第五百七十三話:雨の多さ
ひとまず、対処としては魔物を食料にするという方向で決まった。
一応、私なら、転移で町に戻って、食料を持ってくるということもできるけど、それはあまりに常識外の行動だ。
転移魔法は、普通の人間には使うのは難しいし、どうやって持ってきたのかと聞かれても答えられない。
であるなら、本当に困窮するまでは、対処できる範囲で対処した方がいいだろう。
まあ、あんまり食べたいとは思わないけども。
「とりあえず、ちょっと奥まで進んできたけど」
拠点の防衛のためにエルを残して、魔物を狩るために、少し森の奥まで進む。
探知魔法を見て見れば、結構な反応があるので、獲物には困らなそうだ。
適当に狩りつつ、それらを【ストレージ】に入れて、ガンガン進む。
レポートによると、この辺りは岩場の近くだったかな。
何者かがいた痕跡があるとは言っていたけど、一体どんなものなんだろうか。
ちょうどいいし、ちょっと寄ってみようかな。
「ここかな」
しばらく進むと、それらしい岩場が見えてきた。
確かに、ここら辺だけ地面に石がむき出しになっていて、採石ができそうではある。
なんでこんな地形になっているんだろうか、と思ったけど、どうやら地殻変動か何かで、地層がずれたようだ。
よく見てみると、あちらこちらに小さな崖っぽいものが見えるし、その影響で土が剥がれて、岩が出てきたのかもしれない。
でも、地形が変わるほどの地殻変動が起きるとなると、災害が多いんだろうか?
この世界だと、地震ってほとんどないんだけど、そのせいもあって、地震が起きる時は何かの災害の前触れと言われている。
まあ、実際にはただの迷信だとは思うけど、この世界だと、あちらの世界での常識が通用しないこともあるから、用心するに越したことはない。
少し慎重になりながら、辺りを見回す。
すると、近くになにやら傷のついた岩があった。
「これは……爪とぎでもしてたのかな?」
痕跡って言うのはこれのことだろうか。
森の魔物なら、こう言うことをする者もいるし、何らおかしくはないけど、木ならともかく、岩でやるとなると結構強力な武器を持っている可能性がある。
言っていたBランク級の魔物かな? あるいは、それ以上の何か。
いずれにしても、ここらを1縄張りにしている可能性は高そうだし、ここを利用するなら、どうにかして排除しないといけないね。
「あ、雨……」
そうこうしていると、また雨が降ってきた。
雨の原因に関しても、調べておきたいけど、今ふと思ったのは、神様が関係しているんじゃないかという話。
天候を司る神様がいてもおかしくはないし、例のクイーン関連だったとしたら、相当面倒くさいことになる。
流石に、まだ何の情報もないからただの妄想でしかないけど、できれば外れていてくれると信じたい。
「とりあえず、帰ろうか」
雨に降られてしまったし、獲物はそこそこ狩ったから、帰って大丈夫だろう。
私は、最後に岩場をちらりと一瞥した後、その場を後にした。
それから約三日後、食料も尽きたので、当初の予定通り、魔物の肉を食べることになった。
料理人がそこそこ優秀だったおかげもあって、思ったよりはまずくなかったけど、しばらく野菜もない生活となるので、栄養バランスが心配である。
町からの連絡も未だにないし、この状態が長く続けば、崩壊もあり得る。
早く解決してくれるといいんだけどね。
「今日も雨、か」
「流石に降りすぎじゃないか?」
今日も雨が降り、作業は難航している。
唯一の救いは、川の水がほとんど濁っていないということ。
普通、雨が降れば、水かさが増し、泥などが混じって濁ると思うんだけど、全然そんな様子がない。
おかげで、飲み水にはそこまで困らなくていいけど、どのみち雨が降り続けているせいで、水にはそこまで困っていないからあんまり恩恵はない。
それよりも深刻なのは、暖の問題である。
現在は春だけど、連日の雨のせいで、春とは思えないほど寒い。
しかも、雨の中作業したこともあって、風邪をひく人も少しずつ出始めていて、徐々に人員が減りつつある。
家すら建てられていない今の状況だと、満足に休める場所もないし、早いところどうにかしないと、まずいかもしれない。
「こりゃ、思った以上に過酷だなぁ……」
「テルミーさん、状況はどうですか?」
「先生のおかげで、食料はまだ余裕がある。薬も、持ち込んだ分で何とかなりそうだ」
「それは何よりです。でも、そう長くは持ちませんよね?」
「まあな。せめて雨がどうにかなればいいんだが……」
水の少ない土地だと、雨は恵みの雨とも言われるくらい重宝されるものだけど、ありすぎるというのも問題である。
水瓶はすでにいっぱいになって溢れているし、雨の中で作業をするのは寒さ対策も相まってかなり難しい。
これは、本格的に雨の原因を調べた方がいいかもしれない。
原因がわかれば、対策もできるかもしれないからね。
「一度、森の奥を調査する必要がありそうですね」
「森の奥ってぇと、学者さん方が言ってた、雨の原因って奴ですかい?」
「はい。どうやら、このあたりの森一体が雨に降られているようですので、原因があるとしたらそのあたりかと」
これまでも、何度か学者さん達と森の調査に赴いたけど、雨の原因に関して、ある仮説を立てた。
それが、魔物が雨を降らせているんじゃないかという説。
私は、神様が関連しているんじゃないかと考えたけど、確かに、まだそっちの方が現実味がある。
もちろん、雨を降らせる魔物なんて聞いたことがないけれど、私が飛んで調べた限り、雨が降っているのはこの森とその周辺一帯のみ。つまり、原因があるとしたら、この辺りにある可能性が高い。
雨を降らせる新種の魔物がいるとしたら、その魔物をどうにかしない限り、この地に住むのは難しい。
いや、雨を降らせてくれるというだけなら、使い方によっては役に立つ可能性もあるけど、それにも対策がいるだろうし、どちらにしても、原因は突き止める必要がある。
そう言うわけで、本格的に調査をしようというわけだ。
「ま、このまま降られ続けてもちっとも開拓が進まねぇし、原因を突き止める必要はあるわな」
「ひとまず、私が先行して調べてみます」
「わかった。任せましたぜ」
詳しい調査は学者さん達を連れていく必要があるかもしれないが、行くにしてもある程度魔物を排除する必要があるし、私が先行した方がいいだろう。
さて、うまいこと原因がわかればいいんだけど。
そんなことを思いながら、さっそく準備を整えた。
感想、誤字報告ありがとうございます。