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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十九章:流行病編
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幕間:狂気の調達

 主人公、ハクの視点です。

 リクの目撃情報を基に、鏡の中に潜む神様、ゴルムーンを見つけることに成功し、なんとか大人しくしてもらうように説得したわけだけど、わかっていたことだけど、問題が生じている。

 それが、ゴルムーンの食事をどうするかという問題だ。

 ゴルムーンは、人の狂気を食らう。狂気という状態をどうやって食らっているのかは知らないけど、とにかくそれが主食のようだった。

 ゴルムーンの目的は、たくさん食べることであり、その欲求さえ満たせれば、場所はどうでもいいし、クイーンに関してもどうでもいいということらしい。

 まあ、クイーン自体が、人々の苦悩を見るのが目的のようだから、その過程で狂気が生まれやすいという意味では、クイーンの味方という風にも取れるけど、だとしても、直接協力して何かすると言ったことはないだろう。

 それに、食事をこちらでどうにかできれば、こちらの味方になってくれるということでもある。

 だから、どうにかして食事を用意する必要があるわけだけど、狂気を用意するのは、なかなかに困難だ。

 狂気に陥っているということは、普通の精神状態ではないということ。

 そんな人間が、ホイホイと見つかるわけもない。

 もちろん、世界中を探せば、見つかるかもしれないが、そうして狂気を食らわれた後、マーレさんのように信者化してもらっては困る。

 食事は与えなければならないけど、その過程で、対象者が精神崩壊して殺されたりもする可能性があるわけで、ただ単に狂気に陥った人を見つければいいというわけでもない。

 だから、この問題はなかなかに難しい問題なのだ。


「どうしたらいいと思います?」


「うーん、狂気を食らうなんて、何とも悍ましいことですが、うまく利用できれば、益となる可能性もありそうではありますよね」


 対策に関しては、天使であるルーシーさん、そして、猫を介してウルさんが協力してくれることになった。

 特に、ウルさんはゴルムーンのことも知っているらしく、ある程度は協力できるかもしれないと言ってくれたので、少し期待している。


「ルークは何か意見はありますか?」


「にゃーん(一応、策と呼べるほどのものではありませんが、ないことはないです)」


 ウルさんは、クイーンに見つかるリスクを減らすために、現実世界には滅多に現れない。

 話す時も、夢の中で話すか、あるいはこうして猫を介する方法が主となる。

 クイーンがいつどこで見ているかわからないので、私も、表立ってウルさんの名前を出すことはない。

 だから、ルークと呼ぶことになるけど、鳴き声なのにちゃんと意味がある言葉に聞こえるのがなかなかに面白いな。


「その策とは?」


「にゃーん(まず、ゴルムーンの食らう狂気の定義を話す必要がありますね)」


 そう言って、ウルさんは解説を始める。

 一般的に、狂気とは、常軌を逸した精神状態のことを指す。

 常軌を逸したと言っても色々あるが、まあ、まともに会話ができないとか、できているようで通じてないとか、そういうものだろう。

 で、ゴルムーンの言う狂気とは、その中でも、負の感情を指す。

 例えば、悲しみに暮れていたり、悔しい思いをしていたり、そういったものだ。

 逆に、復讐してやると怒りに濡れていたり、人を殺すことに快楽を抱いていたり、そう言ったものはあまり好まないらしい。

 イメージとしては、自分が不安を取り除くことで、依存させたいといった感じらしい。

 要は、信者を作るためってことだね。

 信者となった者は、周りからの乖離に心が耐えきれず、定期的に負の感情を溜め込む。そして、それを回収することで、腹を満たす。

 あまりやりすぎると、その人自体が壊れてしまうから長くは続かないが、それでも、効率的に食事をするために考えているようだ。


「にゃーん(重要なのは、負の感情であれば、その強弱はあまり関係ありません。以前のマーレ女史のように、絶望に暮れている人でも、ちょっと恋人に振られて落ち込んでいる人でも、大差はありません)」


「意外ですね。てっきり、深い絶望があるほど、お腹は膨れるものかと」


「にゃーん(まあ、味の違いくらいはあるかもしれませんが、そこまで気にはしていないと思います。元々、引きこもり気質な方ですしね)」


 つまり、人選に関しては、そこまで厳選しなくても大丈夫ということだ。

 それに関しては、よかったと思うけど、それでも、解決できない問題がある。

 あまり近寄せすぎて、信者化してしまった場合、それを元に戻すのは難しい。

 仮に、多少の信仰の薄れは気にしないと考えたとしても、それでも信者化してしまった人は自傷行為に走ったりなど、真っ当な生活が送れなくなる可能性もある。

 そう考えると、誰でも彼でも与えるわけにはいかない。

 いくら殺される可能性が低いとはいえね。


「にゃーん(信者化の主な要因は、彼女の姿を見ることによって起こるものです。なので、姿を見せなければ、可能性は相当低くなるかと)」


「ああ、そう言えば見るだけで発狂するとか言ってましたしね」


 信者化の主な要因は、発狂した時に起こる、謎の依存性である。

 誘拐犯と長くいた被害者が、誘拐犯のことをいつの間にか信頼してしまう現象のように、ゴルムーンの姿を見ることによって、謎の安心感を得てしまうんだとか。

 ただでさえ、ゴルムーン的には、相手を慰めて、その代わりとして食べさせてもらっていると言っていたし、より一層依存感が強くなるんだろう。

 つまり、ゴルムーンの姿を見せなければ、なんとかなる?


「ちなみに、世界中から狂気に陥った人を見つけて、そこに鏡を持って行くとかはできますか?」


「やろうと思えばできるかと。相手の姿を見せないようにするのも、一時的に盲目になっていただければ問題はありませんね」


「意外と現実的なのかな……」


 話を聞く限りでは、なんだか行けそうな気がする。

 別に、四六時中食事を用意する必要はない。

 事前に聞いておいたけど、ゴルムーンとしては、定期的に食事がとれるなら、その期間はそれなりに長くても構わないと言っていた。

 具体的にどれくらいかはわからないけど、まあ、一週間に一回とかなら、十分何とかなるだろう。

 まあ、狂気に陥った人を探して、無理矢理食べさせることになるから、その人にとってはとんだ災難になりそうだけど、狂気を食らわれた後は、落ち着くとも聞いているし、姿を見ることによって発狂しないのであれば、ある意味役に立つことなのかもしれない。

 もちろん、最初から全部やるのはちょっと怖いけどね。可能性は低いとはいえ、これでも信者化してしまうパターンはあるかもしれないし。

 でも、下手に解き放って、無差別に食らわれて信者化させるよりはよっぽどましだし、こちらで管理できる分はやった方がいいのは確かだろう。


「少しずつ、試していくしかないですね」


「それしかないですね」


 なんだかどんどん厄介事を抱え込んでいるような気がするけど、これも世界のためである。

 私は、今後も増えるであろう神様を前に、どう対処すべきなのかを考えるのだった。

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― 新着の感想 ―
そろそろ神も久方ぶりに地上に降りて働くべきなのでは……
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