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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十章:辺境の雪祭り編
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第五百六十一話:町長を問い詰める

 その後、雪を溶かしながら進み、ようやく町まで辿り着くことができた。

 この辺りでは、盗賊の類は珍しいのか、腕に縄をつけた人達をぞろぞろ引き連れてやってきた私達に、門番さんは大層驚いた様子だった。

 事情を説明すると、すぐに警備隊を呼んでくれて、足止め役はひとまず留置所にぶち込まれることになったので、よかったと思う。

 ただ、この先、こいつらがきちんと罰を受けるかどうかはわからない。

 町長の側近の使用人がいたということは、町長からの指示でああいうことをやったというわけだろうし、そのまま釈放される可能性もある。

 なので、まずは町長に会い、事の真相を確かめることにした。


「ハク殿、すまないが、護衛としてついてきてくれるかな?」


「わかりました。念のため、周囲の状況もみんなで確認しておきますね」


 今回町長に会いに行くのは、領主と私の二人。

 他のみんなは、町の方で妙な動きがないかを探るべく、監視に回ることになった。

 もしかしたら、今頃証拠を消すために何か奮闘しているかもしれないしね。

 すべてを見つけることはできないかもしれないが、キーリエさんほどではないにしろ、みんなも優秀だから、抑止力にはなるだろう。

 そう言うわけで、まずは町長の家に向かうことにした。


「領主のアナンだ。町長と面会をしたいのだが」


「りょ、領主様!? す、すぐに確認します!」


 家の間にいた門番に話しかけると、すぐさま飛んでいった。

 アポとかは取っていないけど、流石に領主が直々にやってきたとあっては、対処しないわけにもいかない。

 本音は追い返したいだろうが、そう言うわけにもいかず、結局すぐに会ってくれることになった。

 さて、町長はどんな人だろうか。


「よ、ようこそお越しくださいました、領主様!」


 応接室に通されると、さっそく一人の人物がやってきた。

 身綺麗な服を纏った、中年の男性。

 恐らく町長であるその男性は、領主の前に来ると、手を揉みながらへこへこと頭を下げていた。


「久しぶりだな、息災だったか?」


「ええ、それはもう! 私も、領主様にお会いできてとても光栄でございます」


「そうか。今回訪れたのは、あることを確認したくてな」


「な、なんでしょう?」


「お前が、例の村の源泉から、無断で温泉を引いているという情報を掴んだのだが、本当か?」


 領主は、さっそく核心に迫る質問をする。

 この町では、温泉権がないにもかかわらず、源泉から勝手に温泉を引き入れ、それを使って観光の一つとしている。

 温泉は、村にとって大事な資源の一つであり、それを横取りされたこともあって、村は今深刻な財政難に陥っている。

 もし、無断で温泉を利用しているのが本当だとすれば、それは村に対して、ひいては領主に対する侮辱でもあり、下手をしたら、首が飛んでもおかしくないような状況である。

 果たして、町長はどのように返すのだろうか。


「め、滅相もございません! 確かに、我が町では温泉を引き入れてはおりますが、あの村とは無関係でございます!」


「ほう。しかし、村の調査では、源泉から見覚えのない川が引かれていて、この町まで繋がっているとのことだったぞ?」


「何かの間違いでしょう。そもそも、村人が魔物蔓延る山をそんなに詳しく調査できるはずがないじゃないですか。きっと、我が町の温泉を妬んで、そのような虚偽の報告をしたに違いありません!」


