第五百九十四話:復帰配信
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時間は過ぎて夜。私は配信部屋に入って、配信の準備を進めていた。
元々は、帰ってきたことを伝えるのと、来ていた質問に返信する配信にしようと思っていたのだけど、途中で連絡があり、もう一つ目的が加えられることになった。
すなわち、対談企画の告知である。
ヒカリ先輩が主催のこの企画だけど、有野さんから話が行ったらしく、すぐに私の下に連絡が来た。
私が明日にでもやれると言ったからなのか、すぐにその日程で調整したらしくて、その行動の速さにびっくりしたものである。
『Vファンタジー』自体もフットワークが軽いし、そう言う人達が集まっているんだろうか。
まあ、私としては、予定が埋まって何よりではあるけども。
「……よし、それじゃあ、始めようか」
そう言うわけで、配信の最後に告知を入れることを頭に入れつつ、配信をスタートさせた。
「皆さん今ハクです。月夜ハクだよ」
(コメント)
・きたー!
・きちゃー!
・待ってたよー!
・帰ってきたー!
一応、夜に配信することはあらかじめSNSで告知していたけど、多くの人々が待機してくれて、コメントが怒涛の勢いで流れて行った。
最初の頃に比べると、かなり人も増えたように思える。
この調子で伸びていけたらいいね。
「今日は帰ってきた報告と、たくさん来ていた質問に答えて行こうと思うよ」
そう言って、私は届いていたメッセージを表示する。
今回多く寄せられていたのは、やはりRTA関連についてだ。
特に、前回の記録は、世界一位の記録を大きく塗り替えるほどのものである。
なぜそこまでの精度でプレイができるのか、何かコツはあるのかなど、RTA界隈の素人から玄人まで、様々な人がアドバイスを求めていた。
「まず最初の質問はこちら」
『初めまして。配信を見たのですが、どうしたらあんなに正確にプレイすることができるんですか?』
(コメント)
・それはみんな思ってると思う
・人間の集中力は一時間も持たないことが多いから、長時間のRTAになればなるほど、後半はミスが多くなるのが普通だよな
・実際、序盤はハクちゃんみたいな動きをする人もいるにはいるけど、後半は大きなミスをすることも多いし
・ハクちゃんの集中力の源は何なのか
・一時期はチートを疑われてたくらいだしなぁ
「うーん、これに関しては、魔法の力としか言いようがないかなぁ」
私は、RTAの際には、目に身体強化魔法をかけて、動きをゆっくり見えるようにしている。
仮に、フレーム単位の操作精度が要求されていたとしても、私はその猶予をとても長く見ることができるから、必然的に操作精度は上がるのだ。
一応、ゆっくりに見えるだけでなく、私の動き自体もゆっくりになるから、その分のずれはあるかもしれないけど、私はもう何度も身体強化魔法を使って慣れているし、このタイミングで動かせばこれくらい動かせるって言うのを把握しているので、ずれはほぼ起こらない。
普通の人だったら、仮に集中力が続いていたとしても、フレーム単位の技を成功させるのはなかなか難しいだろうしね。
(コメント)
・お、チート発言か?
・ハクちゃんは元々魔法使ってるって言ってる
・魔法(実力)
・手元配信してるから別人説もないしな
・この場合、別人だったとしてもそいつは何者ってなるけど
「集中力に関しては、まあ、私はちょっと特殊な妖精だからね。そのせいだよ」
動きがゆっくりに見えるとしても、集中力が切れれば動きは悪くなるとは思うが、それに関しても、私はすでに神様の領域に片足突っ込んでる状態だからね。
元々、竜としての能力なのか、集中力は長く続く方だったし、それに神様の力が加わっているのだから、いくらでも集中力を持続させることが可能である。
まあ、修行で唐突に100年も戦わされることがあるくらいなんだから、集中力がないとやってられないよね。
あんまり集中しすぎると頭痛くなってくるからあんまりやりたくはないが、RTAを完走するくらいだったら余裕で持つので、それで集中力が切れないように見えるって感じ。
「一応、慣れもあるけど、魔法さえ使えれば、みんなもあれくらいはできると思う」
(コメント)
・魔法なんて使えません(血涙)
・魔法が使える人は羨ましいなぁ
・アカリちゃんですら使えないのに使えるわけがない
・ハクちゃん魔法教えて?
・この世界だと魔法使えないみたいなこと言ってなかったっけ?
「教えることはできるかもしれないけど、使うのは難しいと思うよ? 一部の才能ある人だったらもしかしたら使えるかもしれないけどね」
以前だったら、こちらの世界には魔力がないから使えないと断言するところだったが、今は一部の場所には魔力、もとい霊力があるとわかっているからね。
退魔士のように、才能のある人なら、魔法の使い方さえわかれば使うことも可能かもしれない。
実際、一夜も魔法ではないけど、似たようなことはしているわけだし、可能性はゼロではないだろう。
「まあ、次の質問に行こうか」
『記録の申請しましょうよ! この記録をこのまま眠らせておくなんてもったいない!』
(コメント)
・確か、前回の記録が世界記録だったんだっけ?
・そう。でも申請してないから記録には残ってない
・記録の申請の条件に関しては、大丈夫そうか
・生放送でやってるんだから大丈夫のはず
・タイマーもつけてるしな
前回のRTAでは、世界一位の走りを基に、ミスを修正して完璧に走ったので、当然ながら世界記録である。
でも、いくら何でも魔法でずるをしてやっていることを、世界記録として提出するのは憚られるし、そもそも私は世界記録に興味はない。
なので、記録の提出はせずにいるのだけど、毎回、私が記録を残すたびに、申請しましょうよって人が来るのである。
そんなに記録って大事なんだろうか。私は、RTA界隈のことを詳しく知っているわけではない、ただのにわかだからよくわからないけど、タイムは命より重いって奴なんだろうか?
まあ、だとしても、そんな汗と涙の結晶を踏みにじるような真似はできないし、どっちにしろ申請はしないけども。
「何度も言うけど、私は世界記録を目指しているわけではないんだよ。ただ、妖精のみんなに楽しんでもらえたらそれでいいの。それに、私みたいなのがホイホイ記録提出したら、本職の人から怒られちゃいそうだし」
(コメント)
・実際ぶちぎれてる人はいる
・やっとの思いで記録出したと思ったら、あっさり抜かれた時の絶望は計り知れないからなぁ
・RTAは抜いて抜かされが醍醐味ではあるけど、あまりに大差がついてると抜く気にもなれないしね
・ハクちゃんがRTA界隈の覇者になればいいのでは
・一つのゲームだけじゃなく、幅広いゲームで結果を出してるのがやばいんだよなぁ
コメントでも、意見は割れているようだ。若干申請した方がいい派が多いくらいかな?
リスナーさんの願いはなるべく叶えてあげたいけど、これは私の矜持でもある。
できれば、RTA界隈も私のことは気にせず盛り上がって欲しいところだね。
そんなことを思いながら、配信を続けた。
感想ありがとうございます。