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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十章:辺境の雪祭り編
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幕間:敗北を糧に2

 説得の結果、どうにかアリシアに会わせてもらえることになった。

 なんだか、あんまり会わせたくなさそうな雰囲気だったが、俺が折れないのを見て、諦めたようである。

 一体何をそんなに渋っていたのかは知らないが、とにかく会わせてもらえるなら何でもいい。

 そのアリシアが、俺と戦ったアリシアとは限らないが、その時は情報だけでも手に入ればいいのだが。


「先触れは出しておきますので、少し時間を空けてから向かってください」


「おう。ありがとな」


 アリシアの家を教えてもらい、いざ向かうことにする。

 時間を空けろとのことだったから、せっかく王都に来たことだし、待たせているパーティメンバーのためにも土産でも見繕っておくかと思って、商店街に向かったりした。

 そうしてしばらくしてから、アリシアの家へと向かう。

 扉をノックすると、すぐに扉が開いた。


「お待ちしておりました。どうぞ中へ」


 出迎えてくれたのは、まさかのアリシア本人である。

 てっきりメイドでも出てくるのかと思ったが、剣爵だからそんなに雇えないのか?

 改めて容姿を見てみると、確かに似ている。

 顔は仮面で隠していたからよくわからないが、体つきはまさにあの時戦った女性と酷似していた。

 応接室へと通され、お茶を出される。

 アリシアがお茶を飲むのを待ってから、俺も口をつけたが、割と普通の味だった。

 まあ、お茶の味なんてどうでもいい。さっそく本題に入るとしよう。


「さて、ここに来た理由を話す。ハクから聞いているかもしれないが、俺はある冒険者を探していてな。その名前がアリシアと言うんだが、あんたはあの時のアリシアなのか?」


「……ええ、その通りです」


 意外にも、アリシアはあっさりと答えた。

 やはり、あの時のアリシアだったかと安堵すると同時に、新たな疑問が浮かんでくる。

 それは様々あるが、とにかく聞きたいのは、その剣の技術についてだ。


「やっぱりか。また会えて嬉しいぜ」


「私は嬉しくありませんけどね」


「そう言うなって。色々聞きたいことがあるんだが、よければ答えてくれないか?」


「内容によりますね」


 アリシアは少し面倒くさそうな顔をしていたが、そんなことは些細な問題である。

 俺は早速、剣の技術をどこで身に着けたのか聞くことにした。

 あの時は、独学だと言っていたが、いくら騎士の家系とはいえ、こんな華奢な女性が独学だけであれほどの腕を身につけられるのか。

 せめて、何かきっかけでもあるんじゃないかと、探りを入れていきたいと思った。


「……こういうことをあまり自分で言いたくはありませんが、私には才能があったんです。剣を握った瞬間から、どう扱えば十全に力を発揮できるのか、理解できましたから」


「流石天才だな。だが、貴族の子女が、剣に触れる機会なんて相当稀なはずだ。何がきっかけで剣に触れることになったんだ?」


「子供の時から、剣には憧れを持っていましたから。幸い、この町には道場もありましたから、そこに通い、それで基礎を身につけた経緯があります」


「道場に通ってたのか。なら、独学とは言えないんじゃねぇか?」


「道場に入る前から、使い方は理解していましたから。今の戦闘スタイルは、道場で教わった技術と、独学で編み出したものの複合体です」


「なるほどな。確かに、なかなか型が読めなかった。守ったかと思ったら、カウンターを狙い、かと思えば一気に攻め立てる。あっけに取られている間に負けていたな」


 剣の基礎的な技術はどこの流派でも似たようなものだが、応用となってくると、かなりの幅がある。

 大抵は、戦っているうちに、相手が何を狙っているのかがわかってくるものだが、アリシアの場合は、それがほとんど読めなかった。

 型を理解したと思った時には、また別の型に変わっているのである。

 それに、型とか関係なく、素早さもあった。

 女性が剣を持つ場合、レイピアのような軽い剣を除くと、動きが鈍ることがよくある。

 女性が持つには、剣は重すぎるから、剣に体が引っ張られて、振り回されることがあるのだ。

 もちろん、ある程度熟練した冒険者とかなら、それを考慮に入れた動きをすることができるし、金があるなら、特注の剣を作って重量を軽減する工夫をしていることもあるから、一概には言えないが、それでも男性よりは動きが遅いことが多い。

 仮に速くても、その一撃は軽いことが多い。

 重量を減らせば、その分斬撃にかかる重さが減るわけだから、致命傷を与えるのはなかなか難しい。

 特に、今の主流の剣は、力任せに叩き斬るものが主流だから、力が弱い女性が扱うには難しいというのもある。

 それなのに、アリシアは一撃一撃の重さもあった。

 目をつぶっていたなら、熟練の男性と戦っていると思うことだろう。


「いったいどうやったらあんな動きができるんだ? ぜひとも教えてもらいたい」


「冒険者がそう言うことを詮索するのはご法度でしょう」


「だが、あんたは冒険者ではないだろう?」


「それはそうですが……強くなりたいと思うなら、自分で見極め……いや、いいです。教えましょう」


 アリシアは、心底面倒くさそうな顔をしていたが、意外にもすぐに答えてくれた。

 と言っても、そんな大したことではないらしい。

 アリシアには、剣を握ると、どうやったらその剣が十全に効果を発揮できるのかが理解できるらしい。

 だから、それに従って動いているだけで、特に深く考えていることはないのだとか。

 凡人にはおおよそ理解できないことではあるが、本物の天才となると、そう言うこともあるんだろうか?

 俺も子供の頃は神童と呼ばれていたほどだったが、その感覚は理解できない。

 これに関しては、いくら突っ込んで聞いても無駄だろう。なにせ、アリシア自身もわかっていないんだから。


「そうか。なら、もう一つ聞きたい。あの従魔はどこで手に入れたんだ?」


「ああ、あれですか……」


 アリシアは、ちらっと目線をそらした後、静かにため息をつく。

 テイマーの情報はギルドでもなかなかないから、単純に興味もあるが、どうやったら魔物を手懐けられるんだろうか。


「あの子とは、森でたまたま出会ったんです」


 話によると、森へと赴いた際に、傷ついて弱っているあの魔物を見つけ、介抱をしたら、懐かれて従魔となったらしい。

 本来、魔物がそんな風に懐くなどほぼないはずだが、やはり特別な魔物だったんだろうか。

 今まであんな魔物は見たことがないしな。


「今はどこにいるんだ?」


「普段は森で散歩してますよ。呼べばすぐにきますが」


「なら、呼んでくれないか?」


「流石に中央部には呼べませんよ。間違えて攻撃されても困りますし」


 従魔のことを知っているのは、王都でも数少ない人だけらしい。

 あの時は、旅行に来ていたから一緒に連れてきていたが、普段は特に使役することはなく、自由にさせているらしい。

 それはそれで誰かに狩られてしまうんじゃないかと思ったが、アリシア曰く、普通の人は見つけることはできないようだ。

 なんだかよくわからないが、特別な存在であるのは間違いないらしい。


「なあ、できればその魔物と戦わせてくれたりは……」


「ダメです」


「はえーよ」


 俺の言葉を予測していたかのように、即座に否定されてしまった。

 確かに王都で戦うのはまずいかもしれないが、だったら場所を移せばいいだけの話だし、別にいいと思うんだがな。

 俺は、しばらくの間、どうにか戦えないかと説得を続けることになった。

 感想ありがとうございます。

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