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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十章:辺境の雪祭り編
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第五百五十二話:勝利の温泉

「勝負はつきましたね」


「……ああ、俺の負けだ」


 審判も呆然としていたのか、なかなか終了の合図がかからなかったが、ケベクさんが自ら負けを認めたことでようやく終わりを告げた。

 メンバーは審判を含め、みんな悔しそうではあったけど、ケベクさんは感心したようにアリシアのことを見ていた。


「すさまじい腕だ。この俺が、まさか手も足も出ないとは思わなかったぞ」


「剣の腕前には自信があるので」


「だとしても、女性の身でここまでやる奴はいない。純粋に、どんな師の下で鍛錬したのか気になる」


「独学ですよ」


「ほう、まさに天才というわけか」


 ケベクさんは、弾き飛ばされた剣を拾い、鞘に納める。

 それを見て、アリシアも剣を収めた。


「しかし、それほどの天才なら、ギルドの間でも有名人のはず。一度も名前を聞いたことがないんだが、どこに所属しているんだ?」


「急に質問が増えましたね。冒険者同士で、そう言う詮索はご法度では?」


「それはそうだが、初めて負けたのだから、気になっても仕方ないだろう?」


「残念ですが、答える気はありません」


「そうか、それは残念だ」


 ケベクさんは、アリシアの姿を見てふっと笑う。

 Aランク冒険者ということは、結構な有名人だと思うけど、さらっと初めて負けた、すなわち今まで負けたことがないと言うあたり、相当な才能を持っていたってことなんだろうね。

 なんだかんだ、アリシアのことを気に入ったようだし、約束を違えることはないだろう。


「お前ら、引き上げるぞ」


「で、でもボス、せっかく美味しい素材を見つけたってのにいいんですか?」


「決闘で負けたんだ、仕方ないだろう。それとも、お前が戦ってみるか?」


「あ、いえ、遠慮します……」


 そう言って、メンバーの一人はそっと目をそらした。

 まあ、さっきのアリシアの戦いぶりを見て、戦いたいと思う奴はいないよね。

 アリシアの戦い方は、サクさんの影響もあって、待ちの戦法が多い。

 最初に決めたカウンターのように、相手の攻撃を見切り、往なし、最大の反撃を行うのがサクさんの流儀だ。

 しかし、アリシアはそれ以外にも、様々な戦法を取れる。

 本人は、無意識のようだけど、多分、剣の才能の部分が何か悪さをしているんだろうね。

 だから、一気呵成に攻め立てることもできるし、あまりに型が読めなさ過ぎて、普通は相手にしたいとは思わない。

 一番実力があるであろうケベクさんがあっさり負けたのもあるだろうしね。


「ボス、せめて死体くらいは回収したいんですが」


「ああ、そうだな。そこらへんは決めてなかったが、どうなんだ?」


「ちょっと待ってくださいね」


 アリシアは、私の下にやって来て、魔物の死体の処遇を聞いてきた。

 まあ、確かにせっかく倒したんだから、できれば持って帰りたいよね。

 魔物達に、仲間の死を悼む感性があるかどうかはわからないけど、一応聞いておいた方がいいだろう。


『あの方達は退いてくれるそうです。代わりに、仲間の死体を欲しがっていますけど、自分達で弔いたいですか?』


『トムライ?』


『ナニソレ?』


『えっと、どう説明したらいいのかな……』


 あんまり難しい言葉はわからないようで、どう説明したものかと思案する。

 何とかイメージを伝えると、魔物達はフルフルと首を振った。


『イシ、ヒツヨウ』


『デモ、シタイ、イラナイ』


 魔物として、自分を強くするために魔石は必要だけど、死体そのものはいらないらしい。

 弔わないにしても、共食いにはなるけど、食料として必要かなと思ったけど、よくよく考えれば、この魔物達の食料は鉱石だった。

 なら確かに、死体そのものはいらないのかもしれない。

 なんか、意外とさばさばしているけど、魔物の感性なら、これくらいが普通なのかもしれない。


『魔石を置いて行ってくれるなら、死体は持って帰っていいって』


「そう。魔石を置いていくなら持って帰っていいみたいですよ」


「そうか。今回の依頼の報酬がなくなる可能性を考えると、素材は多ければ多いほどいい。そいつは助かる」


 私の言葉をアリシアが伝えると、ケベクさんは早速メンバーに回収の指示を出した。

 私からすると、仲間の死体を持って帰られるのはちょっと可哀そうな気がしないでもないけど、魔物達が決めたなら、文句を言っても仕方ない。

 きちんと、魔石だけ取り出してもらって、残りの死体は使えそうな部位だけ回収されていった。

 残ったものは、私の方で埋葬してあげようかな。

 魔物達が気にしないとはいえ、私はちょっと気になるし。

 まあ、今更かもしれないけども。


「戻ったら、ひとまず依頼主に話を聞くことになると思うが、もし貴様の言うことが嘘だったら、また狩りに来るからな」


「それは構いません。ですが、恐らく数日中に、領主の方から動きがあるはずです。もし、情報が本当で、それに加担していたことを悪いと思うなら、素直に証言してくださいね」


「わかった。せいぜい、罪に問われないように話すとしよう」


 そう言って、ケベクさん達は帰っていった。

 やれやれ、まさか冒険者と戦うことになるとは思わなかったな。

 振り返ると、魔物達がじっとこちらを見ていた。

 私が止めたとはいえ、きちんと攻撃しないでいてくれたことはありがたかったね。

 もし、攻撃していたら、もっと話がややこしくなっていた可能性もあったし。


『タスカッタ』


『アリガト』


『いえいえ。こちらこそ、攻撃を控えてくれて助かりました』


 魔物達は、口々にお礼を言ってくる。

 魔物達にとって、あの冒険者達は、相当強い部類であり、戦いが長引けば、もっと死者が増える可能性もあった。

 それを考えると、多少は感謝したくなったのかもしれない。

 結局帰してしまったし、何で殺さなかったんだとか言われなくてよかった。


『オンセン、ハイル』


『ツカレ、イエル』


 そう言って、私達を源泉まで案内する魔物達。

 確かに、温泉には疲れを癒す効果もあると思うけど、ここに入ってしまっていいんだろうか。

 というか、入るべきはアリシアな気もするけど。戦ってたのはアリシアだし。


『ミンナ、ナカマ』


『ミンナ、ハイル』


『まあ、そういうことなら……』


 まあ、せっかく勧められているのだし、ここはありがたく入っておくとしようか。

 このままの姿で入るのはどうかと思ったけど、今元の姿に戻ってしまうと、魔物達に怪しまれてしまいそうだし、何より言葉が通じなくなってしまうので、このまま入るしかないのが残念だが。

 アリシアも、私以外に見ているものもいないということで、入ることになった。

 こんな山奥で温泉に入るなんて、かなり貴重なことだよね。


『そう言えば、エルはどこ行ったの?』


 魔物達の戦闘に駆けつけたところまでは一緒だったけど、さっきから姿が見えない。

 どこに行ったのかと探知魔法を探ってみると、ちょうどこちらに近づいてきていることに気が付いた。

 温泉に入っている私達を見て、ちょっと目を丸くしていたけど、まあ、無事ならよかった。

 とりあえず、話を聞いてみようか。

 そう思って、私はエルも温泉に入るように誘うのだった。

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