第五百九十九話:対談企画始動
せっかくだからということで、いくつかゲームを購入することにした。
お兄ちゃん達は渋っていたけど、これは私のためでもある。
仮にお兄ちゃん達が遊ばなくても、私が配信で使う可能性があるからね。全くの無駄というわけではないのだ。
それでも納得はしてなさそうだったけど、あちらの世界で返してくれたらいいと言ったら納得してくれた。
もっと頼ってくれてもいいのにね。
《ハク、ありがとな。スシ、うまかったぜ》
《また何か見つけたら、案内を頼んでもいいかしら?》
《うん、もちろん。いつでも言ってね》
マンションへと帰還し、お兄ちゃん達と別れる。
時刻は夕方過ぎ。そろそろ準備しておかないと、間に合わなくなってしまう。
私は、一夜と共に部屋へと戻り、準備を進める。
一夜は、晩御飯を作るべく、キッチンへと入っていった。
「ひとまず、改めて告知かな」
すでに配信では伝えたが、改めてSNSの方にも告知を出しておく。
ああでも、一応、ヒカリ先輩と連絡を取っておいた方がいいかな?
あれから連絡は来ていないから多分大丈夫だとは思うけど、もしかしたら何か変更があるかもしれないし。
私は、パソコンを立ち上げ、通話アプリで確認のチャットを打つ。
しばらくして、反応があり、問題ないとの返信が来た。
企画は順調に進んでいるようである。
「ハク兄、晩御飯できたよー」
「あ、うん、今行く」
そうこうしているうちに、晩御飯の準備が整ったのか、呼び出しを受けた。
リビングに行くと、テーブルに料理が並べられている。
ちょっと時間が遅かったのもあり、料理は割とシンプルだが、私はこれくらいで十分ではある。
準備があったとはいえ、手伝えなかったことを謝罪しながら、席に着く。
さて、いただきます。
「お寿司美味しかったねー」
「うん。久しぶりに食べたけど、また食べたくなったよ」
「昔は外食もそこそこ行ってたけど、上京してからは、そんな余裕もなくなっちゃったよね」
「だねぇ。お金が貯まるのはいいけど、使う機会もないのはちょっと思うところはあったかな」
一夜の発言をきっかけに、昔のことを思い出す。
当時は、かなり忙しかった。世間の基準だとどうかはわからないけど、ブラック寄りだったんじゃないかと私は思っている。
あの時は、それが普通だと思っていたし、それに不満なんて抱いていなかったけど、でも、あっさりとクビにされて、会社とは何て冷徹なものだろうと思ったものだ。
まあ、被ったミスを考えれば、当然ではあるのかもしれないけどね。
でも、あれがなければ、私は人助けに車の前に飛び出さなかっただろう。それで命を落とさなければ、転生することもなかっただろう。
転生してから、辛いこともたくさんあったけど、今はこうして一夜と幸せな日常を送ることができている。
そう考えると、あの選択は間違っていなかったんだと思えてくるね。
「今度は焼肉でも行く?」
「いいね。肉はよく食べるけど、美味しい肉はなかなかないし」
「ああ、あちらの世界だと、硬い肉が多いもんね」
「その辺わかってきたんだ?」
「ちょっとはね」
あまりこちらの世界での料理に慣れ過ぎると、あちらの世界に戻った時に苦労しそうではあるけど、まあ、たまの贅沢だと考えれば、そこまで悪くはないと思う。
私の感覚では、こちらの世界に来るのは約一年ぶりなわけだしね。頻度で言えば、慣れるほどではないだろう。
そんな話をしながら食事を終え、お風呂にも入って、準備は万端。
配信部屋へと入り、ヒカリ先輩と通話を繋げる。
『もしもし、ハクちゃんですか?』
「はい、ハクです。そろそろ時間ということなので、連絡させていただきました」
『流石、時間ばっちりですね! 今回は私の企画を受けてくれてありがとうございます!』
「いえいえ、こちらこそ先輩にお誘いいただけて光栄です。今日はよろしくお願いしますね」
『はい、よろしくお願いします! さっき確認したと思いますけど、もう一回確認しておきますね!』
そう言って、今回の対談企画の趣旨を話し始めるヒカリ先輩。
今回の企画は、私のことを知るための企画であり、リスナーさんや先輩方に月夜ハクとはどんな人物かを知ってもらうためのものである。
この企画自体は、『Vファンタジー』での名物企画のようなものであり、三期生を除く面々は、すでに何度かこれに呼ばれたことがあるらしい。
基本的には、ヒカリ先輩が集めた質問に答える形だけど、時にはクイズを交えたりしながら、様々な角度から見ていくんだとか。
まあ、特に気にせず、答えられる質問には答えて、答えられない質問には答えないで全然大丈夫とのことらしいので、あんまり気にしなくていいかもしれない。
『ハクちゃん、準備はいいですか?』
「はい、大丈夫です」
『はーい! それじゃあ、時間も来たので、始めて行きましょう!』
ヒカリ先輩が立てた配信枠には、すでに多くの人が待機している。
私は、一度深呼吸をした後、配信に挑むことにした。
「皆さんこんばんは! いつも元気に、学園の聖女、真白ヒカリです!」
(コメント)
・こんばんは!
・きちゃー!
・いつも元気やなぁ
・対談企画と聞いて!
ヒカリ先輩が挨拶をすると、コメント欄が一気に加速する。
ヒカリ先輩は、ニコニコと笑みを浮かべながら、オープニングトークを始めた。
「今回は対談企画、第21弾! ……あれ、22弾だっけ? まあ、何かそれくらいです!」
(コメント)
・21で合ってるよ
・適当やなw
・もうそんなにやってきたのか
・個人から複数の組み合わせまでいっぱいやってたからな
・今日のゲストは?
「もったいぶっても仕方ないので、さっそくゲストの紹介をしましょう! ハクちゃん、入ってきてください!」
「どうもどうも、月夜ハクです。よろしくお願いします」
(コメント)
・ハクちゃん来たー!
・とうとう三期生が来たか
・ハクちゃんがトップバッターなのはなんか納得
・推しが増えることになるのか否か、見極めさせてもらう!
・待ってたぜー、この時をよぉ!
配信画面上に、私のアバターが映し出される。
ほとんどはヒカリ先輩のリスナーさんなのか、私のことをあまり知らないって人もいるみたいだけど、私のリスナーさんもそれなりにいるのか、応援してくれている人も多い。
私は、気づかれないように一度深呼吸をし直し、画面上のヒカリ先輩と向きあった。
「というわけで、月夜ハクちゃんです! ハクちゃんに関しては、私もとっても気になってまして、ぜひこの企画にお呼びしたいと思ってたんですよ!」
「お誘いいただき光栄です。軽い概要しか聞かされていませんが、私は何をすればいいのでしょう?」
「そうですね、まずは、皆さんがハクちゃんの何を知りたいのか、質問箱で募集したので、それについて軽く答えて行ってもらいましょう!」
そう言って、画面内にホワイトボードを出現させる。
なるほど、いつもの雑談配信とそこまで変わらないのかな? 規模は大きいけど。
私は、一体どんな質問が来るのかと、静かに待つのだった。