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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十章:辺境の雪祭り編
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第五百三十五話:辺境の雪祭り

「ハクは、雪祭りはご存知かしら?」


「雪祭り?」


 話によると、雪祭りとは、毎年雪の降る時期に開催されるお祭りのことで、その熱気で寒さを乗り切ろうというものらしい。

 お祭りの中では、雪を使って像が作られたりするらしく、それを目玉に、多くの人達が集まるようだ。

 あちらの世界でも、似たようなことはやっているよね。よく、テレビで雪で作ったとは思えないほど精巧な像が作られているのを見たことがある。


「雪祭りを開催している地域はいくつかありますが、その中の一つから、依頼が来たのですわ」


「依頼というと?」


「雪祭りについて、ぜひ取材してほしいとのことですわ」


 なんでも、その依頼が来た地域というのが、結構な辺境にあるらしく、祭りで人を集めようとしても、なかなか人が集まらないらしい。

 辺境の村などは、物流も乏しく、雪の降る時期になると、ただでさえ少ない流通が滞ってしまい、毎年冬越えには苦労しているのだとか。

 そんな折に、たまたま訪れた旅人が、王都で手に入れたという観光本を見せてくれたことがあり、これだと思ったらしい。

 取材をしてもらい、村の存在をアピールすれば、きっと訪れる人も増える。そう考えた村の人々は、手紙を通じてシルヴィア達の出版社に頼み込んだというわけだ。


「なるほど、それで旅行も兼ねて行ってみようと」


「そう言うことですわ」


「せっかくのお祭りですし、ハクもどうかなと思って」


 厳密には仕事で行くわけだけど、祭りを堪能することくらいはできるだろう。

 最近旅行が少ないというのもあって、せっかくなら一緒にということになり、こうして誘いに来たらしい。

 その気持ちはとてもありがたいし、シルヴィア達の頼みとあらば、なるべく応えてあげたい。

 でも、心のどこかで少し面倒くさいという感情がある。

 みんなで旅行に行ったら楽しいだろうが、余計に疲れてしまいそうだ。


「話によれば、温泉もあるらしいですわよ」


「温泉、ですか」


「ええ。温泉でさっぱりすれば、ハクの疲れも少しは回復するんじゃないかしら?」


 私のわずかな表情の変化で何かを察したのか、すかさず追加の情報を出してくる。

 なるほど、温泉は確かに魅力的だ。

 王都では、お風呂も割と普及しているけど、そもそもこの世界基準でお風呂は贅沢品である。

 魔道具を使えば、比較的簡単に用意できるとは言え、それらは高く、一般人にはなかなか手が出しにくい存在だからね。

 手動でやろうとすれば、かなりの重労働になるし、基本的には川で水浴びをしたり、濡らしたタオルで体を拭いたりして清めるのが普通である。

 そう考えると、そう言ったことを気にしないで、ゆったりと楽しめる温泉は、かなり魅力的な場所だ。

 温泉なんて、全然行ったことなかったし、ちょっと行く気になってきたかも。


「ハクさえよければ、他のみんなも誘う予定ですわ」


「馬車の手配などはこちらでしますし、どうかしら?」


「まあ、そこまで言うのなら、行こうかな」


「そう来なくては!」


 まあ、仮に疲れが取れなくても、みんなで旅行するのは楽しいし、いい思い出にはなるだろう。

 よっぽど嬉しいのか、笑顔を見せる二人を見ていると、こちらも何となく嬉しい気持ちになる。

 さて、そうと決まれば、まずは準備だ。

 とりあえず、場所を把握しておかないといけないね。


「それで、その村って言うのはどこにあるの?」


「国内ではありますが、かなりの辺境のようで」


「ここからだと、馬車で大体半月くらいですわね」


「となると、年明けはその村ですることになりそうだね」


 まあ、年明けを祝うことはあっても、どこかに初詣に行くという行事はないし、どこで年明けを迎えようがそこまで問題ではない。

 その村がどのくらいの規模なのかは知らないけど、温泉に入りながら年明けを迎えるのもいいだろう。


「他には誰を誘う予定なの?」


「今のところ考えているのは、サリアさんですわね」


「他にも、元クラスメイトから何人か誘おうと思っていますわ」


「そっか。こっちも誰か誘ってもいい?」


「もちろんですわ」


 せっかくの旅行だし、色々誘いたいところではある。

 まあ、みんな忙しそうだし、来てくれるかはわからないけど。

 ひとまず、誘え次第報告するということで、シルヴィア達は帰っていった。

 さて、ちょっと楽しみになってきたね。


「それじゃあ、さっそくみんなを誘いに行こうか」


「ハクお嬢様が元気を取り戻したようで何よりです」


 ニコニコと笑みを浮かべるエルを伴って、さっそく町へと繰り出す。

 差し当たって、まずは近場から攻めて行こう。

 ということで、訪れたのはアリシアの家である。


「雪祭り? こっちの世界にもそう言うのあるんだな」


「そうみたい。どう? 一緒に」


「まあ、そうだな。気分転換になるかもしれないし、行くのも悪くはないか」


 アリシアは、なんとなく疲れたような表情でそう言っていた。

 家の存続のため、結婚する決意を固めたアリシアだけど、結婚式などは開かず、報告をするだけで済ませることにしたらしい。

 貴族同士の結婚とあらば、盛大なパーティを開いてお祝いするものではあるけど、アリシアは社交界ではそんなにいい顔はされないらしい。

 婚約騒動の時も、リーフレットさんに対する対応を誤り、多くの貴族令嬢から白い目で見られていたしね。

 いや、あれはアリシアは間違っていないとは思うけど、そう言う正直者は、社交界では長くは生きられないということだ。

 それに、アリシアも、婚約者であるハールさんの家も、どちらも騎士の家系であり、派手なものは好まない。

 どうせ噂で知れ渡ることになるし、わざわざ盛大に祝うようなことはしなくてもいいだろうという判断のようだ。

 ただ、パーティを開かなければ開かないで、色々言われているらしく、将来のことも含めて、心労が溜まっているらしい。

 私は、初めから社交界とかには全然顔を出していないからよくわからないけど、実際に体験すると、相当大変なようだ。


「ハールさんも連れて行く?」


「いや、あいつはいいだろ。今回は、友達同士の個人的な旅行ってことで、遠慮してもらう」


「そっか」


「あいつが嫌いなわけじゃないが、見る度に将来を想像しちまって、不安になるんだよ……」


 アリシアとハールさんが結婚することによって、家は守られるかもしれないが、さらにその将来を考えると、跡取りが必要になる。

 そして、跡取りを作るにはアリシアが子供を産む必要がある。

 元男の転生者として、子供を産むのは相当にハードルが高いだろう。だからこそ、こんなに思い詰めているわけだ。

 最近は、カード開発とかの場にも顔を出さないし、その心労は計り知れない。

 ハールさんはまっすぐな人だけど、こればっかりは仕方ないよね。


「まあ、この旅行で嫌なことは忘れよう?」


「そうなるといいな……」


 アリシアを宥めつつ、他には誰を誘おうかと思案する。

 久しぶりの大所帯の旅行に、少しワクワクしていた。

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― 新着の感想 ―
アリシアさんのこれはある意味マリッジブルーかな?
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