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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十三章:思考する結晶編
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第六百二十七話:複雑な兄心

『時に契約者よ、呪文の習得は進んでいるか?』


[ああ、うん。割とできるようにはなって来たんだけど、ハク兄に止められちゃったから、最近はやってないかな]


『……契約者の兄よ、どういうつもりだ?』


「どういうつもりって……危ないからやめさせたんですよ」


 目のない顔がじろりとこちらに向いてきて、かなりぞわっとしたけど、私は負けじと言い返す。

 一夜ひよなにルディが授けたという呪文。それは、魔法とは少し異なる魔術を扱うためのものであり、発動には、精神力を使用するものらしい。

 検証の結果、精神力とは、魔力と似たものだということはわかったけれど、いずれにしても、あちらの世界では魔力の補充が難しい以上、使いすぎて気絶する可能性が高いわけで、だからこそ、頻繁に使わせるわけにはいかないのだ。

 一夜ひよなが魔力を持つことができたのは喜ばしいことではあるけど、だからと言って、積極的に使う必要はないと思う。


『呪文は身を守るために必要なものだ。それをやめさせるなど、汝は妹の命が惜しくないのか?』


「ルディの世界がどういうものかは知りませんけど、あちらの世界で魔術が役に立つようなことはほとんどないですよ。安全な世界ですからね」


『完璧に安全な場所など存在しない。いざという時に対抗する術を持っていなければ、助かるはずの命も果てることになる。それでも止めるか?』


「だとしても、安全を買うために危険になってたんじゃ本末転倒です。あちらの世界で魔術を使うには、色々とハードルが高いんですよ」


 精神力が魔力と同じ性質を持っているなら、あちらの世界では使った魔力を回復する手段が乏しすぎる。

 魔力がなくなると、気絶してしまうから、例えば身を守るために魔術を使い、それを回避したとして、その後に気絶してしまったんじゃ何の意味もない。

 一応、魔力とは違って、あちらの世界でも寝れば数時間で回復する代物のようだけど、だとしても気絶のリスクが付きまとう以上は、乱発するのもよくないだろう。


『つまり、精神力を容易に回復する手段があればいいのだな?』


「極論を言えばそうなりますけど、そうだとしても一夜ひよなには普通の人間でいてほしいんですけどね」


『なるほど、いつまでも無垢でいてほしいということか。その気持ちは理解できないでもないが、一度こちら側に関わった以上、いつまでもそのままでいることは難しいと判断する』


「……まあ、そうなんでしょうけどね」


 私は、一夜ひよなに強くなってほしいわけじゃない。

 一夜ひよなには、あちらの世界でヴァーチャライバーとしての生活があるし、あまりにファンタジーに染まりすぎて、現実と乖離するようなことにはなって欲しくない。

 もちろん、強くなることで身を守ることができ、危険が減るというならそれはいいことだけど、それをきっかけに、周りから奇異の目で見られる可能性もある。

 そうなってしまったら、一夜ひよなはこちら側に来ざるを得なくなる。

 仮に、一夜ひよながそれを望んでいたとしても、私はあまり推奨したくはないのだ。

 ルディの言う通り、一夜ひよなはすでにこちら側に関わりすぎているし、それが露見するにしろそうでないにしろ、いずれは染まっていくのは間違いないのかもしれない。

 けど、積極的に染め上げるには、まだ早い気がする。

 これは、私の我儘なんだろうか。

 特に、あちらの世界ならともかく、こちらの世界ではクイーンの存在もある。

 クイーンが、私の気を引きたいがために、一夜ひよなに手を出す可能性もあるわけで、その時に、何も知らない無垢な女性のままでは確かに危険かもしれない。

 こちらの世界にいる間は私が守るとは言っても、前例があるし、守り切れない可能性は十分にあるしね。

 そう言う意味では、強くなってほしいとも思う。

 一体、何が正解なんだろうか。


『複雑な兄心という奴か。そう言うことなら、せめて我を常にそばに置け。さすれば、契約者のことはどんなことがあろうとも守って見せよう』


「……ちゃんと守ってくれるんですか?」


『加減はできぬかもしれぬが、守ることはできる。たとえ、彼のクイーンが相手であろうとも、命の保証はしよう』


「……はぁ。それじゃあ、一夜ひよなのこと、よろしくお願いしますね」


 得体のしれない神様の手を借りるのは業腹だけど、現状は、ルディの方が私より強い。

 少なくとも、私がクイーンに対抗するよりは、守ってくれる確率は高いだろう。

 二人の信頼関係を見れば、少なくとも守ってくれるだろうって感じはするしね。


[二人とも心配性だなぁ。私は大丈夫だって]


[なんでそんなに楽観的なのか、私にはわからないよ]


 当の本人は、凄い能天気なこと言っているし、心配している私が馬鹿みたいだ。

 まあ、ルディが一夜ひよなを守ってくれるというなら、私も少しは安心できると思う。

 少なくとも、こちらの世界での懸念事項が少しは減ったわけだしね。

 その間に、私の強化案を考えつければいうことなしかな。


『それはそうと、気になることがあるのだが』


「なんですか?」


『汝の体から発せられる気配に覚えがある。もしやと思うが、我と同郷の神を匿っているか?』


「ああ、そう言えば言ってませんでしたね」


 恐らく、ルディが言っているのはリクのことだろう。

 リクが私の体に住まい始めたのは、ルディが去った後だし、知らないのも無理はない。

 私がリクのことを紹介しようと口を開こうとすると、その瞬間、口の周りに違和感を感じた。

 この感覚には覚えがある。そう、リクが私の体をいじくりまわす時の感覚だ。


「ちょ、まっ……」


『やあやあ納骨堂、久しぶりだね』


 制止する間もなく、私の口周りがぼこっと盛り上がり、凶悪な牙を携えた竜の口へと変化する。

 恐らく、竜珠の力を応用して、一部だけ変化させたんだろう。

 口が変化させられて影響か、口の主導権を奪われ、私の口は勝手に言葉を紡ぐようになる。

 普通に【念話】で話せばいいだろうに、なんでこういうことするかな……。


『汝は病原体の王か。気ままに世界をさすらい、病気を振りまく汝が、なぜ一か所に留まっている?』


『ちょっとした契約でね。この体が居心地がいいから、しばらくバカンスってわけさ』


『そうか。汝がどこへいようとかまわんが、いくら神とは言えど、未熟なその身では窮屈ではないのか?』


『全然。むしろ、今までで一番いいまである。君の近くも捨てがたいけどね』


『遠慮願いたい』


 どうやら、ルティはリクのことを知っているらしい。

 まあ、同じ世界の神様っぽいし、リクの性質上、ルディの近くにいても不思議はないか。

 それよりも、いい加減主導権を返してほしい。

 私は手で口を叩く。

 勝手に喋らされるのって、相当違和感があるんだと実感したね。


『宿主がうるさいからこれにて失礼するよ。こっちはこっちで何とかするから、そっちも何とかしてね』


『ふむ、汝の思惑はよくわからないが、もとより契約者は我の保護下にある。言われずとも守るさ』


 最後に、なにやら意味深なことを言って、口が元に戻る。

 一体どういうことなのかはわからないけど、何か通じ合う部分でもあったんだろうか。

 ルディも納得している様子だし、異世界の神様はよくわからない。

 私は、口元をさすりながら、心の中でリクに文句を言うのだった。

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ルディはもう少しビジュアルをどうにか……
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