第六百三話:ドラゴン対決
その後も、色々な教科で対決が行われた。しかし、算数以外では、ほとんど満点とはいかなかった。
例えば社会。ある程度覚えてはいたが、細かい年号や、人物の名前など、憶えていないことも多かった。
理科は、一応得意分野ではあったんだけど、忘れていることも多く、答えを聞いてから、あっと察することが多かった。
生物に関しては、多少奮闘はできたけど、あちらの世界での知識が邪魔をして、答えられない場面が多かった。
結局、あちらの世界での経験が、こちらの世界の知識とごっちゃになって、うまくできなかった感じだね。
算数だけは、あちらの世界でも特に変わりはないから楽にできたけど、それ以外はあまりいい結果とは言えなかった。
いい大人だったのに、ちょっとショックである。
「終了! 最初、計算問題では互角でしたが、その後は終始委員長の圧勝でしたね!」
「ちょっと残念です……」
(コメント)
・いや、頑張ったよ
・全問正解の委員長がおかしいだけ
・計算だけめちゃくちゃ速いのは、やっぱり頭の回転が速いからなのかな
・RTAルートの構築とか、シミュレートするのが得意なのかも
・ハクちゃん、ワンチャンガチの小学生かと思ったけど、それにしては正答率が低すぎるか?
・ガチ小学生は草
・流石に成人してるやろ
・お前あのおててを見てもそう言えるか?
・成人してないかもしれない
「いや、成人してますからね?」
コメントが何やら失礼なことを言っているが、そんなに成人してないように見えるだろうか?
いや、確かに、手は小さいし、何なら身長も小学生並みだけども。
意識したことはないけど、多分声もそれくらいに聞こえるんだと思う。
でも、これまでの言動を見て、大人であることはわかりそうなもんだけどな。
これもリスナーの理想という奴なんだろうか。だとしたら、ちょっと納得いかないけど。
「確かに、手が小さいですよね。実際のところ何歳なのか、こっそり教えてくれませんか?」
「ヒカリ、失礼ですよ」
「えー、でも気になりませんか? ハクちゃんの年齢」
「まあ、気にはなりますけど……」
(コメント)
・ハクちゃんの年齢は確かに気になる
・中の人の年齢を聞くのはご法度だけど、気になるものは気になる
・成人はしてるって言ってるけど、実際はどうなのか
・成人してる線より、天才小学生って言われた方が納得できる
・ヒカリンも委員長も会ったことないん?
「まだ会ったことはないですね!」
「私も同じく。会って見たいとは思いますが」
いつの間にか、話題が私の年齢の話になっている。
確かに、先輩達にはまだ直接会ったことはないけど、会ってもいいものだろうか?
いや、別に隠すようなことはないし、会っても問題ないとは思うけど、この姿を見られたら、本当に成人しているのかと疑われそう。
アケミさん達は、私の事情を知っているから、納得しているだろうけど、それがなければ、見た目はほんとに小学生だしね。
いっそのこと、先輩達にも私の事情を話すべきだろうか? いや、流石にまだ交流が浅すぎるか。
いずれどうなるかはわからないけど、今は黙っておいた方がいいかもね。
「年齢に関しては、このくらいですよ」
「どれどれ……え、ほんと?」
「私より……いや、何でもないです」
とりあえず、気になっているようなので、今の私の暫定的な年齢を伝えておくことにする。
700年間封印されていたという過去はあるにしろ、私の記憶としては、その部分の記憶はない。
だから、私が私としての記憶を取り戻した時の年齢を参考に、それから経過した時間を考慮して答えておいた。
ルイン先輩の私より、って発言が気になるけど、もしかしてルイン先輩って私より年下なのかな?
何となく、『Vファンタジー』の中でも最年長だと思っていたんだけど、それよりも私の方が年上ってなると、みんなかなり若い気がする。
まあ、確認してないから本当かどうかはわからないけどね。
(コメント)
・何その反応
・めっちゃ気になる
・え、ハクちゃんもしかしてめっちゃ年上?
・いやいや
・もしそうだとしたら、あのおてての説明がつかない
・謎が深まる
「私の年齢の話はいいじゃないですか。ヒカリ先輩、次のお題は何ですか?」
「そうですね、では次に行きましょうか! 次のお題は、こちら!」
そう言って、配信画面にテロップを表示させる。
その内容は、私とルイン先輩の、ドラゴン対決ということらしい。
ドラゴン対決とはなんぞや?
「ハクちゃんは、妖精でありながら、竜の血を受け継いでいると聞きました! であれば、真正のドラゴンである委員長とは話が合うと思って、用意させていただきました!」
「具体的には何をするんですか?」
「まずは自己紹介がてら、自分の紹介をしていただければ! そこからお互いが思うドラゴンの価値観について、語っていただければと思います!」
なるほど、要は、設定の話というわけか。
先程も言ったが、ルイン先輩の正体はドラゴンであり、傍若無人にふるまうラスボスのような人である。
今でこそ、その面影はないが、ドラゴンであることに変わりはなく、立ち絵もしっかりある徹底ぶりである。
私の方も、竜の姿になれるということで、竜の立ち絵を用意したらいいんじゃないかという話はあるらしいんだけど、今のところは、イラストレーターの人が多忙らしくて、まだ取り掛かれていないらしい。
まあ、もし描いてくれるなら、私の姿をしっかり伝えておきたいね。
「なるほど、そう言うことなら、まずは私から話しましょうか」
そう言って、ルイン先輩が話し出す。
ルイン先輩の真の姿であるドラゴンは、この世を統べる魔王であるらしい。
ビルほど大きく、炎を自在に操り、その攻撃力は、一息で町を消し炭にできるほど。
しかし、強すぎるが故に退屈になり、聖女がいるという学園に潜入し、内部から崩壊させてやろうと企み、人の姿となって来たはいいが、いつの間にか生来の真面目さを発揮してしまい、今や委員長という立場になってしまっている、とのことだった。
最初こそ、性格は俺様系で、やりたい放題な性格だったらしいんだけどね。どうしても、中の人の本来の真面目さが出てしまい、そう言う路線に切り替えざるを得なかったようだ。
まあ、真面目な人にいきなり傍若無人にふるまえと言っても無理な話だよね。
「いつの間にかヒカリとも仲良くなってしまいましたしね。一体どうしてこうなったのやら」
「真面目にやってきたからですよ!」
「耳が痛いですね」
(コメント)
・委員長は委員長だから
・ヒカリンの明るさに浄化されたから、とか一応理由は考えられなくもない
・言うて最初から破天荒キャラ破綻してた気もするけど
・そこかしこに遠慮があったよな
・委員長はなるべくして委員長になったと言わざるを得ない
・ドラゴン姿かっこいいんだけどね
・今やすっかりおまけになってしまっている
古参と思われるリスナーさん達が、なにやらしみじみしている。
私としては、そう言うキャラもありだとは思うけどね。
とても強いのに、真面目でしっかり者で、自分の力を振りかざさない。
魔王ではなく、規律を守る側に立てば、それも立派な長所である。
私は、改めてルイン先輩の立ち位置を確認しながら、自己紹介の言葉を考えた。
感想ありがとうございます。