第五百三十四話:癒しが欲しい
第二部第二十章開始です。
リク、そしてゴルムーンと出会ってからしばらく。私は、近づいてくる年明けの音を感じながら、脱力していた。
最近は、神様関連のことが立て続けに起こり、結構神経を使っていたのもあって、とても疲れている気がする。
今回の件では、リクには体をいじられるし、ゴルムーンに関しては、マーレさんのアフターフォローも含めて気を使っていたから、本当に疲れた。
一応、マーレさんに関しては、今後はゴルムーンも手を出さないことにしたらしい。
せっかくの信者をそんな簡単に手放していいのかとも思ったけど、元々、そろそろ限界が近かったようだ。
精神崩壊し、使いものにならなくなった信者はそのまま殺してしまうらしいのだけど、別に、後処理としてそうしているだけで、好き好んで殺したいとは考えていない様子。
きちんと食事を用意してくれて、しかも後処理もやってくれるとあれば、ゴルムーンも積極的に手出しをする理由もないわけだね。
逆に言えば、あとちょっと遅かったら、マーレさんは殺されてしまっていたと考えると、ぞっとしないけど、間に合ったのなら、まだよかっただろう。
後は、今後きちんと正常に戻って行けるかどうかだね。
「神様が見つかってるのはいいことなんだろうけど、ちょっと休憩したい……」
近寄ってきたルークを撫でながら、ついそんなことを思ってしまう。
もちろん、異世界からやってきた神様を元の世界に送り帰さない限りは、この世界に潜在的な脅威が残ることになるし、早めに対処した方がいいのは確かなんだけどね。
世界の危機と考えると休んでる場合ではないのはわかってるけど、どうしても疲労は溜まっていく。
ルークは癒しとなってくれているけど、もっと何か疲れが取れるようなことはないだろうか。
「私が疲れを取ってあげようか?」
「ユーリ、そう言うことじゃないんだよ……」
ソファでだらけていると、部屋に入ってきたユーリがそんなことを言ってくる。
確かに、ユーリにかかれば、精神的な疲れだろうが何だろうが、自分の体に移して、私の体から疲れを取り除くことはできるだろう。
けど、私がこう思っている限り、疲労はその都度蓄積するわけで、移しても移してもきりがないと思う。
そもそも、私はユーリを都合のいい疲労解消装置とは思っていないし、ユーリはユーリで普通の生活をして欲しい。
ただでさえ、私みたいなのと結婚してくれているんだから、せめて日常くらいはね。
「魔力の乱れは見えませんし、体調的には問題なさそうですが、やはり、ストレスの影響なんでしょうかね」
「多分ね。エルだって、神様見てストレス溜まったりしてるでしょ?」
「否定はしません」
平然とそばにいるエルだけど、そばにいるからこそ、巻き込み事故的に神様に会う機会が多い。
リクも言っていたけど、クイーンが連れてきた神様って言うのは、基本的に見ただけで発狂するような悍ましい姿の者が多い。
姿がまともでも、プレッシャーによって発狂するというパターンもあるだろう。
とにかく、会うだけでも、相当なストレスがかかることは間違いない。
エルは、何とか発狂せずに済んでいるようだけど、逆に言えば、発狂しないように精神を律しているということでもある。
発狂してしまった方が、何も考えなくていい分、楽だったということもあるだろうしね。
私でさえ、息を飲むような化け物が多いんだから、エルだって相応に疲れているはずである。
「それなら、お祭りに参加するというのは? そろそろあるでしょう?」
「あるけど、その気力も沸かないというか……」
現在は12月。あと半月もすれば、年明けとなり、年始を祝うお祭りが開催される。
すでに、王都ではその準備が進められており、町のいたるところに明るい装飾が見られている。
多分、年明けの時はかなり賑わうことになるだろう。
私も、お祭りは好きだし、年に数回しかないのだから参加したいのは山々なんだけど、今はそれよりも休みたいという感情が先行する。
いっそのこと、里帰りでもしようかな?
竜の谷に行けば、落ち着くだろうし、あちらの世界の実家でもいいよね。
何か癒されることが欲しい。
「癒しねぇ。それなら、カムイさんのところで夢を見せてもらうというのは?」
「ああ、それは良さそう」
カムイがやっている、夢を見せる仕事だけど、確かに、夢の世界で好きなことができるなら、精神的にも癒されそうだし、肉体的にも寝ているから疲れは取れそう。
アンナちゃんも、いつでも来ていいと言っていたし、そこに行くのはありかもしれない。
ちょっと連絡してみようかなぁ。
「ん? お客さんかな?」
と、そんなことを考えていると、玄関の扉がノックされた。
気を利かせてなのか、ユーリは何も言わずに玄関に向かう。
まあ、実際、ちょっと億劫ではあったけど、このままではダメ人間になりそう。
何とかシャキッとしないとね。
「ハク、お客さんだよ」
「誰?」
「シルヴィアさんとアーシェさん」
「わかった。今行くね」
シルヴィアとアーシェに関しては、以前ちょっとした依頼で護衛をすることになったけど、今では暴走したファン達も協力的になっており、護衛もきちんと雇ったらしいので、大きな問題は起こっていないはずだった。
また何かあったんだろうか? 疲れてはいるけど、二人の頼みなら聞かないわけにはいかないなぁ。
すでに応接間に通しているということなので、さっそく向かう。
部屋に入ると、ソファに座る二人の姿があった。
「ハク、お久しぶりですわ」
「なんだか疲れてらっしゃいます?」
「二人とも、久しぶり。まあ、ちょっと最近色々あってね……」
二人の方は、特に怪我などもしていないようで、元気そうだ。
しかし、私はほとんど無表情のはずなのに、よくわかるものだ。
これも、長年一緒にいたからだろうか。と言っても、卒業後はそこまで会ってないんだけども。
「また何かあったの?」
「いえ、特に問題は起こっていませんわ」
「むしろ、新しく本も出版して、売り上げも好調でしてよ」
これ、献本ですわ、と言って、一冊の本を渡してくる。
私の知らない間にまた何か書いたらしい。
ざっと中身を見てみたけど、私が受け、なのか? いつも逆なのに。
自分のそういう本が書かれることにちょっと抵抗がないわけではないけど、まあ、需要はあるようだし、二人はこのために出版社を立ち上げたのだから、強くは言えない。
私に害が及ばなければそれでいいかな。
「今日はこれを渡しに?」
「それもありますが、本題は別にありますわ」
「ずばり、旅行に行きましょう!」
そう高らかに宣言するアーシェさん。
旅行、確かにみんなで旅行する機会は何度か会ったし、また行くのは吝かではないけど、ちょっと時期が悪くないだろうか?
今の時期だと、雪が降る影響で、街道が封鎖される可能性が高い。
年始に向けて、里帰りのために、雪が降る前に出発しようとする人も多いし、雪が降ってなくても、かなり混雑しているだろう。
わざわざ、この時期に旅行って言うのは、ちょっと珍しいことだ。
私は、どういうことなのかと、詳しい話を聞くことにした。