幕間:最高のおもちゃ
異世界の神様、リクの視点です。
僕らは世界に病を振りまく者。
その存在を確認する術はなく、気が付けば広がり、そして根絶される者。
唯一目の当たりにできるとしたら、それは悪夢の中でだけ。
そんな、本来なら厄介がられるだけの存在だけど、どういうわけか、一定の信仰というものはある。
まあ、その願いの大半は、嫌いな奴を不幸にしてくれと言ったものだけどね。
僕らは召喚者の願いは極力聞き入れるけど、ピンポイントに一人だけを感染させるなんてことはできない。どうあがいても、その病を発生させる以上は、その地域全体に広がることになる。
そして、みんなこう言うんだ。話が違うってね。
ま、別にどうでもいいけどね。僕らの目的は、病を世界に広め、認知させること。その過程で、誰かが不幸になったり、逆に不幸にさせられたりなんてことが起こっても、どうでもいい。
病を効率的に広げるための存在。それが僕らなのだから。
『そんな僕らが一人の小娘の願いを聞いて留まり続けるなんて、丸くなったものだよね』
病を広げるだけが僕らの存在意義だけど、現在は、ハクという少女の竜珠の中に納まっている。
なぜかと言うと、ハクにそう頼まれたからだ。
別に、召喚者でもない人間の願いを叶える必要なんてどこにもないけれど、ハクは何というか、気になるのである。
ちょっと見ただけでもわかる。あれは、おもちゃにしたら凄く面白い存在だって。
パッと見ただけでも、人間と神の混ざりものだし、なぜだか竜の気配も感じる。
性質としては、僕らとはかけ離れているけど、様々な要素が重なった人間はそうはいない。
これを利用せずしてどうしようか。
幸い、ハクの願いは、これ以上世界に病を振りまかないでほしいということだった。
役割を考えるなら、あんまり承服しかねるけど、でも、それと引き換えに、飛び切りの住処と、新しいおもちゃを手に入れられるのなら、悪くない。
どうせ、そのうち召喚されてこの世界からもいなくなるだろうし、ちょっとした気晴らしとでも考えればいいだろう。
そう言うわけで、今は存分におもちゃをいじくりまわしているところである。
〈……あの、これ、いつまで続くんです?〉
『僕らが飽きるまでかな。まあ、実験に付き合ってよ』
〈……〉
今や僕らの宿主となった少女は、明らかに不満そうな表情を見せているが、僕らには関係ない。
今住処としている竜珠は、どうやらハクの一つの構成要素らしい。
具体的に言うと、神たる部分である。
最初は神に近く、今の姿は擬態している姿かと思ったんだけど、どうやら逆のようで、人間が神の力を得ているような状態だ。
竜の要素があるせいか、その姿は竜に近く、その威圧感たるや、僕らでも感嘆するほどである。
しかし、その要素がこの竜珠に詰まっている以上、それを制御できるのは寄生している僕らである。
もちろん、いたずらに力を封じたりはしないけど、こうして暇な時に遊ぶくらいは許されるだろう。
さて、今はなにをやっているかというと、体の大きさの変更である。
ハクの本来の神としての姿は、おおよそ8メートル程度。翼が巨大なのも相まって、なかなかの迫力がある。
しかし、人間としての姿は、相当小さく、子供並みだ。
それを考えると、神としての姿も、あれでも小さい方なのではないかと思う。
まあ、神の姿なんて自由自在だし、年齢の割にでかい奴もいれば、僕らみたいに目に見えないほど小さい奴もいる。
だから、大きさにこだわる必要はないけど、でも、いじれるならいじって見たいよね。
『ひとまず、どれくらい小さくなるかな、と』
〈わわわ……〉
現在、ハクは神としての姿となっているが、それをそのままサイズダウンしていく。
8メートル近くあった身長が、どんどん小さくなり、ひとまず人間姿の時と同じくらいまで。
姿はそのままだから、そのままミニチュアになったような形だね。
『どうよ?』
〈どうと言われましても……〉
「なかなか可愛らしい姿になりましたね」
ハクは不満そうだが、一緒に来ていたエルという竜には、なかなか好評のようである。
竜の美的感覚はよくわからないけど、元々、ハクの竜姿は、可愛い寄りで見られていたようだ。
一般的な竜と比べて、小さいというのもあるんだろうね。
で、神としての姿となると、流石に他の竜と比べても大きい方になるけど、それでも可愛らしさが残っており、美しさと可愛さを両立するような生き物に見えるらしい。
そこから、そのまま小さくしていったから、可愛さが際立ち、それで評価に繋がったんだと思う。
まあ、普段の大きさならともかく、こんな小さいんじゃ威厳もあったもんじゃないよね。
『じゃあもっと小さくしていこうか』
〈え、ちょっ……〉
不満を聞き流し、さらに小さくしていく。
流石に、元が元だけあって、僕らのように目に見えないほど小さくはできないけど、それでも、ネズミくらいまでの大きさにすることはできる。
ここまでくると、もはや竜ではなく鳥だな。
「手に乗せてみてもいいですか?」
〈エル?〉
『いいけど、多分めちゃくちゃ重いよ?』
一応、意図的に体重を減らすことはできるけど、何の調整もしていない今だと、元の体重と変わらないから、手のひらに乗せたら普通に持てないと思う。
いや、竜なら行けるのか?
僕らの世界で竜というと、神くらいしかいないわけだけど、あいつらも持とうと思えば持てそうではある。
いまいち、この世界の竜との違いがよくわからない。姿が想像できるだけましなのかもしれないけど。
「確かに重いですね」
〈なら、これでどう?〉
「あ、軽くなりました」
僕らの方でやろうと思ったけど、どうやら自分から軽くなったようである。
人間の少女の掌に乗る竜の神。なかなかに面白い絵面だ。
『んじゃ、次は大きくする方を試そうか』
〈まだやるんですか……〉
『別にいいでしょ。今暇だし』
竜珠の神気をいじって、今度は巨大化させる。
手のひらサイズだった姿がどんどんと大きくなり、人と同じに、そして神と同じ大きさになり、そこから先へ。
身長はあっという間に10メートルを超え、それでも成長は止まらない。
さて、どこまで大きくしてやろうか。
〈ちょ、ちょっと、も、もういいですよ?〉
『せっかくだからもうちょっと』
〈いやいやいや……!〉
この場所は人気のない平原だけど、それでもこんなでかいものがいたら目立つ。
試しに、周りに誰かいないかと期待して見たけど、今のところ誰も通りかからない様子。つまらない。
まあでも、おかげで山のように巨大化した姿を拝めたエルは、大興奮のようだけど。
「ここまで大きいと、まさに神という感じがしますね」
『実際神でしょ。まあ、一歩でも動いたら大地がとんでもないことになりそうだけど』
〈怖いこと言わないで下さいよ!〉
何が起こるかわからないからか、ハクは一歩も動けない様子だった。
まあ、最悪大地がめちゃくちゃになっても、戻せると思うけどね。
他にも色々試したいことはあるけど、どうしようかな。
しばらくの間、ハクの体をおもちゃにして、色々と思考錯誤するのだった。
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