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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十一章:開拓村編
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第五百八十二話:謎の嫌悪感

 私はひとまず、水の刃で攻撃を仕掛ける。

 これが件の魔物だとするなら、水は弱点のはず。仮に当たらなかったとしても、牽制くらいにはなるだろう。

 一応、景色がブレているところに向かって攻撃を放ったが、手ごたえはない。

 どうやら、外れてしまったようだ。


「アリア、上から援護して!」


「わかった!」


 とっさに、アリアを上空へと逃がす。

 恐らくだけど、この魔物は空を飛ぶことはないはず。遠距離攻撃は持っているかもしれないけど、少なくとも、地上よりは上空の方が安全のはずだ。

 アリアの魔法も、それなりの威力がある。うまく私の攻撃に合わせて攻撃できれば、隙も作れるかもしれない。


「探知魔法も使えないって言うのは、久しぶり過ぎてちょっと怖いな……」


 今まで、私はほとんどの戦闘を探知魔法に頼ってきた。

 いや、対峙している間は目視に頼ることも多かったけど、相手の位置を確認する際には、無意識に探知魔法を見るくらいには依存していたと思う。

 今も、映らないとわかっているのに、ついつい探知魔法を見てしまう。

 今この時においては、それは大きな隙になりうるし、目視で確認した方がいい。

 相手の攻撃が、一撃で即死させてくるような強力な攻撃であるならなおさらだ。


「おっと」


 空気の揺らぎから、敵の攻撃を察知する。

 感覚の話になるけど、恐らく相手は二足歩行ができ、少なくとも身長五メートルはある。

 攻撃は鋭い爪のようなもので、多分一本一本が私の胴体くらいあるんじゃないかな?

 威力は相当高く、硬そうな木が容易にへし折れている。

 いくら私の防御力が高いとは言っても、流石にあれは死ぬかもしれない。竜形態なら、もしかしたら弾けるかもしれないが、今変身する余裕はない。

 スピードもかなり速く、さっきまでそこにいたと思ったら、気が付いたら別の場所にいるってこともよくあった。

 私の水の刃より速いって、どれだけ俊敏なんだろうか。少なくとも、Sランク級の魔物であることは確定である。


「撤退は難しそうかな……」


 あわよくば、隙を見つけて逃げたいと思っていたけど、全然逃がしてくれる様子がない。

 闇魔法による拘束も試してみたけど、そもそも当たらないからね。

 こうなってくると、どうにかして討伐するしかない。かなり分が悪いけど、やるしかないか。


「こいつ、凄い鳥肌が立つ……!」


「私も何となく感じるね。見えないのが厄介って言うのはあるけど、もっと別の、嫌悪感を感じる」


 アリアに言われた時は何のことだかわからなかったけど、こいつと対峙したことで、なんとなくその気持ちがわかるようになった。

 こいつは、何というか、ここに存在してはいけない何かな気がする。

 見ているだけで鳥肌が立ち、嫌悪感に吐き気がする。

 いったいこの感覚は何だ? こいつは一体何者なんだ。


「ハク、もうこのあたり一帯吹き飛ばした方が早い!」


「環境破壊、と思ったけど、そんなこと言ってる場合でもないか」


 できれば景観を守りたいとか思っていたけど、このままだと私がやられてしまいそうだ。

 私は、周囲に結界を張り、一時的なシェルターを作る。そして、水の範囲魔法でこのあたり一帯を吹き飛ばす準備をした。

 私が止まったのを皮切りに、敵の攻撃が激しくなる。

 今までは何とか避けてきた攻撃だったけど、結界で受けているとはいえ、かなり重い。

 下手な防御魔法とかじゃ貫かれていてもおかしくないな。


「悪いけど、吹き飛んでね」


 準備が整い、魔法を発動する。

 周辺がさざ波のように揺らめくと、それは次第に波となり、巨大な渦潮となる。

 水魔法の範囲魔法。いくら相手が俊敏だったとしても、面攻撃してしまえば関係ない。

 しばらく、荒れ狂う水を眺めながら、収まるのを待つ。

 そう言えば、アリアは大丈夫だっただろうか。一応、アリアの提案だから、防御くらいはしていると思うけど。


「収まったかな」


 やがて水が収まると、辺りの景色は一変していた。

 木々はなぎ倒され、地面は抉れ、あちこちに水たまりができている。

 一応、範囲は少し絞ったとはいえ、確実に巻き込むためにはある程度の範囲は必要だった。

 これを再生するのは大変そうだけど、今回は仕方ない。

 それよりも、まだ気を抜いてはいけない。いくら水が弱点とはいえ、一撃で倒せる保障などないのだから。

 私は、周囲に視線を向け、奴の姿を探す。

 しかし、思ったよりも早く、その姿を見つけることができた。


「これは……」


 目の前にいたのは、巨大なクマだった。

 私のことなど丸のみにできそうなほど大きく、両手に備えた爪は黒曜石のように輝いている。

 先程まで、全く姿が見えなかったのに、なぜ見えるようになったのかはわからないが、憎悪の籠った眼でこちらを睨んでいる様子は、まだ闘志を捨てていない証拠だった。


「なに、こいつ……」


「この気配、何かおかしい……」


 そのあまりに巨大な姿にも驚いたが、それよりも驚いたのは、その気配だ。

 というのも、こいつからは精霊の気配を感じたのである。

 こんなでかい精霊がいるわけはないので、精霊ではないとは思うけど、真っ黒な毛皮に纏う神秘的な輝きは、精霊が纏うものと少し似ている気がした。

 一体どういうことだ? 私が知らないだけで、こんな精霊もいるのか?

 確かに、精霊は万物から生まれる可能性があり、その気になればクマの精霊とかがいてもおかしくはないけど、いくらなんでもデカすぎるし、気配も禍々しすぎる。

 得体のしれないものを垣間見て、私も背筋が寒くなってきた。


「あなたは、一体……」


 つい、話しかけてしまったけど、クマはその言葉に返すことはなく、森の奥へと去って行ってしまった。

 隠密が剥がれて不利と悟ったのか? 追おうとも思ったけど、これが罠の可能性もあるし、ここは見逃した方がいいか。

 こちらも、万全とは言い難いしね。


「……思ったよりも大物だね」


 ただの魔物であれば、伝説級の魔物だろうが何だろうが、相手にできる自信はある。

 ヒノモト帝国でそう言った魔物は見慣れているし、多少足が早かろうが攻撃が鋭かろうが、大抵のことは何とか出来る。

 しかし、あれは別格だ。探知魔法に映らないのもそうだけど、有り余る攻撃力、そしてスピード、どれをとっても今までの魔物とは違う気がする。

 まさか、クイーン関連か? クイーンが何かしら改造を施した魔物というなら、確かにあんな無茶苦茶をできる理由にもなりそうだけど。

 でも、クイーンが関連しているにしては、あまりに人と関わりがないような気がする。

 クイーンは、人々が苦悩する姿を見たいと言っていた。であるなら、その計画の中心には、人がいなくてはならないはずである。

 しかし、あの魔物は、随分前にエルフと接触して以降は、特に人との接触はない。

 今回の件だって、私達がわざわざこの場所を開拓しようだなんて思わなければ、ずっと静かに暮らしていただろう。

 そう考えると、クイーンが関わっている可能性は低いかもしれない。

 一体、なんなんだろうか。

 私は、去っていった方角を見つめながら、しばし思案していた。

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いったい何なんだ……
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