第五百三十九話:雪祭りの全容
「とりあえず、どれほど深刻かの確認がしたいね」
一応、魔物を倒すくらいだったら、私達にもできる。
別に、依頼を受けているわけでもないし、この村に対して思い入れがあるわけでもないが、頼まれれば、依頼として魔物の討伐くらいはやってもいいとは思う。
ただ、魔物の規模の問題がある。
話によれば、とても繁殖力が強いらしいし、狩っても狩ってもきりがないという可能性もなくはない。
巣を見つけて全滅させればあるいは、とも思うけど、元は山に住んでいた魔物らしいし、全滅させたとしても、そのうち魔力から生まれてくるだろう。
もちろん、そうならない可能性もあるし、ちょっと狩るだけで何とかなるのなら、協力する気も起きる。
まずは、どれほどの規模なのかを把握するのが大切だ。
「そんじゃ、町の付近の偵察は俺達がやってこよう」
「いいの?」
「ああ。お前達は取材の件もあるだろう?」
「まあ、それはそうだけど」
私達がここに来たのは、あくまで雪祭りの取材のため。
村の問題を聞いた以上は、できれば助けてあげたいとは思うけど、別に頼まれたわけではないし、あえてやる必要はない。
であれば、私達がやるべきなのは、村の問題の解決ではなく、取材をして、村の良さを伝えることだろう。
もちろん、今のままだと、いくらいいことを書いても、お客さんが戻ってくるかはわからないけどね。
「せっかくの旅行でもあるし、ここは私達に任せて、ゆっくりしていきなって」
「うーん、まあ、そう言うことなら……」
お兄ちゃんとお姉ちゃんには申し訳ないけど、楽しむことも今回の取材では必要ではある。
楽しめない状態で、いいことを書こうとしても書けないだろうからね。
しばらくは村の問題は忘れて、雪祭りを楽しむことにしようか。
「そうと決まれば、さっそく雪祭りを見に行こう!」
「雪祭り、どんなものなんでしょう」
偵察をお兄ちゃん達に任せ、私達は、村の広場へと向かうことにした。
雪祭りでは、雪で作る像が目玉である。
大きなところでは、とても精密に作られていて、体験会なんかも開かれていることが多いらしいけど、この村ではどうだろうか。
「おお、たくさんあるね」
「でっかいなぁ」
広場には、いくつかの雪像が並べられていた。
割と作り込まれており、魔道具で固められているのか、溶ける様子もない。
雪で作られたトンネルや、意図的に作られた坂からそりで滑り降りるなんて言うアトラクションも用意されていて、訪れた人を楽しませようという気概を感じる。
祭りらしく、近くには屋台もいくつか開かれており、美味しそうな匂いが漂っていた。
なかなか雰囲気は良さそうだ。
「なあなあ、ハク、雪像づくりが体験できるって書いてあるぞ!」
「あ、ほんとだ。作って見る?」
「おう!」
サリアが嬉しそうにはしゃいでいる。
どうやら、雪像づくりには、特殊なこてを使うらしく、まるで絵を描くように作ることができるらしい。
どちらかというと彫刻に近いような気がするけど、材質が雪だから、面白いように形が変わる。
あんまりやりすぎると溶けてなくなってしまうから、やり過ぎはよくないけど、これくらいなら、小さい雪像くらいなら簡単に作れそうだ。
「せっかくだからみんなでやりましょうか」
「えーと、これをこう持って? なるほど、こうやるんですのね」
他のみんなも参加し、それぞれの雪像を作っていく。
私も作ってみたが、小さな雪だるまのようになってしまった。
まあ、元々何を作ろうって気もなかったんだけど、適当に作ってたらこうなったよね。
でも、雪だけでもちゃんと目や鼻は表現できたし、よくある雪だるまよりは精巧にできたんじゃないだろうか。
「アリシアのそれは何?」
「兎ですわ」
「ああ、確かに言われてみれば」
「文句がありますの?」
「いや、ないない。よくできてるなぁって」
「そう言うカムイさんのは何なんですの?」
「狼よ」
「ああ、なるほど」
「何か言いたいことあるの?」
「いえ、別に」
アリシアとカムイがにらみ合っている。
二人ともよくできてると思うけど、何か気に入らないんだろうか。
というか、この二人が会話するところなかなか見たことないよね。なんか新鮮な気持ちである。
「ふふ、やりますわね、ステラさん」
「そう言うマーテルさんこそ。この勝負、あなたに譲りますわ」
ステラさんとマーテルさんは、どうやら私とサリアの像を作ったらしい。
公共の場に来てまでそう言う像を作って欲しくないけど……まあ、村の人からしたらただ仲良くしているだけの像だろうし、別に問題はないか。
結構よくできてるのが面白い。
「これ持って帰れないのか?」
「流石に溶けちゃうんじゃないかなぁ」
「そっかぁ」
いくら魔道具で固めているとはいっても、流石に持って帰るのは無理だろう。
いや、結界を使えばもしかしたらできるかもしれないけど、そこまでする必要はないだろうね。
サリアは何か名残惜しそうに雪像を見ているけど、思い出として心の中にしまっておくのがいいと思うよ。
「なかなか面白かったですわね」
「ええ、雪が降ってたらまた違ったんでしょうけど、今日は降ってないみたいですし」
この地域は、すでに結構雪が降っているようだけど、今日は運良く降っていなかった。
というか、降っていたら村まで辿り着けなかった可能性もあるかもね。
道がないから、雪が積もると目印がなくなってしまうし。
そう言う意味では、運がよかったと言えるかもしれない。
まあ。その気になれば、探知魔法で探ることはできたかもしれないが。
「お次は屋台ですわね」
「普段、こういうお店で買うことがあまりありませんから、なんだか新鮮ですわ」
王都でも、お祭りの際は屋台が出ることはよくあるけど、基本的に、外縁部くらいにしか屋台は出ない。
中央部では、そういうものは平民のやることだという風潮があるので、貴族は貴族でパーティを開いたりなどして、個別に楽しむことが多い。
まあ、シルヴィア達は取材と称して外縁部にもかなりの回数訪れているから、もしかしたら体験したこともあるかもしれないけど、それでもあまり食べたことはないらしい。
そう考えると、学生時代の時の方が、気軽に食べれてよかったのかもしれないね。
「これは、焼いたトウモロコシ?」
「うわ、懐かしいな」
ふらりと寄った屋台では、焼きトウモロコシが売っていた。
焼きトウモロコシ、昔はたまに売っているのを見たけど、大人になるにつれて全然見なくなっていった気がする。
アリシアも、転生前の記憶が蘇ったのか、思わず口に出てしまったようだ。
さっそく買って食べてみたが、なかなかに美味しい。
シルヴィア達は、どうやって食べたらいいのかわからないようで、ちょっと困惑していたけどね。
確かに、そのままかぶりつくわけにもいかないし、ちょっと難しいか。
仕方ないので、ナイフでそぎ落として、スプーンで食べてもらうことにする。
祭りとしては、なかなかに楽しめる場所だし、後はほんとに道さえなんとかなればどうにかできそうなんだけどなぁ。
雪祭りを楽しみながら、そんなことを思っていた。