第五百四十二話:村周辺の魔物の掃討
探知魔法を見ていると、さっそく反応があった。
当然のごとく道から外れているので、整備もされてない雪の中を歩く羽目になるけど、幸い、そこまで積もっているわけではないので、歩けないわけではない。
ぬかるんだ地面を歩いたことで汚れた靴で白い雪を汚すのは、なんとなく罪悪感があるけど、これは雪が珍しいからだろうか。
王都でも、前世で住んでいたところもそうだけど、基本的に雪は降っても積もらないことが多ったからね。
まあ、王都では除雪するのも大変だから、一歩外に出ればめっちゃ積もってるってこともよくあるけど、住んでいるだけなら、結構珍しいものだった気がする。
別に、雪を汚そうが何だろうが関係ないとは思いつつ、ちょっともったいないなと思ってしまうのは、それが原因かもしれない。
「いたいた」
「襲ってはこないみたいだな」
しばらく進むと、目視でも確認できるようになってくる。
蜘蛛型の魔物は、辺りを探るようにきょろきょろとしているが、こちらの姿を認めても、特に襲い掛かってくるようなことはない。
やはり、鉱物以外は目に入らないんだろうか? 個人で持つくらいの量なら、特に狙われないのかもしれない。
「サリア、行ける?」
「任せとけ!」
サリアがそっと手をかざすと、蜘蛛型の魔物の陰が伸び、やがて分離して、鋭い槍の形を成す。
それは、一定の高さまで上がった後、鋭い切っ先を魔物に向けて、勢い良く降り降ろされた。
「ギャッ!?」
背中に背負った岩ごと貫かれた魔物は、小さく悲鳴を上げてその場に倒れ伏す。
硬くはあるけど、やはり魔法への耐性はそこまでではないらしい。
残った魔物も同じように処理し、ひとまず制圧に成功した。
「お疲れ様。流石だね」
「まあ、これくらいはな」
魔物を回収し、再び探知魔法で魔物を探すフェーズに入る。
確かに、魔物の強さとしては結構強いけど、最初は敵対しないというのがアドバンテージになる。
不意打ちで倒してしまえば、被害はほとんど出ないだろう。
まあ、問題なのは、相手が硬くて一撃で倒すのはほぼ不可能ってところだと思うけど。
私は竜の力のごり押しもあるし、サリアだって、私が教えた魔法陣によって、だいぶ強化されている。
他のみんなも、形は違えど強者なのに違いはないし、仮に相手がAランク級の魔物だろうが、ある程度は対処できるだろう。
多分、普通の冒険者がこの魔物を無傷で倒そうってなったら、最低でもCランクが四人は欲しい。
魔法で動けなくして、他の三人がめった刺しにすれば、あるいは倒せるかもしれないね。
まあ、それも相手が一体だけの時って言う制約が付くが。
「探してみると、結構多いね」
「だなー。そんなにこの辺の石が好きなのか?」
しばらく、魔物の討伐に明け暮れていたけど、本当に数が多い。
数歩歩けば出会う、って程ではないにしろ、探知魔法を見れば、無数に反応があるのがわかるだろう。
山の方に行くにつれて、だんだんと数が増えているようにも感じるけど、多分、分布的にはそう大差はないのかな?
お兄ちゃん達の方はどうなんだろう。やっぱりたくさんいるんだろうか。
「そろそろ日が暮れるし、今日はこの辺りにしておこうか」
「おう」
しばらく狩りを続けて、日の落ちたてきたタイミングで村へと戻る。
戦果は上々。殲滅できたかはわからないけど、間引きとしては狩り過ぎなくらい狩ったとは思う。
村に帰ると、他のみんなも戻ってきていた。
いずれも、結構な数を狩ったようで、換金したら、それなりの金額になりそうである。
ひとまず、このことを村長さんに伝えるべく、家に赴くと、こんなにも早く狩ってくるとは思わなかったのか、驚いたような表情をしていた。
「さ、流石はAランク冒険者様。仕事がお早い」
「とりあえず、村の周囲の魔物は粗方狩りました。しばらくは、出てこないとは思いますが……」
「ありがとうございます。こんな責任も取れないおいぼれの頼みを聞いてくれて」
村長は、今にも泣きだしそうな目でこちらを見ている。
よっぽど、魔物の被害に苦しんでいたんだろうね。ここまで狩ってきた人は今までなかったようだし、ここまでしてくれるとは思っていなかったんだろう。
と言っても、狩ったのは村の周囲だけ。そこそこ歩きはしたが、それでも歩いて行ける範囲ということである。
探知魔法にはまだまだ反応があったし、山の方にはもっといるだろうから、いずれはまた戻ってくる可能性は高い。
でも、流石に相手も、ここまで狩られるとは今まで思ってなかっただろうし、この村を脅威と見て、離れてくれる可能性もなくはない。
しばらくは様子を見て、被害が出るかどうかの確認がしたいね。
「この恩は、最上級のおもてなしを持って返させていただきます。どうぞ、温泉を堪能していってください」
「ありがとうございます。そうさせていただきますね」
依頼は完了したとは言えないかもしれないけど、とりあえず温泉には入りたい。
報告を終え、宿に帰ってくると、タックスさんが出迎えてくれた。
どこからか、私達が魔物の討伐に出かけて行ったことを知ったのか、こちらでも改めてお礼を言われた。
みんな、魔物にはほとほと困っているから、もし討伐できるのなら、やはり期待せずにはいられないんだろう。
雪で冷えていたということもあって、温泉に入らせてもらうことにした。
「しかし、温泉も久しぶりだねぇ」
昨日も入ったけど、温泉に入るのは本当に久しぶりだった。
前世では、子供の頃は、よく近くの温泉に連れて行ってもらったけど、上京してからはそんな暇もなくて、全然行っていなかった。
転生してからも、温泉に入る機会なんて全然なかったし、こうして温泉に入れるのは、なかなかに新鮮な気持ちである。
まあ、今は別の意味で新鮮という感じもするが。
「ハク! 一緒に入るぞ!」
勢いよく入ってきたのは、サリアである。
温泉には、男湯と女湯があると思うんだけど、今や、私は女湯の方に入る身である。
本当に小さな子供なら、男の子でも親と同伴で女湯に入ることはあるかもしれないけど、私は入ったことなかったからね。
元男である私が、女湯に堂々と入っていいのかという葛藤はあったけど、今は男湯に入る方が問題である。
いや、今宿に泊まっているのは私達だけらしいし、私達の中で男性はお兄ちゃんくらいだから、別に入ってもいいんだけど、みんなから反対されたからね。
何となく落ち着かないけど、まあ、このメンバーならまだましである。
いきなり裸で抱き着いてくるサリアにはちょっと遠慮してもらいたいが。
その後も、ぞろぞろと入ってくる他のメンバーを前に、さりげなく視線を外しながら、温泉を楽しむ。
ああ、いい湯だなぁ。
新しく作品を投稿しました。タイトルは『白竜転生~前世は社畜だったので今世では自由気ままに生きたい~』です。
もしよろしければご覧になっていただけると幸いです。