 町長は、あくまで村の温泉とは関係ないと言い張りたいらしい。

 まあ、確かに山を詳しく調べるのは普通は難しいのかもしれないけど、あの山に限って言うなら、そこまで難しくもない。

 なぜなら、あの山の魔物は、源泉に入り浸っていたあの蜘蛛型の魔物が大半だからだ。

 私達も、調査した時に思ったけど、魔物はあれ以外に全然見当たらなかった。

 村人達も、源泉に近寄らなければ、普通に山菜などを採取できていたようだし、魔物の脅威はほぼないとみて間違いないだろう。

 恐らくは、あの蜘蛛型の魔物達が、他の魔物を倒してしまっているんじゃないだろうか。

 主食は鉱物のようだけど、魔物の際たる食事は魔石だし、他の魔物を倒すことによって、魔石を得ていても不思議はない。

 村の言い伝えでも、蜘蛛に手を出してはいけないみたいなことが言われているようだし、多分、益虫みたいな扱いなんじゃないかな。


「ほう、なら、この町の温泉の源泉はどこだ?」


「ええと、ひ、東、いや、北の方ですな」


「詳しい場所は? 行って確認しておきたい」


「領主様がわざわざ確認される必要はないでしょう。あそこは魔物も多くおりますし、何より道が険しく、辿り着くには相当な労力がかかります。こ、この通り、正式な権利書もございますし、気にする必要はないかと」


 そう言って、町長は権利書を見せてくる。

 そこには、温泉権に関することが書かれており、確かに、村とは別の源泉から引いているという旨が書かれていた。

 ただ、場所がどうにも曖昧である。

 基本的に、源泉が見つけられた場合、その場所には名前が付けられ、それを記載することになると思うんだけど、この権利書には、曖昧な場所しか書かれていない。

 しかも、その場所が、方角的に、村の源泉と近い場所なんじゃないかと思えてくる。

 町長は北と言っていたけど、どちらかというと東では?

 なんか怪しい。


「この通り、領主様の印も押してあります! 偽物ではありませんよ!」


「ふむ、確かにこれは私の印だな」


 権利書には、領主が許可を出したことを示すために、印が押されているのだけど、確かにそこには、領主の印が押されていた。

 つまり、これは領主が正式に許可を出したものであり、何ら違法性はないということになる。

 問題なのは、領主自身が、その印を押した覚えがないということだ。


「そ、そうでしょう? 私に落ち度はありません!」


「しかし、村の報告が全くの嘘とも思えない。やはり、源泉を直接確認したいのだが」


「い、いえいえ! そこまでする必要はないでしょう! そもそも、仮にあの村の源泉を使ったとして、何の問題もないのでは? 温泉も、あんな村に使われるよりも、我が町のような栄えている場所で使ってもらった方が、本望というものでしょう!」


「……貴様、何と言った?」


 町長の言葉に、領主の表情が一瞬で変わる。

 ある程度予想していたことだけど、やっぱり、町長はあの村のことを何とも思っていないらしい。

 ただちょっと、温泉が出ていて、それを領主が気に入ったばかりにちやほやされている村、という風に思っているのかもしれない。

 しかし、領主にとっては、あの村はかけがえのないものだ。

 それは、温泉に癒されたからというだけでなく、村人の暖かさに触れたからというのもあるだろう。

 それを侮辱されたとあっては、領主だって黙っていない。

 町長は、完全に虎の尾を踏んでしまったね。


「あの村は、温泉によって栄えてきた。しかし、それだけに甘えず、常に努力をし、観光地として、常に上を目指そうとしてきた村だ。今だって、温泉の価値が下がっても、どうにかみんなに楽しんでもらおうと、努力を惜しまない。それに比べて、この町はどうだった?」


 領主は、町長を睨みつける。

 町長は、急に豹変した領主にたじたじの様子だった。


「町として発展はしたものの、それに胡坐をかき、成長を止めた。相手にするのは金持ちばかりだし、地域の文化もないがしろにしている。私の耳にも入ってきているぞ、この町からの苦情はな」


 町と村、どちらが発展しているかと言われたら、町なのは間違いないが、領主にとっては、それよりも質を見ていたということだろう。

 常に成長しようと努力する村と、町という名前に胡坐をかき、成長を止めた町。

 温泉によって、何かが変わったかと思えば、それは村を貶めるための策略だったと考えれば、どちらが優れているかなどわかり切っている。

 町長も、もう少し大人しくしていれば、虎の尾を踏まずに済んだのに、余計なことを言ったものだ。

 私は、念のため辺りに気を配りながら、話を聞く。

 さて、この話の行く末はどうなるか。

 感想ありがとうございます。

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