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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十二章:対談企画編
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第五百九十一話:一夜の検証

 家にはお母さんしかいなかった。お父さんは、すでに仕事に出かけているらしい。

 洗濯ものを干していたら、いきなり玄関前に人が現れたから、すぐに私達だとわかったようだ。

 なるほど、見てたわけね。気配で感じ取ったわけではなかった。


「今日は大所帯じゃないか。一夜ひよなはどうした?」


「多分まだ寝てるから、先に挨拶に来ようと思って」


「なるほどね。ま、ゆっくりしていきな。大したもてなしはできないけどね」


「ここにいるだけで落ち着くから十分だよ」


 私は、改めてお兄ちゃん達を紹介する。

 あの時は全然言葉も通じていなかったけれど、お兄ちゃん達も勉強を重ねて、ある程度なら話せるようになってきた。

 お母さんも、思ったよりも流ちょうな日本語が飛び出してきて、目を丸くしていたね。


「随分とうまくなったもんだね。この辺りで、そこまで流ちょうに外国語を話せる人はいないよ」


「頑張りました」


「それだけこの国のことを思ってくれていると思うと嬉しいものだね。いや、白夜のことを思ってのことか」


「ハクのことは必ず守ります」


「ああ、ぜひそうしとくれ。その方が、こちらの心配も減るってもんだ」


 お母さんは、お兄ちゃん達がそこそこ話せることを嬉しく思ったのか、積極的に話を振っていた。

 それとなく、あちらの生活のことを聞きだそうとしているのがわかるけど、あんまり変なこと言わないといいんだけど。

 というか、私はあちらの世界でも、ほとんど家にいないんだよね。

 たまに暇になって帰ってくることはあるけど、基本的には大体どこかを飛び回っている気がする。

 お兄ちゃん達の拠点という意味もあるから、意味がないわけではないけど、それなら外縁部の方に家を買ってもよかったかもね。

 いや、一応は貴族だし、それはダメか。


「白夜、お前は嫁さんほったらかして何をしてるんだい」


「えっ!? い、いや、だって、忙しいからさ……」


「まあ、貴族とやらなんだろうし、多忙なのはわかる。だけど、あんまり放置していたら、愛想つかしてどこかに行っちまうかもしれないよ?」


「ユーリはそんなことしないよ」


 いきなりこっちに飛び火してびっくりしてしまった。

 まあ、確かにユーリをほったらかしにしている感じはある。

 一緒に連れて行ってもいい時はなるべく連れて行っているけど、基本的にはエルだけを伴ってどこかに行くことが多い。

 一緒にいる頻度だけを見るなら、ユーリよりもエルの方がよっぽどお嫁さんらしいだろう。

 まあ、そもそも、関係性的には私の方がお嫁さんなんだけど、それは置いておいて。

 ユーリは、毎回お留守番をさせられても、特に文句を言うことはない。

 一緒に触れあえる時間を大切にしているから、それで満足しているように見える。

 でも、やっぱりそれじゃ足りないんだろうか?

 確かに、見ようによっては、仕事ばかりにかまけて、家庭を顧みない夫みたいになっている気がしないでもないけど。


「私は、ハクに愛されてるってわかってますから、不安はないですよ」


「謙虚なことだねぇ。まあ、確かに浮気するような勇気もないだろうし、そう言う意味では安心かね」


「ねぇ、それどういう意味?」


 私に浮気する勇気がないとはどういうことか。

 いやまあ、確かにそんなことをする気はないけども。

 そもそも、私の体は人に近いとはいえ、ベースは精霊の体である。

 精霊は、生殖機能を持たないし、ものはあっても、子を成すなんてことはできない。

 さらに言うなら、そう言った欲求もかなり薄い。そう言う欲求は、言うなれば子孫を残さなければならないという本能から来るものだろうし、それが必要のない精霊は、そう言う感情も薄いんだと思う。むしろ、私はまだある方だろうね。他の精霊に比べたら。

 精神的にも、物理的にも、浮気をしたところで意味はない。だから、お母さんの心配は問題ないとは思うけど、なんか釈然としない。

 私だって狼になる時くらいあるかもしれないよ?


