第五百九十六話:告知と観光
その後も質問返信を続け、いい時間になってきたので、そろそろ配信を終了することにする。
質問返信しただけなのに、結構な時間が経ってしまった。
これは、一人一人に返信していたら丸一日以上かかっていたかもしれないね。配信でやって正解だった。
「それじゃあ、今回はこの辺で。最後に、告知があるよ」
(コメント)
・告知?
・新衣装か?
・コラボのことじゃね?
・なんだろう
「明日、ヒカリ先輩が主催の対談企画に呼ばれることになりました。どうぞお楽しみに」
(コメント)
・おおー!
・対談企画、早かったな
・ヒカリンの企画かぁ
・これは楽しみ
忘れずに、告知を挟んでおく。
すでに、ヒカリ先輩の方から、SNSで告知があったのか、知っている人も何人かいたけど、大体は初見の反応だった。
対談企画は、今や『Vファンタジー』の名物企画のような物らしく、三期生以外の面々は、みんな受けたことがあるらしい。
一体どんな企画になるのかはわからないけど、私も少し楽しみではある。
「というわけで、告知でした。みんな見に来てくれると嬉しいな」
(コメント)
・絶対見る!
・どんな話するんだろ
・ストレートなヒカリンと真面目なハクちゃんだから色々聞けそう
・異世界のこととかよくわかるかもね
・楽しみにしとるぞ
告知も終え、配信を終了する。
久しぶりの配信だったが、やっぱり配信は楽しいね。
ただ話しているだけでも、だいぶ安らかな気持ちになれる。
まあ、コメントを読むのは少しコツがいるけどね。
最近は、コメントの流れも速くなってきて、身体強化魔法がないと見逃すことも多くなってきたし。
見てくれる人が多くなってきたのは嬉しいことだけど、その分全員にお返しできないのは心苦しいかもしれないね。
「ハク兄、お疲れ様」
「ありがとう」
配信の後片付けをしながら、明日のことについて考える。
ヒカリ先輩からは、私の魅力を引き出すことができたらいいなと言われているけど、どんな話をするんだろうか。
素の反応が欲しいということで、内容は何も教えてくれなかったけど、コメントでも言っていた通り、異世界の話でも聞かれるのかな?
いつもなら、ある程度は質問の答えを用意するところだけど、素の反応がいいというなら、何も用意しない方がいいかもしれない。
一応、まともにヒカリ先輩と会話をするのは初めてなので、少し緊張するけど、うまく行くといいんだが。
そんなことを考えながら、その日は眠りにつくのだった。
次の日。朝起きて、一夜と共に朝食を食べた後、顔を出していなかったアパートの方に一応行ってきた。
最近の仕事ぶりを聞いてみたけど、特に正体がばれることもなく、順調に行っているらしい。
ただ、動画投稿が楽しくて、仕事よりもそちらに注意を持って行かれているせいか、ちょっと寝不足気味らしいけどね。
ケントさんを中心とした転生者達の動画チャンネル、通称雷鳥チャンネルだけど、順調にチャンネル登録者を増やしつつあるらしい。
内容は、なんてことのないゲーム実況や、歌ってみたくらいなものだけど、メンバー全員が、頭が異形のものという設定が受けているのか、一部はトレンドに上がるほど好評らしい。
まあ、設定と言いつつ、本物というのは知っての通りだけどね。
ローリスさんも、定期的にやってきているのか、動画を出すたびに好き放題やってるみたいだけど、まあ、問題が起こっていないならいいかな。
「お兄ちゃん達の様子も見ておかないとね」
アパートを後にし、次はお兄ちゃん達の様子を見に、マンションへと向かう。
いつもは、こちらの世界でしか長時間プレイできないゲームに没頭し、日々そのプレイスキルを高めているわけだけど、今日はどうやらゲームはしていないようだった。
代わりに、パソコンで何やら調べ物をしている様子である。
何やっているんだろうか?
《おお、ハク、ちょうどいいところに》
《何を調べてるの?》
《ああ、こいつを見てくれ》
そう言って、お兄ちゃんはパソコン画面を指さす。
操作自体はユーリがしているみたいだけど、ユーリもお兄ちゃんに合わせて、ある記事を見せてきた。
それは、いわゆるグルメ特集みたいなものであった。
それぞれの地域で有名なグルメが紹介されており、中にはこの近くにある店も紹介されているようである。
この辺は、都会からは若干離れているから、そう言う記事には載らないと思っていたんだけど、ローカル記事なんだろうか?
まあ、それはともかく、これが一体何なんだろうか。
《せっかくだから、こちらの世界の料理も色々食べて見たくてな。よければ案内してくれないかと思って》
《ああ、なるほどね》
一応、こちらの世界にいる間は、ユーリが出前を取っているから、すでに色々な料理は食べているとは思うんだけど、記事を見て、まだまだ知らない料理があることに気づき、食べて見たくなったらしい。
確かに、最初の方にラーメンを食べに行ったくらいで、外食はほとんどしたことがなかったからね。
私も、いつもお兄ちゃん達をほったらかしにしているのは申し訳ないと思っていたし、そう言うことなら叶えてあげるのも悪くはない。
時間も、ちょうどお昼時だしね。
《わかった、案内するよ》
《そう来なくっちゃ! ありがとな》
《じゃあ、何が食べたいの?》
《おう、これなんか気になってるんだが……》
そう言って指さしたのは、寿司の写真だった。
寿司は、あちらの世界では確かにない料理である。というか、新鮮な魚が食べられるのは、港町とかだし、内陸にある王都ではなかなかお目にかかることはない。
それに、そもそも魚を生で食べるって言う人もなかなかいないしね。
港町であっても、食堂では大抵焼かれた魚が出てくることが多いし。
《ユーリから聞いたが、これは魚なんだろう? こちらの世界では、こんな風に食べられるのかと気になってな》
《魚を生で食べるとお腹を下すって言うのはよく知られているしね。いつもなら絶対食べないけど、こちらの世界なら、大丈夫かなって》
お兄ちゃんもお姉ちゃんも、生の魚というのに興味津々な様子である。
まあ、きちんと管理されているこちらの世界なら、食べても腹を下すってことはなかなかないだろう。
毒があったとしても、どうにか毒を取り除いて食べようとするくらいだからね。食への執念という意味では、かなり信頼できる部類だと思う。
さて、そう言うことなら、さっそく案内するとしよう。
私は、一度一夜に連絡を取った後、手近な寿司屋を探すのだった。
感想ありがとうございます。