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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十一章:開拓村編
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幕間:俺達の英雄

 開拓団のまとめ役、テルミーの視点です。

 国の大規模開拓プロジェクト。その話を聞いた時に、いい機会だと思って、真っ先に参加しようと思った。

 本来、開拓には相当な時間とお金がかかる。ほとんどの国は、国土の大部分に未開拓地域があり、それを開拓すれば国土も増えるし、経済も発展するが、実際には、かなりの博打行為だ。

 なにせ、未開拓地域は、多くの場合魔物の巣窟になっている。それも、普段は出てこないような、Bランク以上の魔物もゴロゴロといるような状態だ。

 それを、人が住めるように排除し、なおかつ近寄られないように整備するなど、失敗したら大損である。

 だからこそ、国はそう言う願望はあっても、予算は出せないと言って渋るし、国民も、今の暮らしを安定させる方がいいという考え方が大半だから、何もしない。

 何か問題が起こって初めて、検討する段階に入るってところだろう。

 しかし、多くの人々はそうでも、俺のような、世間のはみ出し者にとっては、またとない機会である。

 俺は、昔は盗賊だった。

 同じように、食うに困って追い出された者や、力が足りなくて役立たず扱いされた者など、そう言った者達をまとめて行ったら、いつの間にか盗賊団となっていた。

 俺とて、剣の扱いはからっきしだし、できることは口先で相手を脅すくらいなもの。

 なんだかんだ、うまく相手を出し抜いて、みんなを食わせていたが、あまりに有名になりすぎて、あっけなく捕まった。

 本来なら、盗賊は打ち首ものだが、意外にも、俺達のことを擁護する奴らもいて、国も対処に困り、結局数年間牢獄に入るだけで許された。

 確かに俺達は盗賊として、食料などをかっさらって行ったが、同時に、人助けもしていた。というか、元々はそっちがメインだった。

 人々のちょっとした頼みを聞く代わりに、食料を恵んでもらう。そうした活動が主だったが、次第に人数が多くなり、それだけでは賄いきれなくなって、盗賊家業に手を出し始めたのだ。

 擁護してくれた人達は、そうやって俺達がちょっと手を貸した人達である。

 あんなもんで邪悪な盗賊に恩赦を与えようって言うのはちょろいと思うが、命が助かったのは幸運だった。

 その後、刑期を終えて釈放され、どこに行こうかという話になった時に、話を聞いたのがこの国の開拓プロジェクト。

 開拓プロジェクトに参加した者は、市民権を与えられ、開拓した村に住むことができるという。

 内容が好条件過ぎてちょっと疑ったが、どうせこのままでは同じ末路を辿るだけなので、賭けてみるかと思い、参加したのである。

 結果的に、その判断は間違っていなかった。

 今や、俺達は順調に開拓を進め、それぞれが立派な一軒家を持つまでになっている。

 純粋な開拓の成果、と言われるとちょっと微妙なところだが、運も実力の内。

 俺は、何とか第二の人生をスタートできそうだと、心から安堵していた。


「これも、先生のおかげだな」


 今回の開拓団は、約100名。皆、能力に難があり、世間から捨てられた連中だった。

 俺は、その性格を買われて、そのまとめ役にさせられたが、やっていることは、盗賊だった頃と何も変わっていないように感じた。

 違うのは、国からの支援があるので、食うに困らないということ。

 みんな気さくでいい奴だし、まとめ役という重荷はあるものの、楽しくやれていた。

 ただ、ついに開拓地に出発するのも間近というある日、国の担当者はある人物をよこしてきた。

 元々、開拓村には、冒険者ギルドを置くことが決まっていて、その冒険者ギルドに在籍してくれる冒険者を探していた。

 しかし、多くの冒険者は、大体拠点となる町が決まっているし、そうでない人も、わざわざ不安定な開拓村に籍を置きたいなんて人はいない。

 なので、いないなら作ってしまおうと、開拓メンバーの中から何人かを冒険者候補として育成しようという計画があったのだ。

 それに関しては賛成だったし、自分達のことは自分達でやりたいとも考えていたから、文句はなかった。

 ただ、よこしてきたのが、年端も行かない子供だったのが衝撃的すぎたが。


「今思うと、凄い絵面だよな」


 友好国であるというオルフェス王国からやってきたというBランク冒険者。

 オルフェス王国では英雄とも呼ばれるほどらしく、肩書だけは凄かったが、見た目が10歳にも満たないような子供だったから、その言葉を理解するのには時間がかかった。

 まあ、下手なこと言って反感を買われても困るし、無難な返しをしておいたが、最初は、ついにとち狂ったかと呆れたものである。

 ハクと呼ばれたその少女も、自分が子供だということはわかっているのか、結構控えめで、俺達みたいな世間のお荷物相手にも丁寧に接してくれたのはだいぶ印象が良かったが、開拓地に行くための護衛がハクだけと聞かされた時は、耳を疑ったものだ。

 いや、正確にはハクの隣にはもう一人少女がいたが、結局は子供二人である。しかも、武器の類も持っていなかった。

 魔法が使えるのかもしれないが、いくら強くてもこの規模の護衛を二人だけでやるのは無理では?

 しかし、担当者は大丈夫だと軽い感じでハクを押し付け、去って行ってしまった。

 後ほど、他の冒険者が合流し次第、後を追わせるとは言っていたが、とんでもないことになったものだと思った。

 これまで、支援がしっかりしていただけに、なんでこんなことにと嘆いたこともあった。

 だが、ハク、いや、先生の実力は、想像を絶するものだった。

 迫りくる魔物を片手間で倒し、開拓地に着いた後も、少なくともCランク以上はあるだろうという魔物を楽々倒し、挙句の果てにはエルフですら手を焼いたという化け物まで倒してしまった。

 ここまできたら、先生のことを馬鹿にする奴はいなかった。

 あの人は、真に英雄の器だろう。


「町もほとんど労なくして手に入れることができたし、かなり当たりの部類だったな」


 開拓には年単位の時間がかかると思っていたが、偶然にも、森の中にエルフが放棄したという町を見つけて、そこを利用することにした。

 今では、手入れも結構行き届いていて、その辺の町よりよっぽど綺麗な街並みになっていると思う。

 先生の存在と、偶然も重なり、俺達は最高の居場所を手に入れることができた。

 先生はこの後帰ってしまうそうだけど、その時は、精一杯のお礼と共に、宴会を開くと決めている。

 最初にあった疑心などとっくになくなり、先生のことを疑う者など誰一人としていない。

 俺達は、一生感謝するだろう。俺達を救ってくれた、あの冒険者に。

 感想ありがとうございます。

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