第六百十二話:先輩とショッピング
虚無の時間を終え、何着かの服を購入した後、いい時間になったので、お昼を食べることになった。
フードコートに行くと、お昼時ということもあって、多くの人で賑わっている。
各々、好きなものを注文し、席を確保して、食べることになる。
ちなみに、私が頼んだのはラーメンだ。
ラーメン、頑張れば作れるのかもしれないけど、いまいち再現できそうにないんだよね。
聖教勇者連盟なら、すでに再現しているのかもしれないけど、ここで食べられるなら、こっちで食べた方が断然楽である。
「ハクちゃん、そんなに食べられます?」
「まあ、食べようと思えば」
「無理しちゃだめですよ?」
別に大盛で頼んだわけではないが、どんぶりが結構大きく、私の顔が隠れるくらいある気がする。
ラーメンのどんぶりってこんなもんだっけ? まあ、食べられるとは思うけども。
「それにしても、ハクさんがここまでとは想定外でした」
「手の大きさからそこまで身長高くないんだろうなとは思ってましたけど、まさか本当に小学生並みとは思いませんでしたね!」
「どっきり大成功ですね」
「どっきりではないでしょ」
話題は、私のプライベートの話題となる。
設定的には、私は一夜の妹ということになっている。
これは、血の繋がりがあるというわけではなく、妹のように可愛がっているという意味であり、実際見た目を考えても、明らかな外国人である私と血が繋がっているのはおかしいだろう。
この辺りは、一夜としては不満らしいけど、流石に、これで血の繋がりがあるとか、ないにしても養子として本当の妹なんだとか言うよりは、こっちの方がましだと思う。
「あの時言っていた年齢が本当だとしたら、一夜より年上なんですけど、それなのに妹?」
「そこはほら、この見た目ですし」
「まあ、そう言われれば確かに」
突っ込まれるであろう部分はあらかじめ打ち合わせ済みである。
にしても、ほんとに私の年齢ばっかり聞くよね。
そんなに気になる? いや、気持ちはわかるんだけども。
一歩間違えば、失礼に当たると思うけどなぁ。
「たまに子供の頃から全然容姿が変わらない人いますけど、ハクちゃんの場合はそれが顕著ですよね」
「なにかの病気とかではないんですよね?」
「まあ、ある意味病気ではあるかもしれませんが」
「え、だ、大丈夫なんですか?」
「あ、いえ、大した問題ではないので、大丈夫ですよ」
私の容姿が変わらないのは、精霊だからなんだけど、人間として考えるなら、それはある意味病気かもしれないと思っただけで、別に私の体は健康そのものである。
いや、病原体の王様みたいな奴を体の内に飼っているんだから、ある意味病気かもしれないけどね。
というか、最近静かだけど、寝てるんだろうか?
こちらとしては、余計なことされないだけありがたいんだけど。
「ハクちゃんみたいな妹がいて、一夜ちゃんが羨ましいです!」
「ふふ、それほどでも」
「私としては、一夜の方が妹なんですけどね」
「背伸びしている感じも可愛いです!」
正式に年齢がこちらの方が上ということが暴露されたわけだし、ここは一つ、こちらの方が上だということをアピールしようかと思ったけど、ヒカリ先輩に一蹴されてしまった。
うん、まあ、わかってたよ。この姿なら仕方ない。
その後も、他愛もない話をしつつ、昼ご飯を食べ終える。
思ったよりおいしかったな。特に卵が最高だった。
また食べに来たいと思いながら、次なる行動を考える。
一応、すでに数軒回って服はある程度揃えたわけだけど、次は何を買うべきだろうか。
「あれ、こんなところにこんなお店あったっけ?」
歩いていると、不意に一夜が足を止める。
そこにあったのは、駄菓子屋だった。
赤い暖簾が下がっており、中には数々の駄菓子が置かれている。
以前にも、特産店みたいな感じで、駄菓子が売られている店に寄ったことがあったけど、ここはそう言うのではない、きちんとした駄菓子屋のようである。
まさか、ショッピングモールでこんなお店に出会えるとは思わなかった。
「はっちゃん、寄りたい?」
「うん、ぜひ」
「それじゃ、寄って行こうか」
駄菓子に目がない、というわけではないが、やはり懐かしさというものはある。
今回は、駄菓子だけで、おもちゃなどは売っていない様子だったけど、種類はかなり多かった。
特に、瓶コーラが売っているのは印象的だったな。
前世では、よく飲んでいた気がするけど、いつの間にか瓶がなくなり、缶すらも見なくなり、ペットボトルしか見なくなった。
別に、容器が変わっても味は同じだと思うけど、やっぱり瓶は何か、趣というか、なんとなく惹きつけられる魅力がある。
とりあえず買っておくことにした。
「ハクちゃん楽しそうですね!」
「服を見ていた時はあんなに無頓着だったのに、こう言うところは子供らしいですね」
なんだか、先輩二人が微笑ましい目で見ている気がするけど、駄菓子は大人でも懐かしさで買いたくなるものだと思う。
他にもいくつか購入し、満足して店を出る。
瓶コーラは瓶を返さなくてはならないから、その場で飲むしかなかったけど、他のお菓子は後でゆっくり楽しませてもらうとしよう。
「次はどこ行きます?」
「あ、せっかくだからゲーセン行きません? ほら、あそこにありますし!」
そう言って、ヒカリ先輩が指さした先には、ゲームコーナーがある。
ここは、以前にも寄ったことがあり、その時は一夜とバトルを繰り広げていた。
ゲームは好きだし、少なくとも着せ替え人形になるよりはましなので、さっそく行くことにしよう。
「クレーンゲームやりましょう! 何か欲しいものありますか?」
「光先輩はクレーンゲーム得意なんですか?」
「勢いがあれば大抵のものは取れますよ!」
「そりゃ五千円近くかければ大抵は取れるでしょうね」
てっきり得意なのかと思ったけど、ルイン先輩の発言でそんなことはないと思い知らされた。
まあ、クレーンゲームって貯金箱とも呼ばれているらしいからね。熱中して連コインしてくれる人ほどカモなものはない。
うまい人は、一回で取れるらしいけど、私はそこまでうまくない。
まあ、取れなくても楽しめることは楽しめるし、とりあえず取りたいものをやっていけばいいんじゃないかな。
「あ、これ……」
ふと、あるクレーンゲームが目に入る。
そこには、見覚えのあるキャラのぬいぐるみが景品となっていた。
何を隠そう、ルイン先輩とヒカリ先輩である。
「ああ、ここにもあったんですね」
「グッズ化してたんですか?」
「ええ。二期生もしているはずよ」
「へぇ……」
ヴァーチャライバーの事務所として、しっかり商品展開しているらしい。
私も、いつかはこうやって商品化されるんだろうか。ちょっと楽しみな気がしないでもない。
そんなことを考えながら、ひとまずそのクレーンゲームをプレイするのだった。