第六百十話:ルート取りと待ち合わせ
検証の結果、とりあえず何とかなりそうではあった。
もちろん、既存のルートよりは圧倒的に遅いのだけど、通常プレイと比べたら、圧倒的に早いタイムでクリアまで行けることが判明した。
こんな大ボリュームのゲームが、こんな短時間でクリアできるとは。なんだかとてももったいないことをしているような気がする。
「意外と何とかなるもんだね」
(コメント)
・流石のプレイスキル
・いつもと比べるとキレがないけど、それでもうまい
・流石に完全初見では難しかったか?
・ラスボスも嵌められなかったしね
・ちょっと新鮮な気分
「やってて思うけど、これを平然と三十分切りする人はどれだけ凄いの?」
(コメント)
・それはそう
・言うてハクちゃんもグリッチ解禁したらできそうだが
・日々新しい技が発見されて、その度に難しくなってるからな
・ハクちゃんにそれを言う資格はないと思う
・緑の勇者は毎回記録出してる人もいるしな
・操作精度がおかしい
このゲーム、これまでのシリーズと違って、武器が壊れる仕様がある。
どんなに強い武器を持っていたとしても、耐久値を使い果たせば、問答無用で壊れるから、強い武器一本持って最後までそれで走るというのはできない。
その代わり、武器は複数持つことができ、剣の他にも、斧や槍など、様々な武器を使えるのが今作の面白いところではあるんだけどね。
シリーズでおなじみの退魔の剣も、最初は持っておらず、きちんとストーリーを進めないと手に入らないので、RTAでは当然手に入らない。
武器が壊れるってことは、ぎりぎりの調整ならリカバリーはできないってことだし、相当な操作精度がなければ、やろうとは思わないだろう。
そりゃ、私も身体強化魔法を用いれば、ある程度はできるかもしれないけど、そんなずるなしでやってる人達は本当に凄いと思う。
「ひとまず、一日で終われそうだから、次はこのゲームのRTAだね」
(コメント)
・やったぜ
・見てた限り、新鮮で面白いルートだった
・グリッチレス部門なら余裕で一位取れそう
・そもそもグリッチレスってあるのか?
・走者が日々研鑽してる技が大体グリッチだから、あったとしてもやる人めっちゃ少なそう
次にやるRTAも決まったところで、お次はルート構築である。
一応、ある程度通しでやった今のルートは、既存のルートを参考にしてやったものだけど、グリッチを使わないなら、もっと最適化されたルートがあるかもしれない。
まあ、どうしようもない部分はあるとは思うけど、多少は詰めた方が、RTAとしては面白いだろう。
幸い、時間はまだある。リスナーさん達の意見も借りながら、ルートの構築をするのだった。
「……ふぅ、とりあえずこんなものかな?」
(コメント)
・ルート構築になるとやっぱりガチになるよね
・白熱した
・塔を降りるルートの最適化とかどこに需要があるのかと思うけど、これはこれで面白い
・俺達が考えたルートを即座に反映できるハクちゃんの実力よ
・初見とは思えない
時間も過ぎて、日付が変わる前。
いい感じにルートも出来上がってきたので、今日のところはこれで終わることにする。
グリッチがない分、難しい操作は控えめではあるけど、細かいところの最適化をしようとすると、やはり高い操作精度が要求される。
さて、今回も無事に完走できるといいのだけど。
「それじゃあ、今日はここまで。お疲れ様でした」
(コメント)
・おつー
・お疲れ様でした
・おつかれー
・お疲れ様
締めの挨拶を終え、配信を終了する。
椅子に背を預け、ふぅと息をつくと、後ろで待機していた一夜が肩を叩いてきた。
「お疲れ様」
「ありがと。なかなか白熱したね」
RTAは、実際に走るのも面白いけど、ルートを考えるのもなかなか面白い。
特に、リスナーさんから思いもしなかったルートを提案された時は、その手があったかと唸ることもある。
ゲームをやり込んでいないと思いつけないようなこともたくさんあるので、そう言う助言はありがたかった。
「私にはできそうにないなぁ」
「一夜はRTA好きじゃない?」
「好きか嫌いかで言えば、多分好き寄りだと思うけど、自分でやろうと思うと、あんまりやりたいとは思わないかな」
見るのは好きだけど、自分でやるほどではないってことか。
まあ、RTAって、実際にやろうと思うと、なかなかハードルが高いからね。
どんなゲームにも技と呼ばれるものはあるし、それは普通にプレイしているだけじゃなかなか身に着くことはない。
RTAを走ろうと練習しても、フレーム単位の操作精度が要求される場合だとなかなか身に着かないだろうし、よほどの情熱がなければそこでやめてしまうと思う。
私みたいに、フレーム単位でスローで見ることができるならともかく、実際にはほとんど感覚だろうしね。
多分、一夜ならそれでもできると思うけど、わざわざ練習してまでやりたいと思わないって感じだろう。
まあ、見るのが好きなのとやるのが好きなのは違うものだしね、別に強制するつもりはないし、一夜がそれがいいなら特に咎めることもない。
「それより、明日は先輩と会うんでしょ? 早めに寝ないと」
「それもそうだね」
待ち合わせ場所は、よく利用しているショッピングモールである。
あそこは、色々なお店があるから、ショッピングするにはもってこいの場所だろう。
と言っても、私は特に買いたいものは思いつかないのだが。
強いて言うなら、フードコートでご飯を食べたい。
なんだかんだ、こちらの世界の料理は美味しいからね。
後片付けを済ませ、ベッドに入る。
初めてオフで会うけれど、一体どんな人だろうか。
そんなことを思いながら、眠りについた。
翌日。準備を整えて、少し早めに出発する。
ルイン先輩は、私がこのあたりの地理に慣れていないかもしれないと言っていたけど、すでにこちらの世界には何度も来ている。
積極的に外出することはあまりないけど、不慣れって程ではない。
なので、特に迷うことなく、待ち合わせ場所に辿り着くことができた。
「ちょっと早く着きすぎちゃったかな」
ショッピングモールの入り口にある噴水広場の前。
平日ではあるけど、人は結構たくさんいて、同じように待ち合わせしていると思われる人もちらほらいる。
スマホで時間を確認してみたが、待ち合わせより、十五分ほど早い。
見たところ、二人ともまだ来ていないようなので、適当に時間を潰すことにする。
「飲み物でも買ってこようか?」
「それなら私が買ってくるよ」
「そう? 悪いね」
どうせ暇なので、ちゃちゃっと買ってくることにした。
近くの自販機に行き、リクエストされた飲み物を買う。
なんか、地味に高くてボタンが押しにくかったけど、こう言う場面になると大人モードになりたくなってくる。
流石に、これから先輩に会うのに姿を変えるわけにはいかないから、適当にジャンプして押したけども。
「……ん?」
飲み物を手に入れて戻ってくると、一人で待っていた一夜の隣に、二人の男性がいた。
見るからにチャラそうな雰囲気で、馴れ馴れしく一夜の肩に手を回そうとしている。
やれやれ、こんな平日からナンパか?
一夜が可愛いのはわかるけど、私がいない時にピンポイントで仕掛けるのはちょっといただけない。
私は、心の中でため息をつきつつ、文句言ってやろうと近づいていく。
さて、どうしてくれようか。
感想ありがとうございます。