうと思ったけど、恐らく、環境の違いだろうね。

 こちらの世界では、油を使いまわすなんて日常茶飯事である。

 たまに露店とかで揚げ物を扱っているお店があるけど、そう言った場所は大抵が油を使いまわしていて、どす黒く染まっていることが多い。

 油自体も、そこまでいいものを使っていないって言うのもあるだろうけどね。

 そう考えたら、このお店は油もそこそこいいものを使っているようだし、使いまわすにしても、そう言った露店よりは取り換える頻度は高いと思う。

 だからこそ、その差が味に現れていて、こちらの世界の人にとっては、なかなか美味しい料理という印象なんだろう。

 まあ、貴族に出す料理かと言われたらちょっと違う気もするけど、観光地で、目新しいものを食べるという意味では、そこまで気にされないのかもしれない。

 なんか、私もこちらの世界の住人としての意識が強かったけど、食べられるってだけで、感性はあちらの世界のものが残っているのかもしれないね。


「食わないなら俺が食べるが?」


[えっと、どうしようもなくなったらお願いします……]


「あんま無理はするなよ」


 それにしても、なんでカツ丼なんだろうか。

 最初は、似たような料理なだけかなと思ったけど、名前もしっかりカツドンとなっていたし、偶然ではないだろう。

 転生者がここに立ち寄ったりしたんだろうか。転生者は、割とどこにでもいる可能性があるから、可能性はゼロではないけど。


『契約者の顔を曇らせるとは、この店の店主とは話し合いをした方がいいだろうか』


「絶対にやめてください」


 嫌々食べている様子の一夜ひよなに、ルディも少し不満そうである。

 でも、別にお店側も悪意があってこういうものを出しているわけではなさそうなんだよね。

 周りを見て見ればわかるけど、他にもカツ丼を頼んでいる人はそれなりにいる。

 そして、みんな美味しそうに食べているので、味に文句を言っているのは、私達くらいだろう。

 だから、店としては、割と自慢の料理なんだと思う。

 それを、ちょっと気に入らないからって店主を呼び出すのは、ただのクレーマーと変わらない。

 そもそも、ルディが対面したら大変なことになるし、絶対に面倒なことになるからやめてほしい。

 一夜ひよなも、やんわり止めてくれたから本当にやる気はないようだけど、少し目を離したら面倒事を起こしてそうで神経を使うなぁ。


「ごちそうさまでした」


 なんやかんやありながらも、料理を食べ終え、店を後にする。

 途中、店主がやって来て、感想を聞かれたりしたけれど、無難に美味しいですと返しておいた。

 店主の表情からして、多分本当に自慢の料理だったんだろう。

 その顔からは、絶品でしょ? と自信満々の感情が見て取れた。

 私の方から、きちんとしたカツ丼の作り方を教えることもできたと思うけど、そこまでする義理はないし、他の人からは人気なんだから、とやかく言う必要はないと思う。


[ちょっと気持ち悪いかも……]


[大丈夫? 今治すからね]


 ちょっと苦しそうだったので、治癒魔法で治しておく。

 あちらの世界の料理に慣れていたら、こちらの世界の料理はきついこともあるかもしれないからね。

 これから洞窟に行くというのに、食あたりなど起こされたら大変だ。

 そんな大した症状じゃなかったのか、一夜ひよなはすぐに復帰する。

 今度からは、きちんとどういう料理か確認しておた方がいいかもね。


[なんか、これも旅の醍醐味って感じがするし、これはこれでいいんじゃないかな]


[こんなのが旅の醍醐味?]


[知らない土地で、知らない料理を食べて、一喜一憂するって、旅っぽくない?]


[うーん、まあ……]


 確かに、旅行先では普段食べないものを食べてみたいという心理はわかる。

 せっかく普段行けない場所にいるのに、全国どこにでもあるチェーン店とかで食事を済ませてしまったら、もったいないしね。

 私としては、旅先でトラブルに見舞われるよりはましだと思っちゃうけど、それも旅の醍醐味として見れるのは、流石一夜ひよなだと思う。


[それより、そろそろじゃない?]


[ああ、うん。予定時間はそろそろだと思う]


 例の洞窟は、あまり大量に人が押し寄せると危険なので、数人のグループに分けて、交代で入ることになっているようだ。

 さっき受付をしたから、時間通りならそろそろ呼ばれても不思議はないんだけど、どうだろう?


「受付番号120から140の方、いらっしゃいましたらお集まりください」


 と、そんなことを思っていたら、さっそく呼ばれた。

 待合場所に赴くと、他にも呼ばれた人が続々と集まってくる。

 見たところ、みんな身なりがいいから、貴族なのかな?

 いかにもお嬢様って子供もいるし、子供と一緒に観光に来たのかもしれない。

 みんな集まると、引率役と思われる男性が説明を始める。

 洞窟に入るのは、一種のツアーのような形で、基本的には、引率役の人についていく形で進行するようだ。

 いくつかの注意点と、禁止事項を伝えられ、出発することになる。


[いよいよだね!]


[うん。期待しててね]


 揃って、森の中の道を歩いていく。

 道はかなり整備されており、装飾もなかなか凝っている。

 周囲には魔物避けもあって、警備と思われる人も巡回しているようだから、魔物に襲われる心配はない。

 しばらく歩き、ついに洞窟へと辿り着く。

 さて、一夜ひよなはどんな反応をしてくれるだろうか?

 私は、ひそかに楽しみにしながら、静かに洞窟に入っていった。

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