「まあ、お互い納得しているならいいさ。でも、二人の時間は大切にするんだよ?」


「はーい」


 その後も、色々と話していると、お父さんが帰ってきた。

 時間を見てみると、もう昼時らしい。時間の流れは早いものだね。

 お父さんも、珍しいお客さんに目を丸くしつつ、会話を楽しむ。

 ただ、休憩時間も少ないのか、ご飯を食べながらということになった。

 お母さんは、いきなり人数が増えたこともあって、簡単なものしか用意できないと言っていたけど、それでも美味しかったから、十分満足できるものだった。


「そろそろ行こうかな」


「今日は泊って行かないのかい?」


「まだ一夜ひよなに挨拶できてないからさ。泊まるなら、またあとで一夜ひよなと一緒に来るよ」


「そうかい。気をつけていきな」


 お母さんとお父さんに見送られながら、転移で再びマンションへと降り立つ。

 流石に、この時間なら起きていると思うけど、果たして。

 インターホンを押すと、しばらくして扉が開いた。


「あ、ハク兄、とお兄さん達も。いらっしゃい」


「ただいま、一夜ひよな。朝にも来たんだけど、寝てた?」


「え、来てたの? ごめん、気づかなかった。起きてはいたんだけど、ちょっと検証をしてて……」


「検証?」


「まあ、とにかく上がってよ。今日はちゃんと片づけてあるよ」


「はーい、お邪魔します」


 いつもなら、掃除してないと慌ただしく戻っていくのに、珍しい。

 リビングに通されると、確かに部屋は綺麗になっているような気がする。

 ようやく学習したんだろうか。いいことである。


「それで、検証って何してたの?」


「それはねぇ……」


 一夜ひよなは、ちょっと得意げな顔をして少し離れた位置にあるリモコンを指さす。

 何の変哲もないリモコンだけど、取って欲しいんだろうか?

 私がしょうがないなと席を立とうとすると、その瞬間、目を疑う光景が映った。

 なんと、リモコンが宙を浮き、こちらに引き寄せられてくるのである。

 引き寄せられたリモコンは、そのまま一夜ひよなの手に収まる。

 浮遊の魔法? いや、一夜ひよなは結局魔法を習得しなかったはず。そもそも、こちらの世界では魔法を使うだけの魔力が足りないだろうし、一体どういうことなんだろうか?

 私が一夜ひよなに視線を向けると、得意げに鼻を鳴らしながら、話してくれた。


「これが魔術の力よ」


「魔術? 魔法じゃなくて?」


「そう。ルディに教えてもらったんだけどね」


 以前、一夜ひよなはあちらの世界へ行った際に、死を司る神様であるルディから、色々と加護や呪文を授かったらしい。

 こちらの世界に戻った後、それらを検証がてら、色々試していたら、こうしてものを浮かせることができるようになったのだとか。

 まさか、私が補助することもなく、自力で魔法のようなことをするとは……。

 いや、この場合は余計なことを教え込んだルディがいけないのだろうか。なんか複雑な気分である。


「まだ、あんまり重いものは動かせないし、長時間動かすこともできないんだけどね。他にも色々教わったんだけど、それはまだ検証中かな」


「それ、使って大丈夫な奴なの? 代償として命が削られるとか、そう言うのはない?」


「ないと思うよ? コストとして精神力を消費するとは言っていたけど」


「えっ……?」


 死を司る神様なのだから、てっきり命を対価に発動しているのかと思ったけど、そう言うわけではないらしい。

 私はとっさに、一夜ひよなのことを【鑑定】で確認してみる。

 目立った状態変化はなし。ただ、称号にルディの加護が増えていた。

 とうとう一夜ひよなも称号持ちになってしまったのか。いや、別に称号に大した効果はないと思うけども。

 でも、精神力というのが何かわからない以上、何かしら体に異常が発生する可能性はある。

 私は、徹底的に調べなければと、一夜ひよなの体を舐めるように見まわした。

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― 新着の感想 ―
サイキッカーぴよな爆誕!
ソースとか醤油とかマヨネーズ取るのに便利そう あと、ブンドドがはかどる
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