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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十二章:対談企画編
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第五百八十九話:別れの宴

 エウリラさんに結界について少し指導すると、見る見るうちに才能を開花させていった。

 まあ、今まで無意識でも完璧な結界を張れていたのだから、才能はあると思っていたけど、その成長速度は目を見張るものがある。

 帰る前に、気づけて良かった。そうでなければ、これからもエウリラさんは自分の価値に気づけていなかったかもしれないからね。


『私にこんな才能があるとは思わなかったわ。結界って、上級精霊しか使えないものだと思っていたから』


「理論上は誰にでも使えますよ。必要な魔力を供給できればですけどね。エウリラさんの場合は、この森と相性がいいのかもしれません」


『確かに、この森は私が育てたようなものだしね。親和性が高いのも頷けるわ』


 元々、この土地は精霊が滞在するにはとても居心地のいい場所だった。

 エウリラさんの降らせる雨が、この森に影響を与えた結果だろう。元はわずかな魔力だったものが、森の成長という形で増幅され、その効力を何倍にも高めたんだと思う。

 恐らく、エウリラさんも、この森から離れたら、ここまでうまく結界は扱えなくなるだろう。それでも、この土地から離れる気がないのなら、十分すぎる効果だけどね。

 町の守り手として、これ以上の人材はいないと思う。


『ありがとう、ハク。また借りができちゃったわね』


「これは元々エウリラさんが持っていた能力ですから、お気になさらず。私はただ、アドバイスしただけですから」


『そのアドバイスが的確だったからこそ、才能に気づけたんだからいいのよ。それにしても、ハクって何者なの? 結界を使えるってことは、上級精霊だとは思うけど』


「私はただのハクですよ。それ以上でも以下でもありません」


『ふーん。まあ、いいわ。ろくなお礼もできないけれど、またこの町に来た時は、歓迎するわ。いつでも遊びに来てね』


「はい、定期的に遊びに来ますよ」


 私の言葉に、アリアが少しジト目をしていたけど、わざわざお母さんのことを言う必要もないだろう。

 エウリラさんも、あれだけ結界を張れるなら上級精霊と言っても過言ではないと思うし、あくまで私達は同等の立場だ。

 これからも、エウリラさんとは今の関係を続けていきたいね。


「そろそろ時間かな」


 エウリラさんとの会話を終え、適当にぶらぶらしながら時間を潰すと、やがて夜になった。

 フィズさんから、すでに話は広がっていったのか、町の広場では宴会場が設けられ、町の人々が集まっている。

 私は、テルミーさんに呼ばれて、液体の入ったコップを持たされた。

 匂いを嗅いでみたけど、どうやら果実水らしい。

 流石に、私にお酒を飲ませる勇気はなかったか。

 まあ、私もそんなにお酒は強くないからいいんだけど。


「先生が帰るって聞いて、びっくりしちまったよ。唐突なんだもんな」


「すいません。でも、私にできることは、ほとんどやったと思ったので」


「まあ、確かにな。今や冒険者候補も、候補って言葉が取れるくらいには強くなったし、道の整備もだいぶ進んだ。元々、先生の仕事は冒険者の育成だけだったのに、相当手伝わせちまったしな。十分仕事したって言っていいだろう」


 一応、これから本格的に隣国への街道を通すべく、森の開拓が待ち受けているけど、そこまで協力する必要はない。

 後は開拓団の仕事であり、私はせいぜい護衛程度のもの。その護衛も、追加でやってきた冒険者が引き継いでくれるだろうし、問題はないだろう。


「ずっと礼を言いたかったんだ。俺達みたいな世間のはみ出し者相手でも、気さくに接してくれて、本来の仕事でない開拓の仕事も手伝ってもらって、食料不足の時は魔物を狩ってかき集めてくれて……俺達に居場所を与えてくれて、本当に感謝してる。ありがとう」


「そんな大げさな」


「いや、大げさなんかじゃない。これは、ここにいる全員が思っていることだ」


 テルミーさんは、真剣な目でこちらを見てくる。

 そこまで感謝されているとは思わなかったので、ちょっとびっくりしてしまった。

 私は、動揺を隠すようにコップに口をつける。

 でも確かに、ここにいる人達は、何かしらの理由で追い出されてきた者達だ。

 そんな人達が、心機一転、開拓村の開拓に乗り出したんだから、もし失敗したら、どこにも居場所がなくなってしまうことになる。

 だから、こうして開拓が順調に進んでいるのは、テルミーさん達にとってとてもありがたいことで、それを助けた私は感謝すべき対象ってことなんだろう。

 私はただ、当たり前のことをやっていただけだけど、みんなの居場所が守られているなら、それでいい。


「みんなが幸せになれたなら何よりです」


「おう。さあ、もっと食べな。食わなきゃ大きくなれないぞ」


「はい、いただきます」


 その後も、美味しい料理と歓談に包まれながら、時は過ぎていく。

 町には結界が張ってあり、魔物が入ってくることはほぼない。だからこそできる、飲み明かしだ。

 私以外の人は、多少なりともお酒が入っていたのか、その場で寝落ちしている人も見受けられた。

 テルミーさんを始めとした人達が後片付けをし、その日は眠りにつく。

 そうして翌朝。私は多くの人に見送られながら、町を後にした。

 フィズさんなんかは、涙を流して別れを惜しんでいたけれど、ずっとここにいるわけにはいかないのでね。

 ある程度町から離れた後、転移で自宅へと戻る。

 久しぶりの自宅は、懐かしい匂いがした。

 開拓村もよかったけれど、やっぱりこっちのほうが落ち着く。

 さっき起きたばかりだけど、また寝てしまおうか。そんなことを考えるほどには、安心した。


「あ、ハク。帰ってきたの?」


「ユーリ、ただいま。ようやくね」


 部屋に向かうと、ユーリが掃除をしていた。

 約二か月半ぶりの我が家。ユーリとしては、心配はしていなかったけど、少し寂しかったらしい。

 私は、ユーリのことを撫でながら、ベッドに座り、開拓生活のことを話す。

 元々は、冒険者の育成という話だったのに、なぜ開拓生活になったのかは少し疑問に思われたけど、理由を話すと、ああ、とちょっと呆れたような表情を浮かべていた。

 多分、何で断らなかったんだろうって考えてる気がするけど、私としては、開拓生活もなかなか悪くはなかったから、後悔はない。


「ハクらしいね」


「まあ、そうかもね。そっちは何か変わったことはあった?」


「特に何も。町の人達が最近ハクちゃん見ないねって話してたくらい」


「そっか。挨拶に行かないとね」


 あちらの世界に行った後も同じようなことをやってる気がするが、今回はそこそこ日数がかかった。挨拶は重要だろう。

 やることリストに加えつつ、今はとりあえず疲れを癒すために休むことにする。

 さて、久しぶりの街はどんなものかな?

 感想ありがとうございます。

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