第五百六十七話:冒険者の候補
とりあえず、できるかできないかは置いておいて、まず私は何をすればいいのかを聞いてみることにした。
フィズさんの話によると、冒険者候補となるのは、その大半が、国の外からやってきた人達らしい。
今回の開拓プロジェクトを聞きつけて、仕事になると踏んだ人々が大量に流れ込んできており、彼らを労働力にすれば、開拓と合わせて一石二鳥だという考え方らしい。
無事に開拓が成功し、町ができた暁には、その町で市民として暮らすことができる。
その際には、家は用意されるし、協力金として、いくらかのお金も支払われるため、未開の地を開拓するというリスクはあるにしても、かなりお得に移住することができるということになるので、それを狙っている人も多くいるようだ。
冒険者は、元々普通の仕事に就けなかった人がなる最後の砦みたいなものだけど、こうして入ってきた人々のほとんどが無職らしいので、冒険者でも仕事に就かせてくれるなら大歓迎ってことだね。
「現在は、開拓予定地に向かうために準備を整えている最中です。人数としては、ざっと三十人ほどかと」
「それを私一人で教えろと?」
「はい! ハク様ならやり遂げてくれると信じております!」
「期待しすぎなような気もしますが……」
正確に言うと、冒険者候補だけで三十人ほどで、その他に開拓要因として五十人ほどが参加する予定らしい。
すでに一部は開拓予定地に向かっているらしく、私達はその後を追う形になるようだ。
開拓って、相当難しいと思うんだけど、護衛とかちゃんといるんだろうか。
指揮する人はいるだろうから、そのあたりは考えているとは思うけど……。
「ハク様には、実際に開拓予定地に足を運んでいただき、そこで訓練していただけたらと思っております」
「なるほど。こちらで育てて送り込むじゃダメなんですか?」
「それも考えましたが、それだと、その間開拓予定地の人員が危険に晒されることになります。なので、ハク様には教えてもらいつつ、町の護衛をしていただきたいのです」
「護衛役も兼ねるってことですね」
確かに、十分育たないまま戦わせるのもあれだけど、全く戦力がいない状況を作り出すのも困る。
いや、その間は他の冒険者達を呼び寄せるとか、やり方は色々ある気もするけど、私が先遣隊みたいなものだから、その処理が追い付いてないってことなのかな。
ちょっと急ぎすぎている気がしないでもないけど……。
「なあ、やっぱり先を急ぎすぎじゃねぇか? 他の冒険者達の返答だってまだ来てないんだし、それを待ってからでも遅くはねぇだろ」
「甘い甘い。物事は迅速にやらなければ意味がない。なあに、ハク様がいれば何の問題もないさ」
私の疑念はタグルさんも感じているのか、心配そうな顔をしていた。
ちらりと、タグルさんが私の方を見る。
なんだってこんな子供にそんなに期待を寄せているのかって顔だね。
うん、私もそう思う。子供の容姿とか抜きにしても、あまりに期待しすぎだ。
頼ってくれるのは嬉しいけど、あまりに急ぎすぎて重大な失敗でも起こさなきゃいいけど。
「ひとまず、ハク様には冒険者候補となる人達に会ってもらいたいのですが、いかがですか?」
「そう、ですね。どんな人かわからないと、教えようもないですし、会わせてもらえますか?」
「わかりました! すでに手配しておりますので、こちらへどうぞ!」
そう言って、すぐに立ち上がると、足早に先導していった。
仕事が早いのはいいことなのか悪いことなのか、考えさせられる。
慌ててついて行くと、馬車に乗せられて、いずこかへ向かうことになった。
「ここは、開拓予定地に向かう人々の開拓キャンプです。冒険者の候補はあちらですよ」
しばらくして、馬車が止まる。
どうやら、ここは王都から外に出たところらしい。
あちこちにテントが張られており、そこに何人もの人々がたむろしていた。
開拓地にキャンプを立てるのはまだわからないでもないけど、この時点でキャンプを作っているのはどうなんだ?
もしかしたら、あまりに人が来すぎて、王都でも受け入れができなかったのかもしれない。
効果が予想以上だったのか、それとも政策が甘いのかわからないけど、まあ、とりあえず話を聞いてみようか。
「おーい! テルミー、いないか!?」
「はいはい、ここにおりますよっと。って、フィズさんじゃないですか、出発はもう少し先だったはずじゃ?」
「おお、そこにいたか。いやなに、今日はお前達にスペシャルな助っ人を連れてきたのだよ!」
「助っ人?」
そう言って、フィズさんは私のことを紹介する。
しかし、テルミーと呼ばれた男性は、きょとんとして、あまり理解できていなさそうだった。
あまりに大きな声だったから、他のテントにいた人達も集まって来て、その度にフィズさんが説明をしたが、みんなぽかんと口を開けているばかり。
どうやら、私のことはあんまり知られていないようだ。
「えっと、そこのお嬢ちゃんが凄腕冒険者だと?」
「その通り! ハク様の手にかかれば、お前達も一流の冒険者となることができるだろう!」
「へ、へぇ、そうですか。あー、ハク様? 俺はこのキャンプのまとめ役を任されてるテルミーって言うもんです。どうぞよろしく」
「はい、こちらこそ。……すいません、こんなので」
「い、いやいや、あんたは悪くないでしょうよ。ね?」
テルミーさんがちらりとタグルさんの方を見ると、タグルさんはやれやれとため息をついていた。
受け入れられたかはわからないけど、とりあえず、フィズさんの前であからさまに否定するのは避けた様子だ。
大丈夫かなぁ。教えるのはいいけど、見た目のせいで舐められたりしたら面倒くさいんだけど。
いっそのこと、エルを前に出して、私は後ろから指示するだけの方がいいかな?
エルも見た目は若いけど、私ほどではないし、私よりは言うこと聞いてくれそうな気がする。
「今日はハク様の顔合わせに来ただけだが、今後は行動を共にし、冒険者の何たるかを学んでいってほしい!」
「へい。でも、確か出発は明後日じゃなかったでしたっけ?」
「その通り。ハク様も、開拓予定地へと同伴してくださる。旅を通じて、わかり合うのもいいだろう!」
「な、なるほど。それで、護衛は?」
「そんなもの、ハク様がいれば十分だ! なんたって、ハク様はオルフェス王国では知らない者がいないくらいの高名な冒険者だからな。魔物が現れようが盗賊が現れようが、ちょちょいのちょいだ!」
「おい、仮にハクが使える奴だとして、それでも一人はどうなんだ」
「何の心配もいらない。知らないのか? オルフェス王国で起きた特異オーガ事件のことを。あの時、ハク様はたった一人で何十、何百というほどの特異オーガを葬り去った実績がある! それに、護衛なら一応いるじゃないか、隣に」
「私ですか?」
「うむ。ハク様の側にいる以上、多少は力になるはずだ。これなら文句はあるまい?」
「う、うーん……」
テルミーさんはタグルさんの心配をよそに、フィズさんは上機嫌な様子で言い放ち、そのまま戻っていった。
どうやら、出発までの間、私もここで滞在し、友好を深めてくれということらしい。
おおよそ他国の賓客にする態度ではないけど、それも期待の裏返しなんだろうか。
去っていく馬車を見ながら、私は小さくため息をついた。
感想、誤字報告ありがとうございます。