第六百八話:アンケート結果
しばらくして、信之さんがやってきた。
葵ちゃんが寝てしまったことを伝えると、そいつは悪いことをしたと笑いながら謝ってくる。
まあ、寝なかったら寝なかったで泊って行けと言われる気がするから、こちらとしては寝てくれて助かったけどね。
「起こすのも悪いですし、時間も時間なので、そろそろお暇しようと思うのですが」
「そうか。葵は残念がるだろうが、まあ、仕方ねぇな」
「また機会があれば立ち寄りますので、葵ちゃんにはよろしくお伝えください」
「わかった。送迎はいるか?」
「いえ、大丈夫です」
また遊びに来る約束をして、家を後にする。
門まで出迎えに来てくれた信之さんは、終始笑顔ではあったけど、なんとなく、何か言いたげな感じがした。
やっぱり泊って行って欲しかったんだろうか?
葵ちゃんとは遊びを通じてそれなりに話しているけど、信之さんとは全然話していないからね。
一応、表向きには何かの会社をやっているというのはわかるけど、裏のことを話す気にでもなったんだろうか。
まあ、私にとっては関係ないけどね。
そんなことを考えながら、家を後にするのだった。
「……あながち、話があるって言うのは本当かもね」
家を出て、人気のないところで転移をしようと思ったのだけど、なぜか背後につけてくる気配を感じる。
すでに夕方過ぎだから、目視での確認はなかなか難しいけど、恐らくは信之さんのところの黒服達だろう。
以前のように、行く手に立ち塞がるようなことはしてこないから、恐らくは尾行して私のことを探ろうとしているってところかな。
今のところ、良好な関係を築けていると思っているし、わざわざ尾行なんかして、相手の心証を悪くする必要はないと思うけど、やっぱり、葵ちゃんのことが心配なんだろうか。
いくら私が表面上は仲良くしているとは言っても、私の素性は謎に包まれている。
見た目が小学生の成人女性、というだけならまだしも、定期的に電話は繋がらなくなるし、住所の特定すらできていない。
今までは、関係性を大事にして少し遠慮していたのかもしれないが、そろそろ私のことを詳しく知って、本当に葵ちゃんに近づけるべき人物かどうかを見定めるべきだと判断したんだろう。
まあ、実際私は敵対組織である正則さんの味方ではあるからね。素性を怪しんで、調べるのは間違ってはいないと思う。
ただ、仮に信之さんにとって悪い結果になったとしても、葵ちゃんは納得しなさそうだけどね。
もし都合が悪くなったら、やっぱり消しに来るんだろうか。相手が物言わぬ屍になれば、どうとでも言い訳できるし。
「まあ、心配性なのは悪いことではないし、そのうちそれとなく話してあげようかな」
一応、気配を察知することはできるから、尾行には気づけるけれど、探知魔法に頼れないので、万が一ということもある。
一夜のマンションがばれるのは問題が多いし、それを機に一夜に迷惑がかかるのは避けなければならない。
だから、本格的な調査がされる前に、こちらから話しておくのも悪くないと思う。
今日のところはさっさと撒いて帰るけどね。
曲がり角を曲がった瞬間、隠密魔法で姿をくらませる。
すぐに、人がやって来て、きょろきょろと辺りを見回していたけど、やっぱりあの黒服さん達だった。
まあ、報告は適当にやっておいてね。
そんなことを思いつつ、転移で帰るのだった。
「ただいま」
「お帰りー。遅かったね」
部屋に入り、一夜の出迎えを受ける。
友達の家に遊びに行くだけというなら、確かに少し長かったかもしれない。
葵ちゃんじゃなかったら、もう少し早く帰っていたかもしれないけど、まあ、相手が悪いよね。
もう時間も時間なので、夕ご飯の準備に取り掛かる。
そう言えば、今日の配信はどうしよう?
ヒカリ先輩の企画のことで頭がいっぱいで、それ以降のことをあまり考えていなかった。
せめて、何かしらのRTAに挑戦したいとは思っているけど、何か手頃なゲームはないだろうか。
以前みたいに、サブミッションをこなそうとしたら本編をやらされるみたいな展開はなしにしたいけど。
「確か、アンケート取ってたよね」
次回やるRTAについて、SNSの方でアンケートを取っていた気がする。
さっそく確認してみると、すでに結果が出ていた。
票は結構割れていて、返信欄でも、新作ゲームをやって欲しい派と、懐かしのゲームをやって欲しい派で分かれている印象。
勢力はほぼ拮抗していて、アンケート結果としては、わずかな差で緑の勇者の新作をやって欲しいという意見が多かった。
緑の勇者のゲームか、確かに、以前からやるやる言って結局やっていなかった気がする。
軽く調べた限りでは、100パーセントRTAをしようと思ったら、余裕で丸一日溶けると聞いていたので、あまり手が出せなかったんだけど、any%でもいいからやって欲しいという意見が多く、今回はそれが結果に表れた形だ。
any%であれば、時間はそこまでかからない、らしい。
ただ、その分技術が求められることが多いらしく、中にはグリッチまがいのこともたくさんあるらしい。
私は、グリッチはなるべく使わないという縛りを設けているから、あんまりグリッチばかりになると困るんだけど……。
とりあえず、調べてみようか。
「えーと……?」
晩御飯を食べ終え、軽く調べてみる。
一応、早ければ一時間もかからないらしい。
なんだそんなに簡単ならすぐに終われるなと思ったけど、どういうルートかを調べると、頭を抱えたくなった。
初手からグリッチのオンパレードで、もはや普通に進むことの方が少ないくらいである。
このゲームは、オープンワールドゲーということで、見える場所にはすべて行くことができ、さらに言うなら、できることはなんだってやっていいみたいなスタンスみたいだけど、運営も想定していないグリッチも多くあるようなので、これを使うのは流石にだめだと思う。
うーん、どうしよ……。
「アンケート結果に従うなら、これをやるべきなんだろうけど、ここまでくると、グリッチなしのルートを構築する方が難しそう」
多分、グリッチレスのルールのものも探せばあると思うが、今は時間がない。
ひとまず、今日のところは雑談配信にして、リスナーさんにお伺いを立ててみるのがいいかな。
結論を出し、とりあえず配信の準備をする。
もはや、とりあえずの域で配信の準備をしているあたり、だいぶ慣れてきたものだ。
「それじゃあ、始めるね」
「うん、頑張ってね」
一夜に確認を取った後、配信をスタートさせる。
さて、どうなることやら。
感想ありがとうございます。