第六百五話:感想戦
「さて、名残惜しいですが、そろそろお別れの時間が迫ってまいりました!」
それから、お互いにドラゴンとしての価値観というか、ドラゴンとして何をすべきかを話し合った。
ルイン先輩は、魔王ということにあまり固執はしていないらしい。
設定として、守らなければならないものではあるけど、今の自分こそが本当の自分であり、ヒカリ先輩達と共に学園を満喫できたら、特に欲しいものはないようだった。
魔王だったドラゴンが、聖女の優しさに触れて改心した、みたいな感じかな?
一応、ドラゴンとしての立ち絵もあるのだけど、そちらが使われることはほぼないらしい。
なにせ、全然ドラゴンの姿にならないからね。
私としては、どこかのタイミングで見てみたい気もするけど。
「それにしても、ハクちゃんは流石ですね。思わず引き込まれてしまいました!」
「ただ事実を喋ってるだけなんですけどね」
対して、私は日々の日常のことを語った。
元々、私は精霊であって竜ではない。竜の力を持っているけれど、それはあくまで血とスキルの影響であって、本当の自分というわけではない。
竜の力に頼るのは、せいぜい移動くらいであり、仮に戦闘が起きたとしても、大抵は魔法でどうにかするのがいつもの光景である。
ドラゴンの力に頼らないという意味では、ルイン先輩と似ている部分もあるけど、決定的に違うのは、ルイン先輩は魔王で、私はそうではないということ。
立場だけで言うなら、私にとって魔王は、敵の部類に入る。
だから、世界を脅かすような敵、すなわち魔王のような者が現れたら解決しようとする。
実際、クイーン関連で同じようなこともやっているしね。
私にとっては、ごく当たり前のこと。でも、設定として考えると、とても練られていて、即興では考えつかないようなことである。
その結果、ルイン先輩と比べて、話の厚みに大きな差ができ、それ故にヒカリ先輩もそう言う評価をしたんだろう。
事実を設定として話すことができるって、ある意味とても強い切り札なのかもしれない。
(コメント)
・ヒカリン、ほんとに事前に何聞くか言ってないんだよね?
・予想してきたにしては的確過ぎる
・日頃から設定練ってる証拠だね
・それってちゅうに……
・おい、そこまでだ
・この箱にはそれは必須のスキルでは?
・ファンタジーモチーフが売りだからな
・ある意味でVファンタジーらしい人材
コメントでも、私の設定の深さについて言っている人は多い。
なんか、あんまり言われると、騙しているようで罪悪感があるけど、でも、私はただ、事実を述べているだけで、設定を話すことは稀である。
であるなら、それを信じるかどうかは相手次第であり、私に責任はないとも言える。
本来なら隠した方がよさそうな、RTAで魔法を使っているって言うのも堂々と話しているしね。
「ハクちゃん、今日の企画はどうでしたか?」
「ルイン先輩を知るいい機会になりました。ご招待いただきありがとうございます」
「ほんとはハクちゃんをみんなに知ってもらうための企画なんですけどね。でも、そう思ってくれるなら嬉しいです!」
最後に、リスナーの皆さんに、私のことを理解できたのかを問う。
コメントでは、多くの肯定的なコメントが寄せられ、ヒカリ先輩もそれを見て、うんうんと頷いていた。
「では、今回はハクちゃんを知る会でした! 次回はもしかしたら三期生の誰かになるかも? お楽しみに!」
締めの挨拶を終え、配信を終了する。
私は、椅子に背を預けて、ふぅと息をついた。
初めての対談企画ということで、知らずのうちに緊張していたのかもしれない。
いきなりゲームをやらされたり、学力対決をしたり、予想外のこともたくさんあったしね。
次回は三期生の誰かと言っていたけど、もし同じようなことをするなら、大丈夫だろうか。
スズカさんはともかく、他の二人は緊張で何もできなさそうだけど。
ああでも、最近は積極的にコラボしているらしいし、耐性はある程度ついているのかな?
また私に頼るようなことがなければいいけど。
『ハクちゃん、委員長、お疲れ様でした!』
『お疲れ様でした』
「お疲れ様でした」
時刻は23時くらい。いつもの私の配信と比べると、少し早い時間。
ここからは感想戦だ。お互いに労いの言葉をかけ、先ほどの配信について振り返る。
『いつも思ってましたが、流石ハクちゃんですね! 異世界のこととゲームのことなら何でもできそうです!』
「何でもはできませんよ。ただ、事実を喋ってるだけです」
『当然のようにそう言えるのも筋金入りですね! 私はそう言うのあんまり気にしたことないです!』
『私もそうそうに設定は崩壊してしまいましたからね。ハクさんのように、しっかりと我を持てるのは素晴らしいです』
「ありがとうございます」
『Vファンタジー』は、元々がファンタジーを中心とした設定を重視している集まりである。
だからこそ、所属しているヴァーチャライバーはそれなりにファンタジーに関しての知識を備えているし、日々勉強している。
でも、それを設定に生かせる人は少ない。
ファンタジーについての深い造詣があったとしても、それはあくまで空想上のキャラであって、自分ではない。
それを自分自身であるかのようにふるまうのがヴァーチャライバーだと言われたらそうかもしれないが、100パーセントキャラになり切るのは無理がある。
だから、どこかで妥協し、本当の自分と設定としての自分を組み合わせた姿になるのが普通であり、それが人間味を際立たせたり、ギャップを感じさせたりして人気となっているのだ。
そんな中で、私はかなり設定に忠実な方である。
最初こそ、現実に寄せるために、海外から来たとか色々設定を考えたりしたけれど、最近ではそれもほとんどやってない気がするし、私自身の姿というのがなかなか見えてこない。
私からしたら、設定こそが本当のことだからあれだけど、周りから見れば、どれだけ設定に忠実なんだと思うだろう。
私が人気が出ているのは、そんな設定に忠実な部分と、後は小学生と間違われるくらい手が小さいことだろうか?
元々『Vファンタジー』を追っていたファンからしたら、割と新しい部類の新人なのかもしれないね。
『それにしても、私より年上って本当ですか? ちょっと信じられないんですが』
「ルイン先輩が何歳かは知りませんが、大体本当のことですよ。ちょっとずれがあるかもしれませんが」
『ずれ?』
「正確な誕生日を覚えていないので。一応これだろうという日はありますが、記憶を取り戻した時点でも、本当に10歳だったかわかりませんし」
『な、なるほど。でも、成人は確実にしていますよね?』
「それはもちろん。私の姿を見ても信じられないと思いますけどね」
姿が一切変わらないから、たまに本当にこの年だったっけと思う時はある。
まあ、別に何歳だろうが関係ないけどね。
実際会ったらどうなるかはわからないけど、せめて成人扱いしてくれたらいいな。
そんなことを思いながら、心の中で小さくため息をついた。
感想ありがとうございます。




