第五百八十七話:遅い増援
昨日は実質徹夜したということもあって、一度仮眠を取り、朝。
なにやら外が騒がしいことに気づいて、何だろうと思い外に出る。
悩みの種だった魔物が討伐されたということもあって、みんな興奮していた様子だったけど、そのせいだろうか。
ひとまず、テルミーさんに話を聞こうと思い、町を探していると、町の入り口に、見慣れぬ集団がいることに気が付いた。
「お、先生、起きたか」
「はい、おはようございます。何の騒ぎですか?」
「見ての通り、ようやく追加が来たらしいですぜ」
「ああ」
元々、私の仕事は、冒険者候補となる人達の育成であった。
しかし、それは私だけの仕事ではなく、他の国からも、有名な冒険者を呼び寄せて、指導を行ってもらうように調整していたのである。
ただ、なぜか私が同行することになったこのグループは、私がいればどうとでもなるだろという謎の信頼感によって、他の冒険者が来るのを待つことなく開拓に行かされ、一人で指導することになっていたのだ。
担当であるフィズさんは、すぐに話をつけて追加を送り込むという話をしていたけど、それがようやく来たってことらしい。
よく見れば、フィズさん自身の姿もある。
一緒に来るとは言っていたけど、まさか本当に来るとは思わなかった。
「おお、ハク様! しばらく姿を見れなくて大変寂しい思いをしておりました! 息災のようで何よりです!」
「そちらも元気そうですね。そちらが例の冒険者さん達ですか?」
「はい! 皆、各国でAランクやBランクという実力者ばかりです!」
そう言って、フィズさんは他の冒険者達に私のことを紹介する。
どう見ても子供の姿に困惑する人も多数いたが、ハクという名前だけは知っている人も多いのか、ああ、あの……と珍しいものを見るような目に変わっていった。
それにしても、今更増援か。いや、タイミング的にはちょうどよかったのかな?
あの魔物を倒す際に、この冒険者達がいたら、一緒に討伐に行くことになっていただろうし、いくらAランク冒険者が揃っているとは言っても、怪我人の一人や二人は出ていてもおかしくはなかっただろう。
一応、死んでなければ治すこともできるけど、これほどスムーズに進まなかったと思うと、到着が遅れてくれて感謝してもいいくらいである。
それに、ここで到着したということは、私の仕事もだいぶ楽になる。
元々、冒険者候補の育成が仕事なのに、開拓の仕事までやらされていたからね。人手が増えれば、それだけ私がやらなければならない仕事も減る。
冒険者には申し訳ないが、私もそろそろ帰りたいので、ありがたい戦力だ。
「ハク様、早馬で報告がありましたが、なにやら厄介な魔物が出たとか?」
「ああ、はい。それに関してはもう討伐したので、気にしなくていいかと」
「なんと! 流石はハク様! 仕事が早いですな!」
「それより、この町のことについて説明しますね」
「おっと、そうでした。エルフが放棄した町という話は聞いておりますが、結構綺麗な状態ですね」
とりあえず、ずっと町の入り口にいるのもなんだということで、町を案内することにする。
町に関しては、すでにある程度整備して、使える家は修繕し、道もある程度は草むしりをしている。
設備も、機材こそあまり残っていなかったが、スペースは十分使える状態だったし、後は機材を持って来ればすぐにでも使える状態だ。
畑も、放置されていた割には綺麗で、ちょっと耕せばすぐにでも使えそうだったため、今は今後のことを考えてすでに整備させている状態である。
町で暮らすための基盤は粗方揃っている。問題があるとすれば、この町に来るためのアクセスの悪さだが、それは今後ゆっくり開拓していけばいいだろう。
町を発展させることに必要なリソースをそのまま割けるのだから、割と早いだろうしね。
「ここが、精霊が住まう教会です」
「おお、精霊! 確か、ハク様は精霊に愛される冒険者でもあるとか。ハク様がいれば、姿を現してくれますかな?」
「頼めば姿くらいは見せてくれると思いますよ。友好的なので」
「それは何よりです。しかし、精霊をこの目で見るのは初めてでして、一体どんな姿なのか……」
「なら、さっそく見て見ましょうか」
最後に教会へとやって来て、エウリラさんにフィズさん達を紹介する。
私が呼び掛けると、石の中にエウリラさんの姿が現れた。
冒険者達を含め、皆驚いた様子だったけど、エウリラさんは動じることなく、私に話を振ってきた。
『新しい住人かしら?』
「いえ、彼らは冒険者で、この町の守りを担う人々を育成する人達です」
『なるほどね。初めまして、私はエウリラ。雨の精霊よ』
「……はっ! は、初めまして、麗しき精霊よ。私はフィズ、こうしてお目にかかれたことを光栄に思いまする!」
フィズさんは、初めて出会った精霊に対して、敬意を表したようだ。
冒険者にしか興味ないと思っていたけど、流石にエルフが信仰する精霊に対して、不敬な態度は取れないよね。
まあ、精霊について詳しく知っている人なんてそうそういないけど、冒険者達も、フィズさんに習って丁寧な口調で挨拶をする。
エウリラさんも、その態度に満足したのか、特に不機嫌になることもなく、挨拶を終えた。
「エウリラさん、しばらくの間滞在すると思いますが、よろしくお願いしますね」
『ええ』
エウリラさんへの挨拶を終えた後、最後に向かうのは、今回の仕事のメインである、冒険者候補達の下である。
エウリラさんの雨の影響なのか、今や冒険者候補達はかなりの筋力をつけている。
後は、きちんと剣術をものにすれば、戦うことも難しくはないだろう。
この辺りにいる魔物は強いけど、そこらへんは経験を積んでもらって、頑張るしかない。
さっそく、訓練場で模擬戦をしてもらったけど、冒険者達も、ここまでとは思っていなかったのか、少しびっくりしていた様子である。
まあ、全くの素人と聞かされていたらしいからね。
実際には、傭兵経験があったり、キャンプ中に訓練もしていたようだから、全くの素人ではないと思うけど、それでも力が弱かったのは事実だし、割と使い物になりそうなことに驚いていたのかもしれない。
「流石はハク様! ハク様にかかれば、素人も短期間でこの通り!」
「みんなの頑張りと、エウリラさんのおかげですよ」
「それでも、ハク様は素晴らしい! 叶うなら、このままこの国に居ついてほしいくらいです!」
「いや、流石にそれはちょっと……」
私とて家族がいるし、この国に対しては別に思い入れもないから、滞在する理由が薄すぎる。
今回は、王様の頼みということもあって引き受けたけど、成長するなら自力でやって欲しい。
私がいなくても、これだけ高名な冒険者が揃っているなら、十分可能だと思うしね。
興奮した様子のフィズさんに呆れつつ、今後のことも考慮して、これまでのことを話していく。
さて、育成が終わり、帰れるのはいつになることやら。
開拓村がどう発展していくのか楽しみな反面、長らく帰れていないことに不安を覚えた。
感想ありがとうございます。
今回で第二部第二十一章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第二十二章に続きます。