第五百九十二話:いない間の出来事
一通り調べてみて、精神力というのが何かわかった。
どうやら、魔力のことのようである。
元々、一夜の体には魔力は一切なく、魔法を使うことはできないと思っていたけど、あちらの世界に行った際に、何かしらの変化があったのか、わずかではあるけど、魔力を確認することができた。
再び魔術を使ってもらった際、それが減ったことから、これは魔力を消費しているんだとすぐにわかった。
魔力の消費なら、特に問題はないと思う。
最悪、使い切ってしまったとしても、気絶するだけだからね。
まあ、場所が場所だとやばいかもしれないけど、そもそもそんな頻繁に使わなければ問題はないはずである。
はしゃいでるところ悪いけど、これは封印だね。
「一夜、今後魔術を使うのは禁止ね」
「なんで!?」
「どうやらコストとやらはそんなに重いものじゃないみたいだけど、使いすぎれば、気を失ってしまうから。特に、この世界では回復も難しいだろうしね」
魔力がなくなっても、一日寝れば大抵は回復することが多い。
ただ、それは空気中に魔力が漂っているあちらの世界だからこそできることであり、こちらの世界では、一部の場所を除いて魔力はないに等しい。
そんな状態で寝たところで回復の見込みは薄いし、回復できなかったら、最悪そのまま寝たきりになる可能性だってある。
だから、むやみに使うと危ないのだ。
「ああ、確かに何度か気絶したかも」
「え、もうしてたの? 大丈夫だった?」
「大体二、三時間くらいしたら目が覚めたかな。凄くだるかったけど、それも一日寝たら治ったし、特に問題ないかなと思ってたんだけど」
「いや、大問題でしょそれ」
確かに、検証と言っていたから、今までも使いまくっていてもおかしくない。
ただでさえ、一夜の魔力は少ないのだから、私が来るまでの間、持ったとは到底思えないしね。
しかし、そうなると、こちらの世界でも魔力を使い切った後の回復は起こるってことなんだろうか?
……いや、違うな。多分、加護のせいだろう。
私の加護にも似たようなものがあるけど、加護には回復力を促進するものもある。
特に、ルディは異世界の神様だ。何かしらイレギュラーな挙動をしてもおかしくはない。
魔力の総量自体はそこまで多くはないけど、なくなっても回復することができるというのは、ルディなりの優しさでもあるんだろうか。
あるいは、魔力と似て非なるものという可能性もあるかもね。
まあ、私が来るまでの間、気絶しっぱなしで大惨事にならなかったことはよかったと思う。
「とにかく、魔術は禁止。最悪、目覚めなくなるかもしれないんだからね?」
「うぅ、わかったよ……」
ルディもとんでもない置き土産をしていったものだと思いつつ、ひとまず現状のことを確認する。
前回、大規模企画ということで、『Vファンタジー』の先輩達とのコラボが解禁された。
一つのゲームを共に発展させていくという目標もできたし、これまで以上に、交流は盛んになっていくだろう。
私は、少し触った程度で、すぐに帰ってしまったのだけど、今はどうなっているんだろうか?
「割と順調に発展はしてるよ。みんな思い思いに自宅を作ったりしたし、アンネは相変わらず作業しまくって鉄道を開通させたりしてたし」
「アケミさん達の様子は?」
「必死にコラボに食らいついてるって感じ。あの時、ハク兄に手伝ってもらったのが申し訳ないって思ったらしくて、自分達だけで何とかしなくちゃって奮起してたみたいだよ」
先輩達とコラボするにあたって、一人じゃ怖いから私に手伝ってほしいと泣きついてきたアケミさんだったけど、それを反省し、今は自分からコラボを仕掛けに行くくらいに成長したようだ。
私がいなくなっていた期間を考えると、だいぶ早い成長だけど、先輩達も、そんな新人の姿に感化されたのか、優しく受け入れて、それなりに慣れてきているようである。
むしろ、あの時数を稼いだ私よりもコラボ回数は上となっているので、私の方が置いてけぼりを食らっている状態だね。
あの時はとても心配だったけど、とりあえず一人でもコラボできるようになってよかった。
「他に企画とかはある?」
「ああ、ヒカリ先輩が何か考えてるって話は聞いたけど」
「ヒカリ先輩って言うと、一期生の?」
「そう。なんでも、ハクちゃんのことをもっと知りたい! とか言ってたけど」
先輩達の間では、月夜ハクとは何者だというのがトレンドになっているらしい。
まあ、通話は何度かしたことはあるけど、実際に会ったことはないし、他のメンバーが緊張でガチガチになる中、平然としていたって言うのも目を引く結果になったようだ。
だから、私のことをよく知れるような企画を作りたいと言って、色々と準備をしているという噂があるとかなんとか。
興味を持ってくれるのは嬉しいけど、そんな大した人間ではないんだけどね。
「それくらいかな。強いて言うなら、一部の界隈で月夜ハクがかなり騒がれてるってことくらい」
「一部の界隈って?」
「ほら、前回うっかりRTAで世界記録出しちゃったでしょ? あれの関係でね」
「ああ……」
大規模企画が迫っていたということもあって、短めのRTAをやろうと思ったら、リスナーさんからの無茶振りで本編のRTAをする羽目になってしまい、めちゃくちゃ集中した結果、倒れてしまったって言うあれね。
世界一位の走りを完コピした上で、ミスした部分は自分なりに修正して走ったので、当然ながら世界記録である。
別に、記録として申請したわけではないので、順位が塗り替わったとかそう言うわけではないんだけど、記録として残らなくても、こんな走りをすることができる奴がいるって言うのは割と有名になってきているようで、私の配信を見に来たり、あるいは質問でRTAのコツを聞いたりしてくる人が後を絶たないらしい。
身から出た錆とはいえ、ちょっと大変なことになってきたね。
「前みたいに、チートを疑われたりはしていないと思うけど、やっかみからそう言う人もいるみたい」
「まあ、それは仕方ないかな。実際、チートみたいなものだし」
身体強化魔法なんて言う、こちらの世界にはない方法を使っているんだから、チートみたいなものである。
まあ、隠しているわけではないし、RTA界隈に殴り込みに行きたいわけでもないので、リスナーさんが楽しんでくれるならそれでいいんだけどね。
私がいない間に起こったことを噛み砕きつつ、次に取るべき行動を考えた。
感想ありがとうございます。