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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十章:辺境の雪祭り編
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第五百四十八話:石を取る理由

『ココ、マモル』


『ムラ、マモル』


『ルール、マモル』


 返答はいくつか返ってきたが、そのどれもが、守るという回答だった。

 確かに、この源泉がお気に入りの場所であるなら、そこからお湯を引こうと川を掘るのは目障りなことかもしれない。

 ある意味で、この場所を破壊されているようなものだし、それを食い止めようとするのは、何も間違っていないだろう。

 ただ、聞いていて思ったのは、何匹かは村を守るとか、ルールを守るとか、ちょくちょく村のことを気にかけている発言をしていることなんだよね。

 今のところ、魔物達は村へと続く街道を食い荒らして、村に迷惑をかけている存在なはずだけど、その根底には、村を守るためという理由があるらしい。

 なんで魔物が村を守ろうとしているのか、さっぱりわからないけど、どうやら悪気はないのかな?


『なんで村を守ろうとしているんですか?』


『オンセン、イッショ、ナカマ』


『オイダサナイ、ルール』


 いくつか話を聞く限り、元々この源泉は魔物達がお気に入りの場所として使っていた場所らしい。

 そこに、村の人がやって来て、温泉を引こうと川を掘ることにした。

 最初こそ、荒らされると思って抵抗した魔物達だったけど、村の人は、身振り手振りで敵意がないことを伝えてきたようだ。

 それどころか、魔物が目の前にいる中で、わざわざ服を脱いで、温泉に入ってくるという、聞いた限りではありえないような行動をとったこともあり、魔物達の中では、こいつ仲間なんじゃね? という雰囲気が流れて行ったようだ。

 種族的な意味ではなく、温泉好きの仲間という意味でね。

 村の人の根城とも言える場所が、少し離れた村だと知った魔物達は、それくらいだったら許してやるかと川を掘ることを許可、というか手を出さないことを決め、代わりに源泉に入り浸ることにしたわけだ。

 話を聞く限り、村の人が勇者過ぎる気はするけど、温泉を通じて、心を通わせた素敵なエピソードのようにも聞こえる。

 元々、魔物達は村人と争うつもりはなく、温泉を分かち合いたいと思っていただけなんだね。


『あれ、でも、小屋にあった日記では、最初はそれほど多くなかったと書いてありましたが』


 小屋の日記には、週一で管理で来ていた頃は、魔物の姿こそあったけど、それほど多くはなかったというような書かれ方をしていた。

 今の魔物達がみんな温泉に入り浸っていたなら、もっと数が多くても不思議はないと思うんだけど。


『ムカシ、スクナカッタ』


『ママ、ヨワッテタ』


『オンセン、ナオッタ』


 どうやら、最初に村人と打ち解けたという魔物は、ここにいる魔物達の母親に当たる存在らしい。

 当時は、傷を負い、弱っていたのもあって、数もいなかったけど、温泉の力によって傷も治り、今では普通に繁殖することが可能となったようだ。

 最近になって、数が急激に増えたのは、それが影響しているようだね。

 しかし、村人と交わした約束、と言っても、魔物達が勝手に決めたものではあるけど、村人には手を出さず、温泉を共有することを徹底した魔物達は、こうして共存関係を結んでいった、というわけだ。


『なるほど……まさか、魔物と和解することができるとは……』


 普通、魔物と和解するなんて不可能である。

 仮に、人の言葉を話せる魔物だったとしても、基本的には人を襲うし、魔物にとって人の言葉は、人を騙すための道具でしかない。

 それが、言葉も通じないのに、温泉というただ一点だけで和解するとは、本来ならありえない話だ。

 それほど、温泉が気持ちよかったのか、それとも温泉自体に何か物凄い効能があるのか。

 【鑑定】で見た限りでは、それらしいものはなかったような気がするんだけど、なかなか興味深い現象である。


『じゃあ、川をせき止めようとしているのは、ルールを破る輩が来たからってことですか?』


『アイツラ、ナカマ、チガウ』


『コウゲキ、サレル、テキ』


『ナカマ、ヤラレタ』


 せき止めていた方の川は、魔物達の許可を得ないまま作成されたものらしい。

 建設当時から、魔物達はかなり抵抗しており、その度にかなりの仲間をやられたようだった。

 魔物達にとって、あの川を掘っていった奴らは敵であり、排除したいところではあるけど、どうやら凄腕の冒険者らしき人間を雇っているらしく、せいぜいダムを作ってせき止めるくらいしか抵抗する術がないようだ。

 そのダムも、定期的に見回りに来る奴らによって破壊されてしまうので、石がいくつあっても足りない状況になった。

 すでに、山にある主要な石が取れる場所は取りつくしており、困った魔物達は、山を下りて、石がある場所を探した。

 そうして見つけたのが、あの街道の敷石だったのだという。

 なるほど、そう言う理由だったわけか。

 まさか、本当に村のために頑張っているとは思わなかったけど、そのせいで村が窮地に陥っているのはちょっと可哀そうだね。

 まあ、そこまで考えることはできなかったのかもしれないけど。

 というか、仲間を殺されたという点においては、私達も結構な数を倒してしまっているんだけど、それはいいんだろうか?

 最初に源泉に来た際にも、特に何も反応はなかったし、気づいていないのか、気づいていてなお温泉好きだからと許してもらっているのか、わからない。

 あんまり突かない方がいいかもしれないね。


『あの、あの石は、村に来るために必要なものなんです。だから、あれを取って行ってしまうと、村の人が困ってしまいますよ?』


『ムラ、コマル?』


『ソレハ、コマル』


 それとなく伝えてみたけど、やはり気づいていなかったようで、ちょっと困惑している様子だった。

 今後は、街道の敷石には手を出さないと言ってくれたので、これでこれ以上被害が出ることはない、と思う。

 魔物だから、完全に信用するわけにはいかないけどね。今覚えていても、いずれ忘れてしまうってことはあるかもしれないし。


『さて、となると後の問題は、町の方に流れている川か』


 魔物達が街道の敷石を取る理由も、源泉に入り浸っている理由もわかった。

 元々、魔物達は村人を攻撃する気はないようだし、あまり刺激しすぎなければ、問題はないだろう。

 問題なのは、やはり町に伸びる川のようである。

 これがある限り、魔物達に安寧の日々は訪れないだろう。

 まあ、別に魔物がやられる分にはこちらには関係のない話だけど、あの町は勝手に温泉を引いているようだし、何かしらの制裁は加えた方がいいと思う。

 これに関しては、今村長さんが領主にお伺いを立てているようだから、そのうち動き出すと思うけどね。

 流石に、決定的な証拠があるんだから、領主だってだんまりはできないだろうし、きっと制裁をしてくれるはず。

 そうなれば、この川も埋め立てることになるだろうし、魔物達も安心できるだろう。

 ここまでくれば、後は時間の問題だ。

 何とか、解決しそうで何よりである。

 私は、ようやく解決の糸口が見えてきたと、ほっと息をついた。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
後々に埋めて復旧させるなら魔物との仲介役をする人を立てて紹介とかもやった方が良さそうよな
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