第五百五十六話:ゴーレム馬の価値
ゴーレム馬だけど、馬車を牽くのに特に問題はないように思えた。
馬車を連結させる都合上、ちょっとバランスが悪くなるかなと思ったんだけど、思ったよりは崩れず、普通に走ることができた。
まあ、そもそも連結させるための機構がないから、そこらへんは魔法で調整する必要があったけどね。
速度も申し分ないし、これなら近いうちに追いつくことができるだろう。
「ゴーレムで馬を作るなんて、よく考えるわね。普通はこんなこと思いつかないわよ?」
「ルシエルさんにも言われた気がする。そんなに珍しい?」
「少なくとも、今まで見たことはないわね」
せっかくだからと、並走するお姉ちゃんと一緒に話しているんだけど、そんなことを言われてしまった。
人工的に作られるゴーレムは、錬金術師達が、ポーションなどを量産する際にお手伝いとして使う用途が多い。
その関係上、両手が使える人型の方が都合がいい場合が多く、自然に発生するゴーレムも、人型ばかりだから、その印象が強くて、ゴーレムは人型で作る、というのが一般的になっているらしい。
でも、ゴーレム馬って、結構使い勝手がいいと思うんだよね。
普通の馬と比べてみると、まずゴーレム馬は餌を必要としない。
ゴーレムはコアとなる魔石を使って動くから、食事の必要がないんだよね。
旅をする際に、本来だったら、馬のための餌や水を大量に用意する必要があり、それが積み荷をかなり圧迫してしまうのだけど、ゴーレム馬ならその必要はない。
この時点で、商人などの視点からすれば、かなり魅力的に映るんじゃないだろうか。
その他にも、急に襲われた際、普通の馬なら驚いて逃げて行ってしまう可能性もあるけど、ゴーレム馬ならそんなことは起こらない。
命令されない限りは、動かないからね。むしろ、装甲を厚くすれば、一緒に戦ってくれる可能性すらある。
他にもメリットはいくつかあると思うが、ゴーレム馬は、かなり理に適ったものと言えるだろう。
逆にデメリットは何かと言われたら、融通が利かない点だろうか。
ゴーレムは、命令権を持つ人の命令しか聞かない。そして、命令権を持つのは、基本的に所有者のみである。
一人旅をするならいいかもしれないが、例えば、複数人で旅をしている最中に、命令権を持つ人が、何らかの理由で命令できない状況に陥った場合、馬車は動かせなくなってしまうということである。
あらかじめ、命令権を複数人に持たせておくという解決法はあるにしろ、ちょっと怖いところ。
後は、命令されたことしかしないという点もある。
馬車を牽けと命令すれば、その通りに動くだろうが、逆に言えば、他に命令されない限り、その命令を守り続けるということである。
先に盗賊が待ち構えていようが、ボロボロで今にも落ちそうな橋があろうが、その通りに進む。
もちろん、ある程度は命令をすれば制御できるとはいえ、とっさにした命令が、思わぬ捉え方をされて妙なことになる、という可能性もある。
命令通りにしか動かないというのは、そう言う危険もはらんでいるわけだ。
「割と革命的だと思ってるんだけど、なんで誰もやらないんだろう?」
「高いからじゃない?」
「高い?」
「ゴーレムって、割と高いのよ? それに壊れやすいしね」
お姉ちゃんが言うには、ゴーレムは結構コストが高いらしい。
ゴーレムで必要となるのは、コアとなる魔石とボディである。
ここで言う魔石は、そこら辺に売っているような魔石ではなく、それなりに大きな魔石が要求されることが多いらしい。
いや、正確には、普通の魔石でもできるけど、稼働時間が減るという感じかな?
自然に発生するゴーレムと違って、人工的に作られるゴーレムは、魔石の魔力がなくなり次第動かなくなる。
これに関しては、自然のゴーレムが半永久的に動き続けるのがおかしいと思うけど、そういうわけで、それなりの時間動かすためには、大きな魔石が必要になるというわけだ。
ボディに関しては、用途に合わせて色々素材は変えられるだろうけど、一般的なものは、石や金属で作られる。
これも、人型で作るとなると結構な量が必要となり、さらに加工も結構難しいことから、値段も相応に高くなりやすい。
一応、ゴーレムはその気になれば買うこともできるらしいのだけど、余裕で金貨が数百枚枚単位で消えていくようだ。
そのくせ、無理な使い方をすれば、すぐに壊れる。
その形に合わせて動くようになっているから、例えば指が少し破損しただけでも、大きな不具合に繋がる可能性がある。
多少の傷なら、直してもらえるかもしれないけど、基本的には破損したらゴーレムは全とっかえが基本らしい。
後付けで修復するのが難しいというのもあるが、仮に修復できたとしても、不具合が起こる確率はそれなりにあるらしいからね。
だから、ポーション工場で働くゴーレム達は、基本的に同じことしかしない。
元々、難しい命令はできないみたいだしね。
錬金術師達だって、かなり繊細に扱っているものを、何の知識もない者が使ったらどうなるかなど目に見えている。
値段の高さ、そして、素人が使えばすぐに壊れてしまう可能性を考えると、なかなか難しいんじゃないかってことみたいだね。
「うーん、確かに高いのは致命的だよね」
「商人が買うにしても、それを取り返すまでに動き続けてくれるかどうかもわからないし、そんな高価なものを連れて移動していたら、盗賊達の格好の獲物でしょうしね」
単純に、馬車を牽け、止まれという命令だけして、勝手に動く動力とするならそれでも、と思ったけど、それで元を取れる商人はほんの一握りだし、そもそも、あんまり高価なものを持っていたら、盗賊に狙われた時のリスクが高すぎる。
荷台に隠しておける商品と違って、馬は隠しようがないからね。
もし使えるとしたら、例えば、農地を開拓する際に鋤を牽かせるとか?
いや、普通の農民がそんな高いもの買えるわけないし、それだったら普通の馬にやらせた方がよっぽどましか。
私が行けそうと思っているのは、自分で作ったからだろうね。
それも、魔石は自分で簡単に取ってこれるし、ボディもその気になれば自分で加工できる。
いざとなれば、竜人達に頼んで作ってもらうこともできるしね。
そう考えると、普及させるのはなかなか難しいのかもしれない。
「まあ、無理に普及させる必要はないんじゃない? 今だって、別に困っているわけではないし」
「できることなら便利にしたいって思うけど、それで馬の価値がなくなっても困るのかな」
仮に、ゴーレム馬だけで何でもできるなら、普通の馬の存在価値が低くなってしまう。
馬は、人類の歴史において、相当な活躍をしてきた。
農業においても、戦闘においても、なくてはならない存在だっただろう。
そう考えると、その居場所を奪ってしまうのはなかなか残酷なことなのかもしれない。
時代の流れで自然と淘汰されていくのは仕方ないかもしれないけど、私があえて時代を進める必要はないし、せいぜい、自分達が少し楽をするために作るくらいで十分ではあると思う。
誰かが、これを見て研究してくれるんだったら、それでもいいけどね。
私は、ちょっと残念な気持ちになりつつも、お姉ちゃんと話していた。
感想ありがとうございます。