第百三十五話:変換完了
2021/2/21 内容を一部修正しました。
私の魔力に反応して魔石から岩が生成される。青みがかった色は魔力溜まりで見たものと同じだ。
これ自体は魔石特有の結晶質ではないけれど、確かに魔力を含んだ岩。魔石の塊と言っても過言ではない。これだけ魔力が込められていれば魔法耐性もそこそこありそうだなぁ。
しかし、今必要なのは土の魔石ではなく雷の魔石。人工で土の魔石に変換する場合は品質の悪いものになってしまうことを考えると土の魔石を別の属性に変換するのは少しもったいないように思うが、出してしまったものは仕方ない。今更属性なしの魔石を出されたところで加工の手間が増えるだけだろう。
机を荒らさないように岩を制御しながら徐々に雷の魔力を付与していく。ゆっくりと、ということだったのでだいぶ加減しているのだが、あまり変化が見られない。
まあ、小さな魔石でも丸一日かかるとのことだったし、通常なら二週間かけてようやく変換できる魔石がほんの数分で変化が起きたらそれは問題なんだろうけど、やはり変化が見られないというのはあまり面白くない。
「これ、どれくらいやればいいんですか?」
「出来れば魔力が尽きるまで、と言いたいところだが、嬢ちゃんの気分で構わない。倒れられても困るからな」
集中力のいる作業だからこまめに休憩して水分補給も忘れないようにと注意される。ザック君がお茶を用意してくれたが、まだ別に疲れてないのでいいだろう。
うーん、割らないようにとは言われたけど、時間が迫っている以上はそこそこ魔力を込めた方がいいよね? どの程度なら割れないだろうか。前回の実験を思い出してみる。
あの時は特に何も意識せずに魔力を流していたけど、割れることは一度もなかった。小さい魔石であれなのだから、大きくて容量もあるこの魔石なら少なくとも前回と同じくらいの魔力量なら割れることもないのでは?
どれくらいでやっていたっけ。無意識でやっていたから正確には覚えていない。でも、無意識でやったってことは多分、使い慣れた魔法と同じくらいだと思う。
となると、初級魔法を使うくらいの魔力量なら平気かな? 同じ初級魔法でも最適化したのとか二重魔法陣を使ったのとか色々あるけど、状況を考えるに多分最適化した奴かな。
まあ、最悪割れてしまったとしても予備があるし、その時はごめんなさいしてまた加工してもらえばいい気もする。
うん、初めてだし許してもらえるだろう。そうと決まれば魔力の量を増やしてっと……。
「ふっ……」
流石に急激に増やしたら負荷で割れてしまうかもしれないので徐々に増やしていったが、変化は確実に現れた。
触れている部分が徐々に青みがかった茶色から透明へと変わっていき、それに合わせて黄色が強くなっていく。
あの時はさあっと流れるように色が変わっていったが、今回はじわじわと少しずつ浸食するように色が変わっていっている。大きいから魔力が浸透するのに時間がかかっているのだろう。
「これは……」
「嘘だろ……」
作業を見守るザック君とお父さんが目を丸くしている。
うまくできている保証はないけど、このくらいならあと一時間もやれば完全に色が変わりそうだ。
その分、魔力の消費量は半端ないけど、翼が生えた副産物として魔力がかなり増えているためそこまで苦にもならない。というか、朝あれだけ消費したのにまだ有り余ってるってどういうことなの。
増えすぎた魔力をどうやって消費しようかと考えていたが、魔石を変換する作業は割といいかもしれない。派手な魔法を使わなくてもガンガン魔力を消費してくれるし、魔石を生産できるしでいいことずくめだ。
これが終わるころにはかなり消費されていることだろう。そうすれば、翼も消えてくれるだろうか?
まあ、今は作業に集中しよう。この流れを断ち切っちゃいけない。
「ふぅ……」
それから一時間ほど。慣れてきたのか、そこまで苦労することもなく魔力を注ぎ続け、ようやく全体の色が変わってきた。魔石から発生しているのも岩ではなく雷となり、しっかりと雷の魔石になっていることがわかる。
なんか二週間もかかるというから身構えていたけど、拍子抜けだ。でもまあ、今の私の魔力はそこらの人よりは相当多い状態になっているし、普通の魔力量の人が同じ作業をやろうと思ったら休憩も必要だろうしで時間はかかるだろう。それでも二週間もかからない気がするけど……まあ、いいや。
「これでいいでしょうか?」
私は魔石から手を放しながら振り返る。そこには、口をパクパクとさせているお父さんとザック君の姿があった。
しばらく待っても反応がないので目の前で手を振ってみると、ハッと我に返ったのかようやく反応を示してくれた。
「あ、ああ、確認しよう……」
ぎこちない動きで魔石を調べ始めるお父さん。割れないように慎重に扱いながら全体を見ると、ほうと息を吐いて魔石を机の上に戻した。
「完璧だ……完璧に雷の魔石に変換されている」
「マジかよ……たった一時間ちょっとで? お前何もんだよ」
呆然と立ち尽くすお父さんに私に怪訝な表情を向けるザック君。
何者かと言われてもただの冒険者だと答えるしかないのだが、そう答えても鼻に皺を寄せるばかりで納得いっていない様子だった。
「この大きさの魔石を一日で変換できるなんて普通じゃない。店に来たときの翼といい、お前竜人なのか?」
「あの翼は魔力溜まりにいた副産物と言いますか、私にもよくわかっていないのですが……私は人間ですよ?」
竜人は身体能力もさることながら魔法の扱いにも長けている。その魔力量は人間の倍以上とも言われ、昔はその驚異的な能力で人間に牙を剥いていたそうだ。
もしかして、竜人っぽい見た目になったから魔力まで増えているのだろうか? いや、逆かな? 魔力が増えたから竜人っぽい見た目になった? 魔力が増えるだけで竜人になれるんだったらもっと竜人が跋扈しててもおかしくないと思うんだけど。よくわからない。
少なくとも、私の両親は人間のはずだ。別に翼も尻尾も生えていなかったし、いたって普通の人間だったように思う。そもそも、親が竜人だったというならお姉ちゃんやお兄ちゃんにその特徴が表れていないのはおかしいし、だから私は確実に人間のはずだ。
「いくら冒険者でもギガントゴーレムを倒したり魔力溜まりにいたりっておかしい……」
「まあまあ、いいではないか。こうして無事に雷の魔石が完成したのだ。今はそれを喜ぼう」
なおも不満をぶつけようとするザック君を制してお父さんが私の手を取る。
「本当にありがとうございました。何とお礼を言っていいやら……これで店を潰されずに済みます」
「いえいえ、お役に立てたのならよかったです」
「報酬は必ずお支払いします。ありがとうございました」
善意でやったことだし、報酬は別にいいんだけど、まあ、払えた方がお父さんも納得できるだろうしここは貰っておいた方がいいか。今は早く仕上げをして依頼品の完成を急いでもらった方がいいだろう。
『あれ、この名前……』
ふとアリアの声が響く。その声につられ、私はちらりと設計図を覗き込んだ。
見れば見るほど何に使うのかよくわからないものだが、アリアが気になっているのは端の方に小さく書かれている文字のようだ。
設計図の形式からして、それは恐らく名前。多分設計者の名前だろう。私が見てもなんのこっちゃだが、アリアはその名前に心当たりがあったようだ。
『これ、セレフィーネ・フォン・マグニスって書いてあるね』
セレフィーネ・フォン・マグニス。しばし、その名前を頭の中で反芻していると、違和感の正体に気付く。
これ、エルバートさんと同じ家名だ。
感想、誤字報告ありがとうございます。