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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十章:辺境の雪祭り編
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幕間:敗北を糧に

 Aランク冒険者、ケベクの視点です。

 俺は今、ある冒険者について調べている。

 というのも、先日、俺はとある冒険者と模擬戦をし、それに敗れた。

 今まで、模擬戦だろうとなんだろうと、剣での勝負で負けたことはなかった俺が、手も足も出ずに負けたということもあって、結構ショックだったことを覚えている。

 その時は素直に称賛したが、後からギルドに問い合わせてみると、アリシアなんて言う冒険者は知らないという答えが返ってきた。

 いや、アリシアという名前自体はいるのかもしれないが、剣の腕前に優れていて、従魔として魔物を従えているアリシアなんて言う冒険者は、名簿を探してもどこにも見当たらないのだという。

 この支部では情報がないのかと思い、今回の事件で縁ができた領主に頼んで色々調べてもらったが、それでも見当たらないという。

 一体、あのアリシアという女性は何者だったのか。俺の中で、日に日に疑問が強くなっていった。


「唯一手掛かりと言えるのは、領主に手紙を届けた一行の中に、アリシアという名前の女性がいたことくらいか」


 領主の話では、その一行を率いていたのは、ハクという少女らしい。

 確か、何年か前に、王都に迫る特異オーガを退けたってことで、王都の英雄とか言われている奴だったか。

 噂程度には知っていたが、実際に見たことはなかった。

 まさか、あの時領主と一緒にいた少女がハクだなんて、夢にも思わなかったしな。

 まあ、ハクのことはいいとして、その一行の中に、アリシアという女性がいた。

 しかし、そのアリシアに関する情報はほとんどなく、せいぜいハクの友人だということくらいしかわからないようだ。

 従魔を連れているかと聞いたけど、そんなこともなかったようだし、別人かとも思ったが、聞いた容姿を考えると、全くの無関係とも思えない。

 同一人物、かどうかはわからないが、何かしら知っている可能性はあるだろう。

 そう言うわけで、俺はそのアリシアについて調べることにした。


「さて、王都に来てみたわけだが……」


 領主の協力の下、色々調べてみたが、どうやらそのアリシアという女性は、王都に住んでいるらしい。

 剣爵の子供のようで、元は騎士団に入れるほどの剣の腕の持ち主なのだとか。

 現在は、騎士団を辞しているようだが、騎士団でも通用するほどの腕を持っているなら、ますます怪しい。

 だからこそ、実際に会って確かめるべく、こうして王都に赴いたわけだ。


「なあ、アリシアって女の家を知っているか?」


「お、あなたはケベクさんじゃないですか。わざわざ王都まで来て人探しですか?」


「ああ、ちょっとな」


 ギルドに顔を出し、受付に話を聞くと、すぐに教えてくれた。

 と言っても、アリシアの家自体は知らないらしい。知っているのは、その友人であるハクのことだった。

 どうやら、ハクは王都のギルドでは相当な有名人のようで、冒険者の間では、ギルドの天使とか言われているらしい。

 その由来は、過去にギルドを訪れては、冒険者達におすそ分けをしたり、お手伝いをしたりして、気を使ってくれたことと、単純にその容姿から来ているらしい。

 確かに、あんな子供がかいがいしく冒険者達に世話を焼いてくれたら、嬉しいかもしれないが、昔からというのが気になる。

 これは元々疑問に思っていたんだが、特異オーガの事件があったのは、結構前のはずだ。

 しかし、あの時見たハクの容姿は、10歳にも満たないような幼さである。

 今でその姿なら、事件の時はいったい何歳だったんだという話だ。

 そう言うこともあって、噂は話半分に思っていたんだが、冒険者連中の話では、昔からずっとあの容姿らしい。

 ……本当に人間か?

 確かに、エルフのように長命で、なかなか姿が変わらない奴もいるにはいるが、あいつはエルフではないだろう。

 同じように、小人族ショーティというわけでもないはずだし、だとすると、10年以上も容姿が変わっていないことになる。

 人間ではない? なら、魔物? ……まさかな。

 とにかく、ハクのことは知っているという奴も多かったので、いろいろ情報を仕入れた後、とりあえずその家に向かうことにした。

 友人であるハクなら、アリシアの家も知っているだろう。一応、面識がないわけでもないし、突然訪問しても多分大丈夫なはず。

 そうして、教えられたとおりにハクの家へと向かい、扉をノックする。

 どうやら、剣爵らしいが、例の事件で叙爵でもされたんだろうか。


「はーい?」


「突然の訪問失礼する。ハクに会いに来たんだが、今はいるか?」


「ええと、どちらさま?」


「ああ、悪い。俺はケベクだ。あちらも俺のことは知ってるはずだから、名前を言えばわかるはずだぜ」


「わかりました。ちょっと待っててくださいね」


 玄関に出てきた女性は、そう言って引っ込んでいった。

 しばらくして、足音が戻ってくると、そこにはあの時と変わらない容姿のハクの姿があった。


「ケベクさん? 一体どうしたんですか?」


「久しぶりだな。なに、ちょっと聞きたいことがあってな。悪いが、聞いてくれねぇか?」


「まあ、構いませんけど。とりあえず中へどうぞ」


 ハクはそう言って、応接室へと通してくれた。

 事情を話すと、ハクはなにを考えているのかわからないような無表情で軽く声を上げた。

 何か知っているのは間違いなさそうだ。


「ええと、それでアリシアに会いたいと」


「ああ。ちなみに聞くが、そのアリシアは従魔を持ってたりするか?」


「いやぁ、持ってないと思いますよ……?」


 ハクの話では、アリシアは剣の才能に優れてはいるが、従魔などは持っていない様子。

 人違いか? いや、だとしても何か知っている可能性はある。

 まずは会って、話を聞きたいところだ。


「ケベクさんは、アリシアと会って何がしたいんですか?」


「大したことじゃない。ただ、ちょっと再戦して見たくてな」


 俺はあの時、アリシアに大敗した。それこそ、手も足も出ないくらいには完膚なきまでに負けた。

 負けたことはショックだったが、重要なのは、そんな驚異的な腕前を持つアリシアが、いかにしてその技を身に着けたかということだ。

 本来なら、冒険者同士でそう言ったことを詮索するのはマナー違反だが、どうやらアリシアは、冒険者というわけではないらしい。

 であるなら、少しくらい聞いてみてもいいだろう。

 話を聞けなくとも、再戦して、少しでもその技を盗むことができれば、俺自身のパワーアップにも繋がる。

 Aランク冒険者として、負けることが許されない戦いが多い以上は、強くなれるチャンスは見逃すべきではない。


「後は、あの従魔とも戦ってみたいと思ったな」


 あの時は少し戦ったくらいだが、あの従魔も相当強そうな雰囲気だった。

 アリシアも、殺してしまうかもしれないというほどだったし、もしかしたら、アリシアよりも強いかもしれない。

 命を懸けて戦う気はないが、模擬戦のような形で少しくらい相手にしてもらうくらいだったら、やってみたい気持ちはある。

 ハクは、それを聞いて、小さくため息をついていた。

 馬鹿だと思ったのか、それとも……。

 まあ、何でもいいさ。とにかく、まずはそのアリシアがあの時のアリシアと同一人物かどうかを確かめたい。

 俺は、なんとかアリシアに会えないかと、再度ハクに頼むことにした。

 感想ありがとうございます。

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