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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十章:辺境の雪祭り編
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幕間:風向きが変わって

 村人の一人、タックスの視点です。

 今まで、この村の宿は、閑古鳥が鳴いていた。

 魔物により街道が食い散らかされると同時に、旅人に対して襲い掛かるという危険性、さらに、村自慢の温泉も、近くの町で入れるようになったということもあり、お客さんは激減。

 かつてはどこの宿も満室だったというのに、今ではこのありさまである。

 何とか観光客を呼び戻そうと、色々と手を尽くしては見たけど、それも効果は薄く、このままこの村は静かになくなっていくんだと思っていた。

 しかし、最近になって、ようやく風向きが変わってきた。

 きっかけとなったのは、王都に本社を構える、ニドーレン出版という出版社を呼び込んだことである。

 数少ないお客さんから、その出版社のことを聞いた私は、藁にも縋る想いで手紙を書いた。

 もちろん、ダメで元々の気持ちもあった。

 なにせ、相手はお貴族様。それも、王都で戦っていけるほどの出版社である。

 いくら観光本を書いているとは言っても、わざわざこんな辺境の村までくる必要はないし、旅費だってこちらが出すことも難しいのだから、あちらにメリットがなさすぎる。

 下手をすれば、不興を買って、嫌がらせを受ける可能性すらあった。

 そんな危険な賭けだったけど、奇跡的にも、その人達はとても優しく、それどころか、村の状況を見て、助けたいとすら言ってくださった。

 これは、もしかしたらうまく行くかもしれないと、内心とても嬉しかった。

 しかし、その予想は、いい意味で裏切られることになる。


「まさか、これほどとは……」


 今、私の宿には、多くのお客さんが入ってきている。

 いや、正確に言うと、お客さんではなく、村の街道を直してくださっている作業員の皆さんだ。

 以前にも、領主様に頼んで、街道を直してもらったことはあったが、その度に魔物が食い荒らすものだから、これ以上は金の無駄だととうとう手を付けられなくなっていた。

 街道がなくても、村に来ることはできるが、整備されていない道はガタガタで、ぬかるみも多く、馬車が通るには相当な苦労を強いられる道である。

 だからこそ、これが直らない限りは、お客さんも見込めないと思っていたんだけど、ここにきて、ようやく手が差し伸べられたのだ。

 その理由というのが、近くの町で村の温泉が無断で使用されていたという件。

 どうやら、村の源泉を勝手に使用していたようで、それに気づいた領主様が、制裁を下し、その流れで街道の修復も行ってくれるように手配してくれたのである。

 領主様はまだこの村を見放していなかったのだと、とても嬉しくなったものだ。

 ここで重要なのは、その不正に気付いたきっかけが、ニドーレン出版の皆さんのおかげだったことである。

 どうやら、彼女らは取材のついでに旅行をしようと友達を連れてきていたようなのだけど、その中に、なんとAランク冒険者の方がいて、村の周りの魔物の掃討から、山にある源泉の調査まで一通りやってくれたおかげで、町の不正が発覚したのである。

 さらに言うなら、山の魔物はそう危険なものではないということも教えてくれたし、領主様への手紙も届けてくれて、至れり尽くせりである。

 それでいて、お礼は温泉を堪能させてくれたらそれでいいと言ってくれたのだ。

 きっと、ああいう人達を聖人というのだろう。まさに、村の救世主であった。


「この調子で行けば、本当に昔のように賑やかになる日も近いかもしれない」


 ニドーレン出版の皆さんは、必ずこの村のことを観光本に載せると言ってくださった。

 町の温泉も使用停止になったようだし、街道の修繕が終われば、以前のようにお客さんが来るのも夢ではないかもしれない。

 まさに夢のよう。ニドーレン出版の皆様、そして、領主様には感謝してもしきれない。


「はぁはぁ……タックス、いるかい?」


「おや、村長さん。どうしたんですか?」


 胸の高鳴りを抑えられずにいると、村長さんがやってきた。

 結構慌てた様子で、息を切らせている。

 一体どうしたんだろうか?


「二日後に、領主様がお見えになるらしい。受け入れの準備をしておくれ」


「まあ、領主様が?」


 現在の領主様は、以前の領主様のご子息だけど、子供の頃から、この村には何度も訪れていて、その度に温泉を堪能してくださっていた。

 村長さんを始め、村の人達とも多くの交流があり、領主様となった今でも、その関係性は変わらない。

 いや、一応領主様ということで言葉遣いなどは気をつけなければならないから、以前のようにとは言わないかもしれないけど、村のお年寄りは皆、領主様のことを孫のように思っていることだろう。

 そんな領主様だけど、ここ最近は、村に訪れる機会がなかった。

 街道の件もあったからというのはあるけど、色々多忙だったんだろう。

 それが、ここにきて訪れてくれるとは、思いもしなかった。


「街道の視察に来るらしい。後、温泉の方も見ていきたいと」


「ふふ、なるほど。わかりました、すぐに準備を整えましょう」


 領主様が来るということは、この村のことを気にかけてくださっているということ。

 もちろん、街道の件を見ても、気にかけてくださっていることはわかっていたけど、やはり来てくれると嬉しいものがある。

 村長さんは、他の村人にも伝えてくると言って、去っていった。

 私も領主様が到着するのを心待ちにしながら、準備に取り掛かることにした。


 そうして二日後、予定通り領主様一行が到着した。

 名目としては、街道の修復の進捗具合を確認するあためであるけど、その他にも、山の源泉の確認などもしたいらしい。

 いくら魔物が無害と確認されたとはいえ、領主様を山に連れて行くのはどうかと思ったけど、そこはどうやら心強い護衛を雇ったようである。

 なんでも、Aランク冒険者で、町の不正を暴く際に、協力してくれた方らしい。

 初めてお会いする方だったけど、他にも優秀な冒険者が何人もついてきてくれたということで、護衛の心配はなさそうだった。


「ようこそお越しくださいました。どうぞゆっくりしていってください」


「ああ、世話になるぞ」


 そうして、領主様御一行は宿へと泊る。

 人数のおかげもあって、数日間は昔の活気が戻ったようで、私も大忙しだった。

 でも、それを苦とは感じない。皆が喜んでくれると、私も嬉しいから。

 領主様は、相当疲れていらっしゃったようで、温泉でうとうとと寝落ちするところを執事さんに担ぎ出されるという場面もあったらしい。

 温泉は疲労回復などの効能もあるけど、流石に寝るのは危ないから、運び出してくれてよかった。

 なんだか、以前もこんなことがあったような気がする。何となく懐かしさを覚えた。

 その後も、食事を堪能したり、実際に魔物を見たりした後、領主様は村を去っていった。

 来た時はどこか疲れた様子だったけど、帰る時は元気そうだったので、少しはリフレッシュできたのかもしれない。

 また、領主様がいつ来てもいいように、村を盛り立てて行かなければならないだろう。

 村人の一人として、これからも頑張ろうと気を引き締めた。

 感想ありがとうございます。

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