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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十一章:開拓村編
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第五百七十八話:移動の間の強化

 しばらくして、ようやく食料が届いた。

 食料を届けに来てくれた人は、もしかしたらみんな餓死してるんじゃないかと戦々恐々としていたようで、無事な姿を認めると、泣き崩れていた。

 そこまで心配してくれるのは嬉しいけど、それならもっと早く持ってきてほしいものだけどね。

 まあ、ここ数日分の遅れを取り戻すように、まとめて持ってきたようだから、多少遅くなるのも仕方ない気はするけど。

 とにかく、これで食料は揃った。後は、これをいくつかに分けて、町に向かうだけである。


「しかし、まさかこの雨が魔物を退けているとはね」


「精霊も町を守りたかったってことですね」


「この雨のせいで作業がちっとも進まなかったことを考えると複雑な気持ちだが、まあ、不意に強力な魔物が出てきて全滅よりはましか」


 雨は未だに降り続けている。件の魔物は水に弱いらしいから、雨が降っている間は遭遇する確率は低いだろう。

 食料を持ち、さっそく最初のメンバーを輸送する準備をする。

 食料が届くまでの間、一応軽く道を整備しておいたけど、流石にすべて繋げるだけの時間はなかった。

 この拠点からあの町まで道を繋げるんだったら、突貫工事でも少なくとも一週間はかかるだろう。

 後に、あそこを正式な町とするなら、街道も繋げなくてはならないし、町の発展よりも、道の整備の方が大変かもしれない。

 まあ、そこらへんは森に道を通そうって時点で織り込み済みではあるけどね。


「それじゃ先生、よろしく頼みますわ」


「わかりました。では皆さん、ついてきてください」


 テルミーさんに背中を押され、第一陣が出発する。

 軽くでも道を整備していたおかげで、方角はわかりやすい。

 私は、魔物の接近に注意しつつ、みんなを案内していく。

 雨ということもあって、ちょっと歩きづらい部分もあったけど、ほどなくして到着した。


「おお、ここが……」


「結構いい街じゃないか」


「これがこんな森の中にあるなんてびっくりだよ」


 町に着くと、皆口々に驚きの言葉を口にしていた。

 結界はちゃんと発動している。ここに魔物が入ってくることはないだろう。

 私は、念のためにエルを護衛に残し、とんぼ返りして残りの人達の案内をしていく。

 町と拠点までは往復で約二日。グループが十あることを考えると、移動だけで約二十日だ。

 約一か月がかりの移動。最後まで拠点に残っていたグループには申し訳ないけど、途中運ばれてくる食料を受け取るという作業もあるし、拠点を全くの無人にするわけにはいかなかった。

 でも、これも今日で終わりである。後は、食料が届く日にちに合わせて、拠点に取りに行けばいいだけだ。


「ようやく移動が終わったな」


「はい、お疲れ様でした」


「いや、先生を酷使させちまって申し訳ない。いつまでもこのままじゃいけないのはわかってるんだがな」


「仕方ありませんよ。道は私しか知りませんでしたし、一朝一夕で強くなれるわけでもありませんから」


 私の本来の仕事である冒険者の育成だけど、移動の間は、私が教えることもままならず、頓挫していた。

 と言っても、今のフェイズは筋力トレーニングが主なので、私が教えなくても自主的に訓練してくれていたから、そこまでの遅れはないとは思うけどね。

 最近は、ずっと移動に費やしていたから、みんながどれくらいの実力になったのかを確認できていない。

 後で確認しておかないと。


「すでにいくつかの家は修繕して、使えるようにしてある。後の問題は、その魔物とやらを倒すだけですぜ」


「ですね。私だけでどうにかなればいいんですけど……」


 今のところ、件の魔物の情報は限りなく少ない。

 エウリラさんの情報によると、二足歩行で鋭い爪を持った化け物という話だけど、最初はクマのようなものを想像していたけど、ゴブリンのような小さな人型という可能性もあるのだろうか。

