第五百四十七話:聞き取り調査
翌日。予定通り、再び山に赴き、源泉の調査をすることにする。
昨日の様子を見た感じ、特に危険はなさそうなので、今回は私とエル、そしてアリシアだけだ。
気になっていたので、ちょっと早めに来たんだけど、やはり、魔物達は源泉でぷかぷかと浮いていた。
見分けがつかないから、前日いた奴らと同じかどうかはわからないけど、源泉が気に入っているのは間違いないようである。
「相変わらず襲ってこないのはいいけど、やっぱり謎なんだよね」
源泉にいるのは、この場所が気に入っているからで済ませることができるかもしれないけど、川をせき止めたり、街道の敷石を食らっているのはよくわからない。
昨日、街道の敷石を狙っているのは、川をせき止めるための石を調達するためじゃないかと考察したけど、それじゃあ結局川をせき止める理由は何という話になるんだよね。
仮に、気に入っているこの場所を守るために、お湯の流出を止めるためにせき止めようとしているというのならまだわからないでもないけど、だったら村に続く川はせき止められていないのが謎だし、本当によくわからない。
魔物の言葉がわかったら話は早いんだけども……。
「竜神モードになれば、ある程度はわかるかな?」
一応、竜神モードになれば、大抵の言葉は理解できるようになるはずである。
異世界の人工神であるメリッサちゃんが訪れた時も、竜神モードの力を借りて会話をすることができたし、神様の力は、言語の壁を超えることが可能だ。
まあ、相手の言葉を理解できるだけであって、こちらからの言葉を理解させることはできないから、会話するとかは難しいけど、ある程度気持ちを汲み取ることはできるんじゃないか。
「試してみるか」
私は、二人に少し離れるように言うと、服を脱いで、竜神モードへと変身する。
竜珠から神力が溢れ、胸の内が熱くなっていく感覚。
だんだんと体が大きくなっていき、銀の鱗が体を覆って行った。
が、しかし、その途中で、思わぬ事態が発生する。
「え、ちょっ……」
普段なら、竜を人型にしてそのまま巨大化したような姿になるのだが、今回は途中でその方向性が変わっていった。
骨格はだんだんと四足歩行に適したものへと変わっていき、体も細くしなやかになっていく。
ふと、目に違和感を感じ、思わず抑えたが、そこにはいつもと違う感触が返ってきた。
これは、目が増えてる?
目を隠しても、別の目から辺りの様子を確認することができるという、異様な感覚。
ここまで来て、なぜこんな異変が起きているのかを理解した。
竜神モードにここまで干渉できる奴なんて、一人しかいない。
すなわち、竜珠に住まう、リクである。
『リクーッ!』
思わず上げた叫び声は、獣のような唸り声であり、普段の竜語とも違うようだった。
やがて変化が終わる。
文字通り無数の目で確認してみると、一応、竜ではあるようだった。
背中からは私のトレードマークである翼が生え、体も銀の鱗に覆われている。
しかし、体格は完全に四つ足動物のもの。尻尾もしなやかで、手足の生えた蛇のような印象を受ける。
一体なんでこんなへんてこな姿にしたのか、説明してもらいたい。
『リク、これはどういうことですか!』
『どうって、その蜘蛛と話すんでしょ? だったら話しやすい形の方がいいと思って』
『話しやすいって、この姿がですか?』
確かに、いつもの竜神モードになってしまうと、溢れる神力によって怯えさせてしまうかもしれないし、それを抑えたという意味では、話しやすい形なのかもしれない。
でも、それだったら単に大きさを小さくするとかでもよかったよね?
『ほら、相手の言葉はわかるけど、こっちの言葉は伝えられないって嘆いてたじゃん。だから、伝えられるようにしたんだよ』
『こっちの言葉が伝わるようになったんですか?』
『うん。いつもの声と違うでしょ?』
まあ、言われてみれば確かに、いつもの竜語ではないのは感じていた。
つまり、この言葉は魔物の言葉ということ?
なんかもう、何でもありだな。
「は、ハク……?」
『はっ……!』
気が付くと、アリシアが呆然とした様子で私のことを見ていた。
竜神モードに関しては、いつだったか言ったことがあったような気がするけど、こうして見せたのは初めてだったかもしれない。
しかも、その初めてのお披露目が、言っていた姿とは全く違う姿。そりゃ困惑もするだろう。
ましてや、なんだか目がたくさんある化け物みたいな姿なんだから、もしかしたら恐怖しているかもしれない。
これでアリシアに引かれたら恨むからな、リク……。
「なんだか、凄い姿になりましたけど、大丈夫ですか?」
『体は問題ないけど……ちょっと予想外だったかな』
普通に話しても妙な言葉になってしまうので、【念話】によって言葉を伝える。
まあでも、これで意思疎通が可能になったと思えば、悪いことばかりでもない。
さらにいじくられる前に、さっさと用事を済ませてしまおう。
『今から魔物達と話してみるから、ちょっと離れててね』
「え、ええ、わかりました」
私は、とりあえず近場にいる魔物に近寄る。
魔物達も、急に私の姿が変わったからか、興味深そうにこちらを見ている。
さて、ちゃんと話はできるだろうか。
『えー、私の声、聞こえますか?』
『ナンダ、ナンダ』
『ナカマ?』
『ナカマダ』
どうやら、みんな私のことを仲間だと思っているようである。
姿かたちが全然違うんだけど……魔物同士は仲間ってことなんだろうか?
まあ、仲間と思ってくれる分には話しやすい。色々聞きたいことを聞いてしまおう。
『皆さんは、なぜここにいるんですか?』
『アッタカイ』
『チカラ、モラエル』
『オキニイリ』
なぜここにいるかと聞いたけど、それぞれ理由はあるものの、やはりこの場所が気に入っているからといった答えが多かった。
中には、力が貰えるから、といった声もあったけど、この温泉にそんな効能があるんだろうか?
試しに【鑑定】で調べてみたけど、確かにいくつか効能らしきものはあるようだけど、力が貰えると言ったような効能はないように見えるけど……。
何かしらの効果を、力と勘違いしているのかもしれないね。
『では、山を下りて、街道の敷石を狙っているのは?』
『カイドウ?』
『イシ、アルバショ』
『ヒツヨウナモノ』
『イシ、タリナイ』
続いて街道の敷石についても聞いてみたけど、なにやら必要なものであるらしい。
単に食事として食べている、って言うわけではないようだ。
となると、やっぱり石を集めて、川をせき止めるのに使っているってことなんだろうか?
それにしても、魔物の言葉は片言で聞き取りにくい。
一応、多少知恵がある者もいるようだけど、それでもかなり聞き取りづらい状況だ。
いや、話ができているだけましなんだけどね。本来なら、言葉を聞くことはできても、伝えることはできなかったわけだから。
『では、川をせき止めようとしているのは何なんですか?』
ひとまず、最大の疑問をぶつけてみる。
この答え次第では、解決策が見えてくるけど、果たして。
私は、意識を集中させながら、魔物達の返答を待った。
感想、誤字報告ありがとうございます。