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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十九章:流行病編
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第五百三十三話:狂気を食らう者

「ああ、よくぞお越しくださいました。どうか、罪にまみれた私に、その抱擁を……」


 マーレさんは、ナイフを取り落し、両手を広げながら青い目の化け物に話しかける。

 化け物は、そんなマーレさんの言葉を聞き入れたのか、その頭を近づけ、その内部へと取り込んだ。

 傍から見ると、得体のしれない化け物に、頭から貪られているような状況。

 もしかしたら、食われてしまったのかと思ったけど、残された下半身が震えているから、生きてはいるんだと思う。

 予想以上に大きくてびっくりしたけど、ついに会うことができた。

 まずは、話し合いをしなければ。


「お初にお目にかかります。どうか、私の話を聞いてくださいませんか?」


『……?』


 化け物の無数の目が、こちらに一斉に向いた。

 鳥肌が立ったけど、あくまで冷静に、相対する。


「私はハクと申します。そちらは、異世界から来た神様とお見受けしますが、名前を伺ってもよろしいですか?」


『……ゴルムーン』


 その化け物は、低くおどろおどろしい声で答えた。

 ゴルムーン、なんだか不思議な響きだけど、会話ができるのなら何でもいい。

 私は、できるだけ刺激しないように、慎重に言葉を探す。


「承知のこととは思いますが、ここはあなた様のいた世界とは異なる場所。世界にはそれぞれ管理する神様がいて、別世界に干渉することは、よくないこととされています。それを踏まえて、あなた様の目的を伺いたく」


『……?』


「えっと……?」


 ゴルムーンは目をきょろきょろと彷徨わせながらも、何も言わない。

 私の言葉が気に障ったのか、それとも受け入れることができないのか。

 ちょっと無口な神様っぽいし、それも関係しているのかもしれない。

 これは、ちょっと時間がかかるかもしれないね。


『……わかり、にくい。簡潔に』


「そ、それは失礼しました……」


 どうやら、私が回りくどく言いすぎたせいで、理解が追い付かなかったらしい。

 慎重に言葉を選び過ぎたか。

 フランクに、というのは怖いので、少し簡単な言葉を選ぶことにする。


「あなたの目的を教えてほしいです」


『目的? お腹いっぱい、食べる』


 そう言って、ちらりとマーレさんの方を見る。

 確かに、食べてはいるけど、それだけが理由なのか?

 恐らくは、ゴルムーンもクイーンによって連れてこられたのだろう。であるなら、元の世界に帰りたいと望んでいると思う。

 あちらの世界の常識を考えると、信者を増やして、帰還の呪文を唱えてもらうって言うのが普通っぽいけど、それすらもやる気がないってことなんだろうか?

 マーレさんは、明らかに信者となっていたし、少し噛み合わない気もするけど。


「それだけですか?」


『狂気、美味しい、いっぱい、食べる』


「元の世界に帰りたいとかは?」


『どこでも、いい』


 どうやら、狂気を食らうことができれば、場所はどこでもいいらしい。

 なんか、随分と個性的な神様である。

 でも、狂気を食らうのが目的というだけなら、特に害はないんだろうか?

 リクの話では、狂気に陥った人の前に現れて、その狂気の部分だけを食らうという話だった。

 狂気を食らうというのは、その人物を落ち着けるということでもある。

 まあ、マーレさんのように、心酔しすぎて信者のようになってしまうパターンもあるから、止めた方がいいのは確かなんだろうけど、ただ単に狂気を食らうだけだったら、むしろありがたい存在ではないだろうか?


「で、では、クイーンについては何か知っていますか?」


『美味しいもの、くれる、いい神』


「そうきましたか……」


 確かに、クイーンは人々が苦悩する様を見たいという話をしていたし、苦悩する過程で、狂気に陥ってもおかしくはない。

 狂気を食らうのが目的なら、確かに利益があると言えるのか。

 まあ、かといってクイーンの味方かと言われると、そうでもないような気がするけど、ひとまず、今までの神様よりは、大人しそうな存在でよかった。


「ゴルムーン様、私は、この世界の神様に頼まれて、異世界からやってきた神様を元居た世界に送還すべく、かん……保護して回っています。世界の秩序が乱れることは、世界が壊れることとも同義。できることなら、大人しくして置いてもらいたいのですが……」


『……難しい。簡単に』


「す、すいません……えっと、どこにもいかず、ここで大人しくしていてもらえませんか?」


『……ごはん、くれるなら』


 ゴルムーンのご飯って、狂気のことだから、狂気に陥っている人を差し出せってことになるんだけど、そんなこと許されるんだろうか。

 確かに、マーレさんの様子を見る限り、死にはしないようだけど、下手をしたら、信者のようになり、こうして自傷してまで呼び出そうとすることになる。

 鏡を割って回っていた冒険者のように、落ち着いたところでゴルムーンの存在に恐怖し、距離を置こうとする人もいるとは思うけど、一定数はそうした信者が出てしまう。

 信者が増えるということは、この世界の神様への信仰が薄れるということ。

 さらに言えば、こうして自傷までしている以上、精神崩壊するのも時間の問題だろうし、そうなると、殺される可能性も出てくる。

 そう考えると、ゴルムーンのご飯を用意するというのは、なかなかに難しい注文だった。


「な、何とかして見ますから、どうか……」


『……わかった』


 ひとまず、形だけでもと思って言ってみたが、意外にもすんなりと受け入れてくれた。

 本当に、食べられれば何でもいいらしい。

 狂気をどうやって調達するのかという問題は残ったとはいえ、これでゴルムーンという神様を収容することができた。

 なんだか、最近は神様関連のことが増えたような気がする。

 運がいいのか、それともクイーンが暗躍しているのか、それはわからないけど、この調子で全員見つけられるといいんだけどね。


「なんだかすっごく疲れた……」


 その後、マーレさんを食べて満足したのか、ゴルムーンは鏡の中へと帰っていった。

 大人しくしているという話だけど、基本的には、鏡の世界から出てくることはないらしい。

 ただ、それでは会話するのが難しいので、どこかに鏡を置いておけば、そこに現れることができるので、それを通じて会話しようということになった。

 なんか、日常生活で鏡を見られなくなった気がするけど、世界のためとあらば、多少の犠牲は仕方ない。

 念のため、ルーシーさんとも協力して、どうにか封じ込められないかと考えてみたけど、鏡がある限り、どこへでも行けるようなので、それはそうそうに諦めることになった。

 世界中に出口があるようなものなんだから、封じ込めるなんて無理だよね。


「マーレさんについては、どうにか立ち直ってくれるといいんだけど……」


 マーレさんは、あれから夫である冒険者が状態を確認し、すぐさま病院に連れて行った。

 切れ味の悪いナイフで何度も刺していた影響もあって、一部は壊死しかけている部分もあったし、もしかしたら、完全には治らないかもしれない。

 しかも、マーレさん自身が、ゴルムーンに依存しているような状態だから、なかなか元には戻らないだろう。

 それに関しては、私にもどうにもできないけど、何とか元に戻ってくれるといいんだけどね。

 ひとまず、神様の一人を見つけられたのはいいけど、問題は山積みのようだ。

 私は、気分転換に町の名物料理を食べようと、適当な露店に向かうのだった。

 感想ありがとうございます。


 今回で第二部第十九章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第二十章に続きます。

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― 新着の感想 ―
難しい問題だなぁ
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