 爪を持っていると考えると、獣を想像するけど、エルフからの外聞だけだから、よくわからない。

 いや、毛皮が厚いと言っていたから、獣なのは間違っていないのか? まあ、いいや。


「そう言えば、ここではちゃんと暮らせそうですか?」


「問題ない。食料調達に関しては、今のところは町頼みになるだろうが、畑もあったし、きちんと鋤いてやればまた使えるようになるだろう」


 さっそく件の魔物調査と行きたいところだけど、みんながここで生活できる状態で始めないとまずい。

 最悪、ここで暮らせないとなったら、また拠点まで引き返す必要があるのだから。

 まあ、拠点よりよっぽど設備が充実しているこの町で暮らせないなんてことはないと思うけど、唯一、食料に関しては現状恒久的に入手する手段がないので町を出る必要もある。

 今のところは、雨を降らせることで安全を担保しているけど、いつまでも有効かはわからないし、早めに対処しないといけないよね。


「ああ、それから、冒険者の件なんだが……」


「なにかありましたか?」


「まあ、見た方が早いだろう。こっちに来てくれ」


 そう言って、テルミーさんは先に進む。

 一体なんだろうと思いながらついて行くと、辿り着いたのは訓練場と思しき場所だった。

 過去に、エルフ達が使っていたものらしく、訓練用の藁などはすでに使えなくなっていたが、土地だけはあるので、模擬戦くらいならできるようだ。

 私が輸送に精を出している間、ずっと暇しているのも申し訳ないということで、冒険者候補達は日々訓練をしていたようだ。

 今も、訓練場では、何人かの人々が模擬戦を繰り広げている。

 しかし、その光景はなんだか異様だった。


「なんというか、力がだいぶ強くなっていませんか?」


 冒険者候補達は、剣こそ握れるが、力はあまりないという人が多かった。

 剣を十全に扱うためには、相手の骨ごと断ち切れるような膂力が必要となる。いや、正確にはそんな馬鹿力は必要ないかもしれないけど、力があった方が威力が上がるというのは確かだ。

 以前は、殺陣をやっているかのような軽さがあったが、今はなぜか、重い一撃に変わっている。

 太刀筋はまだまだ素人と言わざるを得ないけど、これなら多少の魔物くらいなら何とか出来るのではないかという説得力があった。

 いきなりどうした? 確かに、輸送には二十日ほどかかったし、それだけあれば多少は筋肉がついていてもおかしくはないけど、流石につきすぎなような……。


「あ、先生! 見てください、だいぶ筋肉がつきましたよ!」


「俺も見てくれ! どうよこの力こぶ!」


「な、何があったんですか?」


「いや、特に特別なことはしていない。ただ、先生に言われた通り、筋トレを頑張っていただけだ」


 何か特別なことをしていないのに、急に強くなった、と考えると、場所の問題だろうか。

 この町には、そんな特殊な能力があるのか?

 ……いや、違うな。恐らく原因は、この雨だ。

 エウリラさんが降らせるこの雨は、ただの雨ではなく、魔力を含んだ特別な雨だと言っていた。

 魔力を多く持つ者にとっては、浴びすぎると害を及ぼす可能性のあるものだったようだけど、数日浴びる程度だったら、むしろ体が強化され、調子が良くなるという話もある。

 輸送の間は、魔物を警戒して、ずっと雨を降らせていた。つまり、訓練していた人達も、ずっと雨を浴びていたことになる。

 今まで、拠点でも雨の日に作業することなんてざらだったから、雨に濡れることへの抵抗も薄かったのだろう。その結果、雨が何らかの影響を及ぼし、筋力の増強を助けた、ということなのかもしれない。

 もしこれが本当だとしたら、エウリラさんの雨は、使いようによっては精鋭を育てることもできることになるけど……これなら、すぐにでも使い物にできるかもしれない。

 私は、なんだか突破口を見つけたような高揚感を感じた。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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