第五百四十六話:解決の道
「なるほど、そんなことが……」
村に戻り、さっそく村長さんに報告した。
まさか、別の町が源泉からお湯をちょろまかしているとは思っていなかったのか、かなり驚いていた様子である。
「ちなみに、その辺の権利ってどうなっているんですか?」
「あの源泉の管理は、領主様の許可の下、この村が任されております。もし、この村以外で源泉を利用する際は、村の代表である私と、領主様の許可が必要になるはずです」
「となると、やっぱりあれは違法なんですね」
予想していたことだけど、やっぱり無許可だったようだ。
まあ、温泉ってだけでも、客寄せとしてはそれなりに効果があるものだし、ましてやここの温泉は遠方からわざわざ人が訪れるほど人気だったようだから、欲しくなるのも頷ける。
でも、そのために洞窟を掘ったり、川を掘ったりして町まで繋げるのは、正直やりすぎな気がしないでもない。
というか、どうせ引き入れるなら、ちゃんと許可を取ればいいだけの話では?
あれだけの規模の町なのだから、そこまで財政に困っているとは思えないし、もしばれて温泉を取り上げられるようなことがあれば、町としては結構な痛手だと思うんだけど。
それとも、そう言う権利を知らなかったとか?
温泉って、この世界では割とマイナーなイメージだし、そう言うことに権利が要らないと思っていた可能性も……いや、一般人ならともかく、町を束ねるような貴族が知らないわけはないか。
いずれにしても、これは由々しき事態である。
すぐさま、領主に報告すべきだろう。
「すぐに領主様にお伺いを立てて見ます」
「それがいいでしょう」
「わざわざ調査してくださり、ありがとうございます」
そう言って、頭を下げる村長さん。
ただ、これはあくまで問題の一つに過ぎない。町に続く道を食い荒らす魔物の対処に関しては、何も解決していないのである。
源泉の管理についても、ああも魔物がたくさんいては落ち着いて確認もできないだろうし、どうにか引き離したいところではあるけど、結局、魔物達が集まっている理由はよくわからなかった。
一応、私が小屋を調べている間に、サリアがざっと調べてくれたらしいのだけど、魔物を誘引するようなものはなかったとか。
まあ、見逃しているって可能性もなくはないけど、まさか、本当に温泉を楽しむためだけに集まっているとかじゃないよね?
川をせき止めようとしていたあの行動といい、謎が多すぎる。
「魔物に関しては、もう少し調査してみようと思います。なにか、おかしな点もあるので」
「よろしくお願いします」
報告を終え、宿に帰ってくると、さっそく温泉に入る。
源泉で、あれだけ魔物がたむろしていた温泉に入るのはどうなんだと思う気持ちもあったけど、やはり、温泉の魔力には勝てない。
別に、あの魔物が毒を出しているというわけではないだろうし、想像しなければ特に問題はない。
源泉でぷかぷかと浮いていた魔物と同じように、温泉を満喫する。
「さて、どうしたものか」
一応、明日も山に赴き、源泉の調査をする予定ではあるけど、そもそも、どうやったら解決なのか。
ゴールを考えると、あの魔物が、村に続く道を食い荒らすのをどうにかした上で、源泉の管理を安全に行えるようにするってところかな?
源泉の管理に関しては、まあ、現状でも多分何とかなるんじゃないかなとは思う。
だって、私達がぞろぞろ近寄っても見向きもしなかったし、近くでサリアが大声を上げても反応しなかったんだから、露骨に攻撃しない限りは、襲われることはないだろうと思う。
もちろん、絶対ではないし、何かが魔物の機嫌を損ねて襲われるって可能性もなくはないから、絶対安全とは言えないけど、なんとなく、あの魔物は、そう悪い奴じゃないのではと思い始めている。
思い浮かべるのは、源泉でぷかぷかと浮いていたあの魔物達の表情。
いや、表情と言っても、ほとんど読み取ることはできなかったけど、なんとなく、リラックスしているんだろうなというのは伝わってきた。
ないと思っていたけど、本当に温泉が好きで浸かりに来ているだけの可能性もあると考えると、なんだか憎めなくなってくる。
まあ、源泉に魔物がはびこっているのは、普通に問題ではあるけどね。気持ちはともかく、見た目は最悪だし、あれが入っていた源泉から流れてきた温泉に入っていると考えると、ちょっと気分が悪くなることもあるかもしれない。
そこらへんは、考え方によって色々変わってくる気がする。
それよりも問題なのは、街道の敷石を食い荒らしてしまうという点だろう。
これに関しては、対処のしようがない。
街道にわざわざ保護のための結界を張るわけにもいかないだろうし、せいぜい、魔物が嫌うお香を焚くとかそのくらいだろうか。
それでも完全に防げるわけではないし、今の調子で食い荒らされてしまうのなら、それこそお金がいくらあっても足りない。
あの魔物が、敷石を食い荒らす原因をどうにかしない限りは、やはり殲滅するしか方法がなくなってしまう。
「主食が鉱物って言うのはわかるけど、それだけでなんで街道の敷石を狙うのか」
宿に戻った時に、タックスさんに軽く聞いてみたけど、街道に使われていた敷石は、それなりにいいものではあったらしい。
まだ観光で栄えていた頃は、お金にも余裕があったので、領主とも相談して、観光地らしい装飾を施したりもしていたようだ。
しかし、食い荒らされて、もう一度敷き直した時は、そう言った装飾もなく、値段も抑えたものだったので、品質は若干下がっていると言っていい。
仮に、魔物が街道の敷石のことを美味しいと思って食べたのなら、逆にまずいと思うような素材で作れば解決なんだろうけど、魔物の好みなんてわからないしなぁ。
そもそも、何度か材質が変わっているのに食われるって言うことは、味はあまり関係ない気もするし。
山にもたくさん石はあるだろうに、わざわざ狙う理由が本当にわからない。
「川をせき止めようとしているのも謎だし、本当によくわからない」
見ようによっては、川をせき止めて、お湯の流出を食い止めようとしているとも取れると思ったけど、だったら村に引き入れている川をせき止めない理由にならないしなぁ。
でも、あの時せき止めるために、口から石を吐き出していたのは、他の場所から集めた石を持ってきているとも取れるのかな?
単純に食べるだけじゃなくて、収納のように使えるのなら、街道の敷石を狙う理由にもなる、かも?
川をせき止める理由はよくわからないけど、街道の敷石を狙う理由はもしかしたらそれかもね。
色々考えてみたけど、もしそうなら、川をせき止める必要がなくなれば、街道の敷石は狙われないということになるし、そこらへんは試してみてもいいかもしれない。
そんなことを考えながら、温泉に浸かっていた。
感想、誤字報告ありがとうございます。