第六百二十二話:警告
雑談を終え、配信を終了する。
RTA配信をする時は、大抵が日を跨ぐくらいまで時間が経つけれど、今回は相当時間が余ったこともあって、雑談がはかどってしまった。
別に、雑談が悪いわけではないけど、予定通りに進められないのは、ちょっと問題があるかもしれない。
と言っても、RTAなんて、その時のプレイによって時間は変わるものだろうから、ちゃんと終われているだけましだと思うけどね。
「お疲れ様、ハク兄」
「ありがと」
配信の後片付けをして、寝室へと向かう。
RTA配信をしたことによって、こちらの世界での私のノルマは達せられたと言っても過言ではない。
いや、別にそんなノルマを設定した覚えはないけど、やっぱり、RTA配信者として売り出してきた以上は、一回くらいはやっておかないと落ち着かないのだ。
今回はもうする気はないけど、次回何するかのアンケートくらいは取っておいた方がいいかもね。
「この後の予定は決まってるの?」
「うーん、特には」
今日のRTA配信の後、何をするかは特に決まっていなかった。
というのも、やりたいことは大体やったからね。
強いて言うなら、お兄ちゃん達を観光に連れて行ってあげたいというのはあるけど、それも一応やったと言えばやったし。
いつもなんだかんだ一週間過ぎていたことを考えると、今回はだいぶ早い気がする。
こちらの世界に来る回数も増えて、効率化されてきたってことなのかな。
それはそれでちょっともったいない気がしないでもないけど。
「じゃあ、そろそろ帰るんだね?」
「なんでそんな嬉しそうなの」
「だって、また異世界に行けるもん!」
一夜は、目をキラキラさせながらこちらを見ている。
あんなことがあったというのに、なんでこんなに元気なのか、理解できない。
それに、連れて行ったら連れて行ったで、ルディと会わせなければならない。
あの、近くにいるだけで生気を吸い取られてしまいそうなやばい神様とだ。
一夜自身は何も感じていないようだけど、私からしたら一歩間違えたら殺されていそうで、気が気ではない。
せめて、一夜が変なことを言わないように見張っておかないと。
「はしゃぎすぎてへんなことしないでよ? ほんとに」
「わかってるよ。ハク兄は心配性だなぁ」
「実際に事が起こってるからこそ心配してるんだよ……」
一夜につける防衛対策として、防衛アクセサリーや結界、防御魔法など、様々なことを施してはいるけど、異世界の神様達は、それをものともしない。
あの時も、それらすべてを貫通して魅了をかけてきたわけだし、割とどうしようもないんだよね。
対抗できる術があるとしたら、同じく神様の力で対抗するくらいだろうか。
でも、そのためには私がもっと神様に近づく必要がある。
果たして、私はそれで正気を保っていられるだろうか?
創造神様が止めていることから考えても、私が神様に近づくのは、あまりよくない行為な気がしないでもないんだけど。人格への影響的な意味でね。
だから、できることと言えば、何か起こる前に帰ることくらいである。
今回こそは、きちんと予定通りに帰ってもらうとしよう。
全然気にしてない様子の一夜のことを心配しつつ、ベッドで横になる。
しばらくすれば、静かに眠りに落ちていた。
「……ん?」
ふと、何かの気配を感じて目を覚ます。
目の前に広がっているのは、暗闇。辺り一面真っ暗で、しかしながら自分の姿だけはよく見える不思議な空間。
これは、夢かな? 場所を考えると、ウルさんではなさそうだけど。
しばらく辺りを見回していると、不意に目の前に何者かが現れた。
青白い面をつけ、黄色いマントを身にまとった人物。そう、リクである。
「リクですか。わざわざ夢の中で呼び出すなんて、何か用ですか?」
『ねぇ、もう少しリアクションしない? いきなりぬって現れたらみんな悲鳴を上げるもんだよ?』
「予想してましたからね。リクならこうするだろうと」
『ああ、それはちょっと嬉しいかな? 僕らのことよくわかってるじゃん』
私の竜珠に住まう異世界の神様、リク。
本来は、病原体の王様として、目に見えないほど小さな存在なのだけど、夢の中では、こうしてその姿を見せることも可能である。
ある意味で、人々に恐怖を与えるために作られた姿ってことかもしれないね。
リクは、私の竜珠に住まう代わりに、世界に病原体を広めないという約束を交わしている。
今更だけど、リクをこちらの世界に連れてきたのはちょっと危なかっただろうか。一応、異世界の神様なわけだし。
「用があるなら直接話しかけてきたらよかったのでは?」
『気を利かせてあげたんだよ。この世界で僕らの存在が知れたら、多分世界中の神が君を殺しに来るよ?』
「えっ……」
リクの存在は、異世界の神様である以上は知られていないと思ったけど、こちらの世界では、似たような神様は存在するらしい。
病原体を振りまく性質を持っている以上、放置すれば世界が危機に陥ることは間違いないし、そうでなくても、世界に害を与えるであろう神様を放っておくほど、この世界の神様は甘くない。
まあ、一応私は交流があるから、問答無用で殺しに来るってことはないとは思うけど、問題を起こすなとは言われているし、特大の問題の種であるリクのことが露見すれば、確かにどうなるかわからない。
「それは、ありがとうございます……?」
『まあ、僕らとしても君がいなくなったら住処がなくなっちゃうからね。それくらいのサービスはするさ』
今までずっと喋りかけてこなかったのは、そう言う理由があったってことか。
しかし意外だな。リクのことだから、この世界はあちらの世界とは関係ないから、病原体ばらまきますとか言ってもおかしくないのに。
それだけ、私の体が快適ってことなんだろうか。
ちょっと複雑な気分ではあるけど、この世界に危害が及ばないのであれば、それはそれで嬉しい。
『で、それはいいとして、ちょっと伝えたいことがあってね』
「伝えたいこと?」
『そう。あっちの世界だと、猫の神やらクイーンやらどこで聞かれるかわかったもんじゃないしね。ちょうどいいタイミングだし、話しておこうかと』
そう言って、リクは顔を近づけてくる。
あちらの世界だと話せないような話? そんな重要なことなんだろうか。
私は、ごくりと息を飲む。
『まず言いたいのは、いつまで閉じこもっているのかってこと』
「閉じこもってる……? 私がですか?」
『そう。君は能動的にクイーンを探そうとはしていないだろう?』
それは、確かにそのとおりである。
しかし、それは調べる術がないからであり、今ではウルさんを始めとした協力的な神様の力を借りて、クイーンの居所を探っている最中である。
何か見つかれば、すぐさま報告が来ると思うし、あくまで人間である私が何か行動することはないと思うんだけど。
『そう、その思考が問題。それじゃあ、クイーンはいつまで経っても表舞台には出てこないよ?』
そう言って、リクは私の鼻を指で押してくる。
私が探さなければ、クイーンは出てこない? 一体どういうことだ。
私は、若干刺激臭を感じる指を払いのけながら、その真意を問うのだった。
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