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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十章:辺境の雪祭り編
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第五百六十三話:白黒つける

 その後、準備を整えて、早速源泉に向かうことにした。

 町長が準備をしている間、通信魔道具でみんなに町の状況を聞いてみたんだけど、町の人達も、それなりに不満は持っていたらしい。

 以前は、仲のいい友達や気の合う仲間と騒げていた食堂が、今では貴族向けとなって入れなくなってしまったとか、一方的に店を潰されて、そこに新しく賭博場ができたとか、領主に入ってきた苦情はおおむね間違ってはいなかったらしい。

 まあ、金持ち向けに施設を作ったことで、収入は増えたのかもしれないけど、代わりに、町の人達が犠牲になったって感じだね。

 観光客とのトラブルも絶えなかったようだし、私達が泊った時は気づかなかっただけで、多くの問題を抱えていたようだ。

 他にも、留置所に送られた人達の様子も聞いてみたけど、あちらはまだ動きはないようだった。

 多分、すぐに町長に会いに行ったから、指示が出せていないのかもしれない。

 領主もあえて触れなかったようだけど、あれもしっかり裁かないといけないよね。

 後、地味に重要なのが、権利書の問題。

 権利書には、領主の印が押されていたってことだけど、もし、領主の勘違いとかでないのなら、領主の印が勝手に使われたということになる。

 領主の印は、公的な書類では結構な影響力があるし、それを無断で使ったとなれば、かなり重い罪に問われることになる。

 領主の印を持ちだせるような人物が裏にいると考えると、ちょっと怖いところ。

 まあ、領主はある程度目星はついているみたいだけどね。

 身内の膿も洗い出さなければならないと考えると、ちょっと大変かもしれない。


「お待たせしました。こちらです」


 しばらくして、町長は数人の護衛を引き連れてやってきた。

 源泉の場所は、魔物がはびこる場所であり、護衛は必要不可欠だという判断らしい。

 まあ、それは間違っていないし、私が護衛をすると言っても、見た目はただの子供だしね。

 むしろ、何で突っ込まれないのかが気になる。

 私のことを知っているにしろそうでないにしろ、何かしら反応してくれてもいいと思うんだけど。

 領主が来たことに気を取られて、そこまで気が回らないのかな。


「あっ……」


「ん? なにか?」


「い、いえ……」


 と、そんなことを思っていると、護衛の一人が、見覚えのある人だということに気が付いた。

 源泉でアリシアと戦った冒険者、ケベクさんである。

 あの後、ケベクさんは、依頼者に確認を取って、もしアリシアの言うことが真実だとわかれば、手を引くと言っていた気がするけど、ここにいるということは、結局アリシアの言葉は信じなかったってことなのかな。

 いや、でも、他のパーティメンバーが見当たらないし、何か意図があるのかもしれない。

 もし、騙されているのだとしたら、ちょっと面倒くさいけど、まあ、いざとなれば何とかしよう。


「生憎と、あまり道が整備されていないものでして、馬車で移動するのは難しいのです。御足労おかけしますが、どうかご容赦を」


 町を出るまでは、きちんと馬車を用意していたのだけど、町を出て、しばらく行ったところで、降ろされた。

 一応、川の側にはある程度踏み固められた歩道があった気がするんだけど、今は雪で見えなくなっているし、どのみち、馬車で通るのは難しい道だったので、これは仕方ない。

 町長は、しっかりと雪道用の靴などを用意したようだけど、領主は流石にそんなものは用意していなかったので、かなり歩きづらそうだった。


「この道は大変でしょう? 今からでも、戻ることをお勧めしますが」


「いや、このまま進もう。この目で確認するまでは、信用できん」


「そうですか」


 一応、近くに温泉が流れる川があるので、その熱によって暖められて、多少雪が溶けている部分もあるが、逆にそれがぬかるみとなって、さらに歩きにくく感じる。

 いっそのこと、火魔法で溶かしながら進んでやろうかと思ったけど、今はあまり出しゃばらない方がいいだろう。

 今のところ、こそこそとついてきている気配は感じないし、奇襲の心配はないと思うけど、ここにいる護衛達が襲い掛かってくる可能性はあるからね。

 領主には、念のため防御魔法を張っておいたから、奇襲されても初撃くらいは何とかなるけど。


「この山です」


「確か、この山はあの村の源泉がある山のはずだが?」


「いえいえ、また別の場所でございますよ」


 やがて、山まで辿り着いたが、町長はあくまでしらばっくれている。

 でも、川を辿っている以上、いずれはあの源泉に辿り着くし、もはや言い逃れはできないと思うんだけどな。

 一体どうする気なんだろうか。


「この山には、狂暴な魔物が数多く住んでおります。全力でお守りする所存ではありますが、怪我などされても文句は言われませんように」


「問題ない。こちらにも護衛はいるからな」


「護衛……そちらのお嬢さんですか? てっきり、どこからかついてきた子供だと思っておりましたが……」


 そう言って、町長は私のことをじろじろ見てくる。

 どうやら、私のことは知らないらしい。まあ、それはそれで都合がいいからいいけど。

 山に分け入り、しばらくすると、探知魔法に反応があった。

 どうやら、あの魔物達がやってきているらしい。

 まあ、あの魔物達にとって、町の人達は敵だからね。そりゃ来るか。

 しかし、下手に殺されても困るから、どうにか逃がさないといけない。

 どうしたものかな。


「……」


 町長は、ちらちらと領主の方を見ながら、慎重に足を運んでいる。

 何か狙っているようだけど、果たして。


「奴らが来るぞ」


「そうですか。では、ここでお別れですね」


「お別れ? 一体何を……」


「やれ!」


 その瞬間、護衛の一人が領主に向かって切りかかる。

 とっさのことで、領主は反応できなかったけど、私が張っていた防御魔法によって事なきを得る。

 でも、狙ったのはどうやら足のようだ。直接殺す気はなさそう?

 防御魔法で防いだと言っても、衝撃は伝わる。バランスを崩した領主は、その場に転倒した。


「ふっ、こんなところまでノコノコとついてきおって、馬鹿な奴だ。このまま魔物に食われるがいい!」


「お前、初めからこれを狙って……」


「はっはっは! その怪我では逃げることもできまい! よし、貴様ら、帰るぞ」


 転倒した領主を見て、勝ちを確信したのか、町長は高笑いしながら背を向けた。

 どうやら、魔物に襲わせて、始末する気でいたらしい。

 確かに、Aランク冒険者でも苦戦するような相手なのだから、本来ならお陀仏だけど……。


「ふんっ」


「がはっ!? な、貴様、何を……」


 その無防備な背中に、一撃叩き込みたかったんだけど、それよりも前に、動いた人物がいた。

 それは、領主でも魔物でもなく、町長の護衛として一緒に来ていた、ケベクさんである。

 まさか、護衛が攻撃するとは思っていなかったのか、町長は前のめりに倒れ込んだ。

 他の護衛も、まさかそんなことするわけないと思っていたようで、驚愕に目を見開いている。

 どうやら、ただ単に騙されて一緒に来たというわけではなさそうだね。

 私は、倒れた領主を気にしつつ、成り行きを見守った。

 感想ありがとうございます。

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