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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十章:辺境の雪祭り編
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第五百四十一話:対処療法

「領主様の気持ちは嬉しいです。しかし、問題を先送りにして、取り返しがつかない状態まで持って行ってしまったのは私達の責任。いっそのこと、村は諦めてしまうということも考えています」


「村長さんは、それでいいんですか?」


「よくはありません。ですが、このままでは、いずれ村人に被害が出るのも時間の問題。討伐もできない以上、どうにもできないのも事実です」


 まだ揺れている領主と違って、村長はすでに諦めムードらしい。

 まあ、実際に目の当たりにしているから、どうにもできないってことも理解しているんだろう。

 希望があるとしたら、被害を最小限に抑えつつ、魔物をどうにかできるような状況が訪れることだけど、魔物の強さを考えると、それは無理な相談だ。

 仮に、Aランク級の冒険者を連れてくるにしても、今の財政状況では、報酬を払うこともできないだろう。

 そもそも、指名依頼も多く受けるAランク冒険者が、報酬の確約ができない村の依頼をわざわざ受けるとも思えないし、強い冒険者を呼ぶにしても、せいぜいCランクくらいが限度だろう。

 どうしたって被害は大きくなるだろうし、一度で何とか出来るならまだしも、今後も何度もやらなければいけないとなれば、被害の方が大きくなる。

 これでどうやって希望を持てばいいのかと、考えさせられるよね。


「タックスから話は聞き及んでいます。王都から、わざわざこの村を取材しに来てくださったのでしょう? その気持ちはとてもありがたいですが、こんな村で申し訳ない」


「謝ることはありませんわ」


「その通り。悪いのは魔物ですから」


 深々と頭を下げる村長に、シルヴィアとアーシェが優しく言葉をかける。

 とりあえず、領主がまだ諦めていなさそうというのは朗報ではあるけど、どうしたものだろうか。

 一時的にでも、私達の手で、魔物の掃討でもしてみるか?

 今まで、魔物が村から離れなかったのは、冒険者達では手に負えないほど強かったからである。

 であるなら、そんな思いをぶち壊すように、完膚なきまでに痛めつけてやれば、もう山から出てこなくなるんじゃないだろうか?

 魔物にとっては災難かもしれないけど、人に害を成すなら駆除しないわけにもいかない。


「ハク、何とかできないかしら?」


「このままだとこの村が可哀そうですわ」


「うーん」


 終始申し訳なさそうな表情を浮かべる村長さんを労う。

 そのあまりに悲痛な表情に心を打たれたのか、シルヴィア達はどうにかこの村を助けられないかと考えているようだった。

 私も、できるなら助けてあげたいし、やれるだけのことはすべきだろうか?


「……村長さん、一応、この場にはAランク冒険者がいます。もし望まれるのなら、魔物の討伐を請け負うこともできますよ」


「Aランク冒険者……し、しかし、今の私達には、そんな高名な冒険者にお支払いできるようなお金は……」


「お金はいりません。今後も、ここの温泉に入らせてくれるのなら。ね?」


「そうだな、昨日入ったが、ここの温泉は最高だった」


「このまま潰れてなくなっちゃうのは避けたいわよね」


 私の言葉に、お兄ちゃんもお姉ちゃんも頷いてくれた。

 村長は驚いたように目を見開いていたが、お兄ちゃん達も頷いて見せると、少し考え込むように目を閉じた。


「……この村の温泉を、そこまで好いてくださってありがとうございます。こうして村を訪れることになったのも、何かの縁でしょう。魔物の討伐、お願いしてもよろしいでしょうか?」


「もちろんです」


 さて、これで後には退けなくなった。

 もちろん、魔物を討伐したからと言って、状況が好転するかもわからないけど、やって見なければ何も始まらない。

 どうせ、取材のために数日はこの村に滞在することになるわけだし、その片手間にやるくらいはいいだろう。

 拝むように手を合わせる村長に別れを告げ、ひとまず外へ出る。


「さて、いっちょやってやるか」


「とりあえず、村の周りの魔物を討伐すればいいかしら?」


「うん。それでなんとかなるならよし。ならないなら、また詳しく原因を調査するかな」


 魔物は山から来ているから、原因を調べるなら山に入らなきゃいけないと思うけど、雪で覆われた山に入るのはなかなか危険だしね。

 最悪、飛んでいけば何とかなるとは思うけど、とりあえず対処療法を試しておきたい。


「それじゃ、私も出ましょうか。最近魔物狩りなんてしてませんでしたし」


「僕も手伝うぞ!」


 アリシアもサリアも、やる気十分のようである。

 と言っても、全員で狩りに出かけるわけにもいかない。

 ないとは思うけど、村が襲われる可能性もあるし、それを考えないにしても、本来の目的は取材である。

 この村を助けるというのは、あくまでおまけであり、本来の仕事を疎かにするわけにはいかない。

 そうなると、村に残って取材する人達と、魔物の討伐に出かける人達で分かれる必要があるだろう。

 取材に関しては、シルヴィアとアーシェ、ステラさんとマーテルさんがいれば十分ではあると思う。

 みんな魔法の心得があるし、もし襲われるようなことがあっても大丈夫だろう。

 となると、討伐には、それ以外のメンバー。お兄ちゃんとお姉ちゃん、アリシア、サリア、カムイ、ユーリ、エル、そして私が出ることになる。

 ちょっと多い気もするけど、村の周囲は足場も悪いし、なるべく手分けして対処した方がいいだろう。

 もちろん、相手の強さを考えると、油断していいわけでもないから、基本的にはツーマンセルである。

 これなら、不測の事態が起きても何とかなるはずだ。


「よし、それじゃあ組み分けを決めて……魔物の討伐、張り切って行こうか」


「「「おー!」」」


 組み分けを決め、さっそく村の外へと繰り出す。

 ちなみに、組み分けとしては、私とサリア、アリシアとお兄ちゃん、カムイとお姉ちゃん、ユーリとエルとなった。

 なんか、みんな私と一緒になれなかったと少し落ち込んでいたようにも見えるけど、いまさらそんなの気にしなくてもいいのに。

 唯一、選ばれたサリアは、とてもはしゃいでいたけど、遊びじゃないんだからね?


「僕達の担当はこっちか」


「うん。村の北側だね」


 組み分けを決める際に、どこを担当するのかもある程度は決めておいた。

 村の北側は、少し離れた場所に山があり、源泉を引く川があるらしい。

 そこまで離れているわけではないとはいえ、あの山から村までお湯を引っ張ってくるのはなかなかに大変だっただろうに、温泉を堪能してやろうという執念を感じるね。

 元々、この世界ではお風呂はあまり一般的ではないのに、誰が言いだしたんだろうか。

 それとも、お風呂と温泉は別ものなんだろうか?

 いい効能があったりとかね。


「さて、これで収まるといいんだけど」


 とりあえず、道に沿って歩きながら、魔物を探す。

 相変わらず、道は敷石もなく、土がむき出しの状態、しかもぬかるんでいるものだから歩きにくいけど、道だとわかるだけでもまだ救いはある。

 さて、魔物はどこにいるだろうか。

 私は、探知魔法で気配を探りながら、歩を進めるのだった。

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ワンチャンどこかの妨害の可能性も微レ存
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