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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十章:辺境の雪祭り編
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第五百五十三話:村長に報告

『それで、どこ行ってたの?』


「先程の冒険者の後を追っていました。妙なことされても困るので」


 どうやら、エルは、戦闘が始まる前から、念のために監視をしていたらしい。

 確かに、アリシアとの勝負で、リーダーであるケベクさんの理解は得られたとは思うけど、他のメンバーがそれに納得するかは別問題だし、下手をしたら、単独行動を起こして、こっそりと狩りに来る可能性もある。

 だから、ある程度尾行して、大丈夫かどうかを確認していたようだった。

 まあ、結局特に怪しい動きはなく、そのまま山を下りて行ったらしいのだけどね。

 仮にもAランク冒険者のパーティだし、そこらへんはしっかりしているのかな。

 上級冒険者は、信用が第一だし。


『ちゃんと約束は守ってくれそうで安心かな』


「まあ、町で余計なことを吹き込まれて、また襲い掛かってくる可能性もなくはないですけどね」


 町に関しては、ほとんど情報がない。

 村の村長と領主の許可がない以上、温泉を無断で使用しているわけだし、悪いことをしているのは確かだけど、例えば、何かやむに已まれぬ事情があって、仕方なく法を犯しているとか言う理由だった場合、あの冒険者達なら、手を貸してもおかしくはない。

 そこらへんは、詳しく調べてみないとわからないけど、町まで行ってみるべきだろうか?

 もしあっちも困っているのなら、一方的に潰してしまうのは可哀そうだし。


「そこまでする必要はないんじゃない? どんな理由があるにしろ、違法は違法だし」


『まあ、それはそうなんだけど』


 どのみち、今は村長が領主に問い合わせているところだし、しばらくすれば、領主の方から精査が入るだろう。

 そこで、きちんとした理由があるなら、特別に認められるかもしれないし、そうでないなら潰されるだけだ。

 あえて私達が手を出す必要はどこにもない。


「魔物達と和解できたんだし、まずは村長にこのことを報告する方が先でしょう」


 確かに、街道の敷石を食い散らかしている理由も、源泉に入り浸っている理由もわかったし、村が抱える問題の原因は掴めたと言っていい。

 魔物達は、村人達のことを、仲間だと見ている。よほど露骨に攻撃しない限り、あちらから攻撃されることはないだろう。

 まあ、わかっていても、大量に魔物がいる中に行くのは大変かもしれないけど、下手に駆除しようとする方が大変なことになるだろうし、そこらへんは理解してもらうしかないね。

 街道に関しても、川の問題がどうにかなれば、新しく敷き直しても狙われることはないだろうし、町の温泉も止まれば、再び村に来る客は増えるだろう。

 後は本当に、うまく領主が動き、村を救ってくれたらいいのだけどね。


「さて、温泉も満喫したし、そろそろ戻りましょうか」


 しばらく温泉を楽しんだ後、源泉を後にすることにした。

 魔物達は、また来てねと手まで振ってくれて、本当に人に慣れているんだなと思わせる。

 少し面倒くさがって村の周りの魔物を狩りまくったのを後悔してきた。

 あの魔物達も、話せばわかりあえたかもしれないのにね。

 いやまあ、あの時点ではそんなの知りようがなかったし、村に害成す魔物は駆除するのが当たり前だから、仕方なかったんだけど。

 言うに言えなくて、結局黙ったままなんだけど、このまま言わない方がいいかな。

 私のせいで、せっかく和解していたのにそれが崩れたら堪ったものではない。

 気づいているのか、気づいていないのかはわからないけど、あっちから話題にするまでは、やっぱり話すべきではないのかな。


「あら、お帰りなさい」


「調査は済んだのかしら?」


 元の姿に戻り、村に戻ると、ちょうどシルヴィア達に出会った。

 私達が調査を行っている間、シルヴィア達は本来の仕事である雪祭りの取材をしていたわけだけど、この数日で、粗方取材は終わったらしい。

 雪祭り自体は、かなりクオリティが高いようで、作られている雪像一つとっても、職人が作ったと言われても納得するほどの出来栄えである。

 そろそろ雪祭りは終わってしまうようだけど、来年以降も続けていくつもりではあるようなので、今回の取材の結果がどう反映されるかってところだね。


「ただいま。大体調査は終わったよ」


「その様子だと、進展があったみたいですわね」


「まあね。とりあえず、村長さんに報告してくるよ」


 一応、まだ仕事中であるシルヴィア達を別れ、村長さんの家へと向かう。

 村長さんは、すぐに出迎えてくれた。


「おお、何か調査に進展はありましたか?」


「はい。実は……」


 私は、山であった出来事を話す。

 魔物と会話した云々は話すか迷ったけど、基本的に魔物が話すことはないし、話してきたということであの魔物が普通に会話できると思われても困るので、そのあたりは推測という形で話すことにした。

 一応、小屋にあった日記でも、魔物が襲い掛かってくるようなことはなかったと言った旨が書かれていたし、そう的外れってわけでもないだろう。

 村長さんは、少し考え込むように黙り込み、しばらくして頷いた。


「……なるほど。確かに、その推測は間違いではないかもしれません」


「というと?」


「実は、この村には古い言い伝えがありまして、その中に、蜘蛛は見つけても手を出してはいけない、というものがあるのです」


 村長さんによると、蜘蛛は確かに魔物ではあるが、人を襲うことはなく、むしろ、人に害を成す魔物を排除してくれる益のある魔物だということで、襲われたりしない限りは、あまり手を出さないようにと伝えられているらしい。

 なぜそんな話が出回ったのかはよくわからないようだけど、でも、過去にここの村人が魔物と友好関係を結んでいたと考えれば、辻褄は合う。


「所詮は言い伝えですし、若い者はあまり気にしないので、私も特に気にしていなかったのですが……」


「実はそれが本当かもしれないと」


「そのようです」


 実際、あの魔物達は、村に来る旅人を襲うことはあれど、村人を襲うようなことはなかった。

 あったとしても、討伐隊を組んで、こちらから攻撃した時くらいであり、村に侵入されることも多々あったにもかかわらず、村人の犠牲は出ていない。

 直接話を聞いた私からすると、ああやっぱりと思うけど、村の人からするとなぜそうなるのか理解に苦しむよね。


「そうなると、近づいても攻撃しさえしなければ、襲われる心配はないということですか?」


「そうだと思います。実際、私達が近づいても何もされませんでしたし」


「そうですか……安全のため、と思って近づかずにおりましたが、どうやら取り越し苦労だったようで」


 もちろん、相手は魔物だから、何がきっかけで暴れ出すかはわからないし、絶対に安全とは言い切れない。

 でも、だからと言ってあの魔物達を源泉から追い出すような真似をすれば、それこそ村人と敵対することになるだろうし、ちゃんと共存して、お互いに手を出さないという約束をしっかりすれば、大丈夫だと思う。

 果たして、どこまで徹底できるかわからないけど、今後も良好な関係でいるためにも、村長さんには頑張ってもらいたいところだね。

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― 新着の感想 ―
うまく人と魔物が共存する村みたいな感じで売り出せればいいな
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