第五百六十八話:開拓キャンプ
結局、割り込む間もなく話が進んでいるようなので、もう現状を受け入れることにした。
多分だけど、私の方からフィズさんに何を言っても無駄だろう。
フィズさんは、私に期待しまくっている。それこそ、神様か何かだと勘違いしているんじゃないかというくらい。
期待されるのは悪い気はしないけど、あまりに期待が多すぎて、本来の仕事でないことまで押し付けられても困るのだ。
一応、今回の開拓予定地の護衛に関しては、冒険者を育成するにおいては必要なことだと思うし、別に構わないけど、だとしても一人でやらせる内容じゃないだろう。
他の冒険者にも呼びかけをしているようだから、彼らが頷いてきてもらえるようになってからでも遅くはない。
足並みを揃えて、着実に進めれば、そう悪い計画でもないだろうに、私への期待が大きすぎるせいで、他は必要ないって言う思考になっているのが問題過ぎる。
というか、私のことは知っているのに、エルのことは知らないようだったし、本当に周りが見えていない。
「あー、何かよくわからんけど、あんたも苦労してんね」
「期待されすぎるのも問題ですね……」
とりあえず、キャンプに置き去りにされてしまったし、話を聞くことにする。
このキャンプは、開拓予定地で作業をするために集められた人たちのキャンプということで間違いないらしい。
開拓に必要な物資も揃えられており、今すぐにでも出発することができる状態なんだそうだ。
人数は百人近く。作業員などだけならもう少し少ないけど、中には家族と一緒に行く人もいるようなので、その分増えたって感じだね。
すでにこのキャンプ生活が一か月くらい続いているらしく、さっさと出発したいと嘆いているようだった。
「一応、こちらも仕事で受けてきたので、挨拶をさせてください」
「あいよ。まあ、さっきの騒ぎで大体の奴らは知っているとは思うけど、改めて紹介しようか」
テルミーさんは、そう言ってキャンプの中を案内してくれた。
人材としては、今回の仕事対象である冒険者候補達の他に、伐採、建築、料理などの担当が多くいるようだ。
他にも、未知の土地を調べるため、学者の人だったり、武器の手入れを行うための鍛冶屋だったり、様々な専門職の人も多く混じっている。
そんな人達を一か月近くキャンプで暮らさせるのはどうかと思うけど、どうせ、開拓予定地に辿り着いたら、この生活をすることになるのだし、慣れる意味も込めて、受け入れているって感じだね。
なんかところどころずさんな気がしないでもないけど、一応意味はあるのか。
「で、あんたは高名な冒険者ってことだが、本当なのか?」
「ええ、まあ、一応は。これでもBランク冒険者です」
「へぇ、こんなに小さいのにねぇ。小人族の方?」
「一応人間ですよ。ただ、ちょっと体が成長してくれないだけで」
実際、私の体は成長しない。
妖精が精霊になる際に、多少体の変化がある場合はあるけど、私の場合は、初めから精霊だったしね。
【擬人化】のスキルを手に入れた今、やろうと思えば大人の姿にもなれるけど、すでに多くの人に知られてしまっているし、今更姿を変えるのも違うと思う。
別に、子供の姿で困ったことはあまりないしね。
今みたいな状況は除くけど。
「ま、あの人はちょっと頭おかしいところもあるけど、無類の冒険者マニアだし、嘘ってことはないでしょうよ。俺は聞いたことがないが、過去になんかやらかしたみたいだしね?」
「あはは……若気の至りという奴です」
「多少不満を言う奴もいるとは思うが、教えてくれる分には特に邪魔はしないよ。ただ、問題なのは、道中の護衛があんた一人になりそうってところだな」
そう言って、テルミーさんは腕を組んで唸りだす。
今回は、百人規模の大所帯なため、それを守るとなると、数十人レベルの護衛が必要になる。
しかし、フィズさんは私がいれば大丈夫と、護衛をつける気はなさそうだ。
流石に、全員が全員非戦闘員というわけではないとは思うけど、だとしてもこの規模を一人で守れって言うのは無茶振りが過ぎる。
お兄ちゃん辺りを連れてくればよかったかなぁ。
「ちなみに、皆さんは戦える人はどれくらいいるんですか?」
「そうだねぇ、冒険者候補となっている奴は、元傭兵だったりする奴も多いから、半数くらいは戦えるとは思うよ。実力は……まあ、ランクで言うならFからCの間くらい?」
「だいぶばらつきがありますね」
「ま、いろんなところから来た奴らだしね。故郷で仕事にありつけず、逃げるようにここに辿り着いた奴もいたりする」
「なるほど」
「と言っても、こんだけの規模なら、盗賊は寄ってこないだろうし、魔物だって警戒して出てこないとは思うがね。そう言う意味では、あんた一人でもなんとかなるかもだ」
「そう祈るしかないですね」
数が多いというのがデメリットでもあり、メリットでもあるってところだね。
数が多ければ、そうそう襲われることはない。だって、返り討ちに合うから。
その人達が全員非戦闘員だったとしても、相手からはそんなのわからないわけだし、仮に戦えなくても、棒で叩くくらいはできるから、囲んで叩けば多少は何とかなる。
そう言う意味では、ある意味安全かもしれない。
問題は、それほどの人数の食料などをどうするかって話だね。
道中もそうだし、開拓予定地に着いてからもそう。
計画では、近くの町から供給する予定ではあるようなのだけど、果たしてそんなので何とかなるのか。
「ちなみに、そっちの美人さんは戦えるのかい?」
「エルのことですか? はい、もちろん」
「へぇ、そっちも冒険者?」
「冒険者ではないですけど、下手な冒険者よりは強いと思います」
ねっ? とエルに視線を向けると、エルは軽く手に氷の粒を纏った。
魔法をこんな風に制御できるのは熟練者の証だから、見る人が見れば実力者だとわかるだろう。
テルミーさんも、ほうとちょっと感心したように呟き、軽く笑った。
「なるほど、流石は有名冒険者と一緒にいるだけはあるわ」
「いざという時は、エルも頼りにしてもらって大丈夫です。なるべく応えますから」
「了解。あんまり舐めた態度取らないように言っておくわ」
そうして話をしていると、日が暮れてきた。
フィズさんは、私にこのキャンプで過ごしていてほしいと思っているようだけど、帰ろうと思えば帰れるんだよね。
一応、お兄ちゃん達には、しばらく帰れないかもしれないとは言ってきたから、帰らなくても問題はないけど、そもそもこのキャンプに泊まれる場所はあるんだろうか。
「ああ、そう言えば寝床を用意してなかったな。今テント建てるから、少し待っててくれ」
そう言って、開いている場所に手早くテントを立てていく。
テント生活は久しぶりだけど、まあ、これはこれでありかもしれない。
果たして、こんな調子で大丈夫だろうか。
わずかな不安を感じながら、眠りにつくのだった。
感想、誤字報告ありがとうございます。