第六百三十一話:ペンダントの素材
「……これ、どうやって作ったんですか?」
まず、このペンダントの材料を聞くことにした。
見た感じは、ただの綺麗な宝石と銀のチェーンで作られたものに見えるけど、ルディがこの世界でそれらの材料を集めてきたとでも言うんだろうか?
『元となっているのは我の棘だ。ある程度であれば、形は自在に変えることができる』
「棘って……あのやばい権能がある奴ですよね。そんなの使って大丈夫なんですか?」
ルディにはいくつかの権能があり、以前一夜を連れてきた時は、それのせいでだいぶ苦労させられたものである。
相手を魅了したり、盲目にしたり、死者を甦らせたりと、とにかくやりたい放題で、こんなものが世に出回ったら、問題しかないものだった。
その棘を素材として作られているとしたら、このペンダントにも、それらの権能が備わっているということになる。
流石に、一夜がそれらを悪意を持って使うことはないとは思うけど、だとしても奪われるなどのリスクがある以上は、安易に持たせていい代物ではない。
『安心しろ、そこまでの権能は備わっていない。あくまで、精神力のタンクとして作った代物だからな、無駄な機能は取り払ってある』
「それなら少しは安心できますけ……」
『他に機能があるとしたら、汝が持つ我の棘と同じく、いつでも我を呼び出すことができるくらいだ』
「そっちが本命でしょ」
こちらの世界に来た時は呼び出せと言われてはいるけど、私がもし守らなかった場合でも、一夜を通じて会いに来る気満々である。
というか、下手をしたら、あちらの世界にもルディが呼び出される可能性があるわけで、私としてはそっちの方が心配なんだけど。
「間違っても、あちらの世界に行こうなんて考えないでくださいね?」
『契約者の平穏を脅かす気はない。だが、もし契約者に危険が迫るのであれば、我は迷わず顕現するだろう』
「……やっぱり取り上げた方がいいんじゃないかな」
魔力切れの心配がないというのは魅力的だけど、あちらの世界に出現する可能性があるというだけで怖すぎる。
危険がなければ現れないとは言うけど、ほんの些細なことでも、ルディが危険と判断すれば行けるってことだし、もしそれが間違いで、しかもルディはその姿を見るだけでも死に誘うような凶悪な性質を有している。
慣れれば耐えられはするけど、初見だったら絶対発狂するだろう。
どういうわけか、ルディのことを友人のように思っている一夜なら、危険がなくても呼び出してしまう可能性もあるし、どう考えても、一夜に預けるべきではない。
「守りに関しては、私の防衛アクセサリーで十分です。魔力タンクに関しても、私が代替を用意できます。残念ですが、これは持ち帰ってください」
『ふぅむ、そんなに嫌か?』
「逆に聞きますけど、あなたがいきなり目の前に現れたとしたら、どうなると思います?」
『……理解はできる。だが、こうでもしなければ契約者とまともに会えないではないか』
「どれだけ会いたいんですか」
まあ、会いたいという気持ちはわからないでもない。
私だって、一夜とは一緒にいたいし、だからこそ、あちらの世界に行った時は、二人の時間を大切にしようと思っている。
だけど、私はすでにこちら側の住人。居場所はこちらであり、一夜の世界はすでに過去のものだ。
だから、ある程度の時間を置いて、たまに会う程度がちょうどいいのである。
一夜の生活を破壊しないためにもね。
「私だって、一夜と会うのは一年に一回くらいなんですから、それくらい我慢してください」
『むぅ……』
なんだか、こうしてみると、ルディもただのさびしがりに見える。
私と違うところは、一夜の生活を尊重するのではなく、こちら側に引き込もうとしていること。
まあ、恐怖で支配してくるよりはよっぽどましだけど、一夜の周りのことを全然考えていないのは考え物だ。
護衛という意味では信頼してもいいのかもしれないけど、あまりに扱いが難しすぎる。
[ふわぁ……]
「あ、起きたかな?」
そんなことを話しているうちに、一夜が目を覚ました。
魔力切れによる睡眠にしてはかなり早い気もするけど、元の魔力が少ないから、回復も早いのかな?
[おはよう、一夜]
[おはよー。なんかすっきりした目覚め]
[魔力は回復したみたいだね]
念のため、探知魔法で見てみたけど、魔力は完全に回復しているようだ。
たった一時間ちょっとの睡眠でこれほどとは、だいぶ回復が早いよね。
起きた一夜を見て、ルディがちらりとこちらを見る。
私は、牽制の意味も込めて、睨み返しておいた。
『……目覚めたか、契約者よ』
[あ、ルディもおはよう。ずっといてくれたの?]
『うむ。契約者がこちらの世界に来ている間は、片時も離れる気はない』
[ふふ、ありがと]
一応、ペンダントのことは話さないでいてくれたようである。
まあ、呼び出し機能がなければ、渡してもいいんだけどね。どのみち、気絶を防ぐためには、タンクは必要となるわけだし。
『ところで契約者よ。兄に止められたとは言っていたが、実際どれくらい呪文を使えるようになったのだ?』
[教えられたのは一通り試したよ。まあ、まだ精度は全然だけどね]
『そうか。契約者が寝ている間に、兄と話していてな。ぜひ見せてもらいたいとのことだったぞ』
[え、ほんと? ふふ、しょうがないなぁ……]
そんなことは一言も言っていないが、ルディの言葉に一夜はやる気満々のようである。
まあ、確かに呪文と聞いただけでは、どんなことができるのかはわからないけども。
見せてもらったのは、ものを浮かせる呪文と、攻撃をそらす呪文。特に後者は、私ですら察知が難しいものだったし、効果は結構強力なのかもしれない。
危険だから使わないという方針は変わらないけど、こちらの世界であれば、魔力の心配はいらないし、一度、使える手札をすべて確認しておくのは悪くないかもしれないね。
[……じゃあ、見せてもらえる?]
[うん! 何から行こうかなぁ]
『精神力の心配はしなくていい。我に触れていれば、肩代わりすることができるからな』
[え、ほんと? じゃあ、使いたい放題だね!]
一夜は、意気揚々と部屋から出ていく。
どんな呪文があるかは知らないけど、ここよりは庭でやった方がいいか。
私は、少し心配になりながらも、どんな呪文があるのか、少し興味を引かれていた。
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