第六百四話:ドラゴンとしての自己紹介
「それでは、お次はハクちゃんの自己紹介をどうぞ!」
よくよく考えると、今更自己紹介なのかと思わなくもないが、それは置いておいて。
私は自分の竜姿について語りだす。
私の竜姿は、決して大きくはない。
一応、数人くらいなら背中に乗せられるくらいには大きいけど、ルイン先輩のように、ビルほど大きいというわけではない。
お父さんなら、それくらいはあるかもしれないけど、それでも多分ルイン先輩の方が大きいだろう。
私の売りは攻撃力ではなく、スピード。小柄なのを生かして、かなりの速度で移動することができる。
いつもは、転移魔法で移動してしまうけど、全く知らない場所に行く時は、竜の翼を使うことも多い。
後は、竜神モードもあるけど、あれは言わなくていいだろう。
私が神様の力の一端を持っていることは話していないし、あえて触れる必要はない。
私が自己紹介を終えると、ヒカリ先輩もルイン先輩も、しばらく無言であった。
な、何か変なこと言っただろうか?
「……流石ですね。私とは比べ物にならないくらい、設定が深い」
「容易に想像できましたね! 銀竜って言うのもかっこよくていいと思います!」
(コメント)
・まるで目の前にいるかのように想像できた
・設定が深いとそれだけ説得力があるよな
・委員長の雑に強い設定もいいけど、作り込まれた設定もいいね
・攻撃力はそこまででもないって言ってたけど、竜王の娘ならそれだけで攻撃力やばそう
・勝負したらどっちが勝つかな?
・流石に委員長でしょ
そこまで深く語ったつもりはないのだけど、それでも好評のようだった。
竜を想像でしか見ることができないこちらの世界と違って、あちらの世界には本物の竜がいるからね。その差もあるのかもしれない。
「コメントにもありましたけど、勝負したらどっちが勝ちますか?」
「流石にルイン先輩だと思いますよ。私は荒事は苦手なので」
「ですが、ハクさんは魔法が得意なのでしょう? 力任せにしか攻撃できない私と比べたら、そちらの方に軍配が上がりませんか?」
「魔法は得意ですが、小手先だけじゃ圧倒的な力には勝てません。結局、力がすべてですから」
私も、魔法の研究を重ねて、ほぼノーコストで魔法を撃てるようにしたり、魔法陣の重ね掛けによって強力な魔法を放てるようになったりしているが、結局のところ、圧倒的な力には勝てないと思っている。
それは、異世界の神様と対峙した時に、痛いほどわかった。
特に、直接やり合ったタクワは、あちらがこちらに興味を持って和解の道に進んでくれなければ、そのまま殺されていてもおかしくない。
相手と対等な力を持っているなら、小手先の技術も役に立つかもしれないが、圧倒的な力の前には、そんなもの無意味なのだ。
「まるで体験したかのような言い方ですね」
「実際体験しましたからね。私は圧倒的な敗北をしました」
「な、なるほど……それなら、私が勝つかもしれませんね」
(コメント)
・なんか達観してる
・確かに、結局は力押しが正義みたいなところあるしな
・戦いは数だよ兄貴
・ジャイアントキリングって憧れるけど、そうそう起きないよなぁ
・ハクちゃんはRTAって言う強みを生かしていこう
・RTAで戦うドラゴンってなんか嫌だな
・勝負しろ! ただしRTAでな、ってこと?
・わろた
・実際委員長の力は圧倒的だし、テクニカルタイプっぽいハクちゃんは不利かも
まあ、仮に実力云々を抜きにしても、設定的に、後輩が先輩に勝っちゃうのはなんか違う気もするしね。
ルイン先輩は戦う気はないだろうけど、もしそう言う展開になったら、負けておいた方がいいだろう。
時と場合に寄るかもしれないけど。
「ルイン先輩って、退屈しのぎに学園に行って、いつの間にか委員長になっていたんですよね?」
「ええ、そうですね」
「じゃあ、それ以前は、どういう風に暮らしていたんですか?」
せっかくなので、ここは設定に乗って聞いてみる。
世界の魔王であるルイン先輩は、それこそなんでも手に入れられた。けど、元々真面目な性格だったということであれば、手当たり次第にそういうことはしていなかったはず。
もちろん、設定だからそんなの考えていないかもしれないけど、今のルイン先輩自身がどう思っているのかを知れれば、それは立派な設定になる。
ヒカリ先輩が、ちらりとルイン先輩の方を見る。
ルイン先輩は、少し驚いたように目を見開いた後、少し考えてから口を開いた。
「……正直、よく覚えていません。魔王として君臨していた以上、私は暴虐の限りを尽くしていたのでしょう。ですが、それを今の私と結びつけることができていない」
「記憶がないってことですか?」
「もしかしたらそうかもしれません。あるいは、以前までの私は別人で、ここにいる私は魔王でも何でもないのかもしれません」
真面目であるが故に、明言を避けたって感じかな。
確かに、今の委員長らしい性格と、暴虐の限りを尽くす魔王では、似ても似つかない。
リスナーさんは、そのギャップが面白いと思っているようだけど、初めからそんな性格だったなら、学園に入った際に、ぼろが出ているはずだ。
だから、何かしらの理由があって変わることができた。その際に過去の自分との繋がりが薄れ、その時の記憶が曖昧になった。
逃げのようにも思えるけど、この方が、委員長としてはいいのかもしれない。
リスナーさんからしたら、今の委員長こそがルイン先輩なんだから。
「それなら、魔王討伐する必要もないかもしれませんね」
「おや、ハクさんは私が魔王だったら、倒す気だったんですか?」
「世界に仇成す敵がいるなら、倒さなくてはなりません。でも、ルイン先輩は、そんなことしないでしょう? それなら、たとえ魔王だったとしても、私から何かすることはありません」
(コメント)
・なんか勇者っぽいこと言ってる
・どっちかというと聖女では?
・確かに魔王って普通は倒される存在ではあるよな
・委員長に限ってそんなことはしない
・善の魔王だからね
・いい感じに設定に乗っかって来たな
・でも、勝てないんじゃどっちにしろ挑めないんじゃ?
・ハクちゃんなら、たとえ勝てなくても挑んでいきそう
・ハクちゃんの世界にも魔王っておるんかな
「魔王と呼ばれる存在は何体かいましたよ。一応、私も何度か戦ったことはあります」
魔王と言っても、RPGのように魔王城でふんぞり返っているってわけではなくて、人類にとって脅威となる魔物をそう呼んでいるだけだと思うけどね。
以前は、勇者召喚によって対抗していたけど、お父さんが魔王と呼ばれるようになってからは、魔王の出現も止まっている。
止まっているというか、多分お父さんが事前に駆除しているからだろうけどね。
私が戦ったことがあるのは、神様の力を得るために修行した空間でのこと。
あれは本物ではないだろうけど、その実力だけは本物だったと言える。
神様の力があったから、何とか勝てたけど、竜の力だけだったら、もしかしたら負けていたかもしれない。
あの100年の修業はもう二度とやりたくないけど、いい経験ではあったかな。
ざわつくコメント欄を見ながら、ヒカリ先輩の方を見る。
思ったよりも長尺になっているけど、時間は大丈夫だろうか?
そんなことを考えながら、次の話題を考えた。
感想ありがとうございます。