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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十九章:流行病編
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第五百三十一話:鏡の中に潜む神様

 しばらく待っていると、ふと、扉の先から物音が聞こえてきた。

 これは、椅子から立ち上がった音かな?

 その後、コツコツと足音が聞こえてきて、扉の前で止まる。そして、か細い声で、話しかけてきた。


「……だれ?」


「あ、突然の訪問失礼します。ハクという者です」


「……聞かない名ね。どこかの冒険者?」


「一応冒険者でもあります。少し、お話を聞かせていただけないかと思って、無理を言って通してもらいました」


「……そう。何が聞きたいの?」


 声は小さく、聞き取りにくいが、意外にも、話すことには前向きなようである。

 私は、さっそくリクが見たという、無数の青い目を持つ神様について聞いてみることにした。


「無数の、青い目……?」


「はい、ご存じありませんか?」


「うふ、ふふふ……知っているわ。あの方は、私のすべてを受け入れてくれる……」


「受け入れる? どういうことですか?」


 なんだか興奮したように、少し声色が変わる。

 話によると、マーレさんは、遺跡に行った時に、多くの不幸を目の当たりにしたという。

 トラップによって串刺しになる冒険者、落とし穴によって奈落の底に沈んでいく冒険者、多くの犠牲を目の当たりにした。

 中には、自分をかばって怪我をしたりする者も大勢いて、マーレさんは自分が許せなくなったようだ。

 いくら自分がちょっと歴史に詳しいからと言っても、遺跡のトラップを見抜けるわけではない。足手まといの自分がいることによって、多くの犠牲が出たと思うと、とてもじゃないけど冷静ではいられなかった。

 そうして、失意のうちに家に戻り、自分の部屋に入ると、そこにはその化け物がいたのだという。

 最初は恐怖したが、接しているうちにだんだんと冷静になっていき、逆に安心できる存在へと変わっていった。

 自然と、自分の過ちを懺悔したが、相手はそのすべてを受け入れ、慰めてくれた。

 自分は許されてもいいのだと知って、心が軽くなったが、あくまで許されているのは、その相手と話している時だけ。

 一歩外に出れば、そこかしこから聞こえる陰口に、マーレさんは何度も病んでしまった。

 その度に、過ちを吐露し、それを慰めてもらう。それを繰り返しているうちに、やがて部屋の外に出る必要はないと思い至ったようだ。

 このままここにいれば、いつでも慰めてもらえる。自分は許される。

 だからこそ、部屋に閉じこもって、外界との接触を断ったらしい。


「あの方はとても素敵な人よ。こんな私でも、見捨てずにいてくれる。私は、あの方のために生きると決めたの」


「で、でも、相手は人間ではないでしょう? そこまで心を許していいのですか?」


「外見なんて関係ないわ。むしろ、人間の方が醜く汚いもの」


 扉越しに聞こえる声は、とても恍惚としていて、身をゆだねているようだった。

 これは、魅了でもされているんだろうか?

 以前、一夜ひよなを連れてきた時もそうだったが、ルディの角には、相手を魅了する効果が秘められていた。

 だから、相手が神様であるなら、魅了の一つや二つできても不思議はない。

 もし魅了されているのだとしたら、結構厄介な状態だ。

 いや、問答無用で殺されていないだけましなのかもしれないけど、下手に突きまわしたら、逆上して襲い掛かってくる可能性もある。

 さて、どうしたものか。


「その方に、私も会わせていただくことはできますか?」


「いい心掛けね。それなら、頼みを一つ聞いてくれるかしら? そうしたら、会わせてあげる」


「頼みですか?」


 そう言って、マーレさんは言葉を続ける。

 頼みというのは、大きな姿見を持ってきてほしいというもの。

 その相手は鏡の中から現れる存在であり、鏡は多ければ多いほどいい。

 しかし、部屋に閉じこもっていては、鏡を調達することは難しい。だから、代わりに持ってきてほしいということのようだった。

 鏡から現れる。この証言からして、探している神様であることは確定したようなものだ。会えるなら、持ってくるくらいはした方がいいのかもしれない。


「わかりました。すぐに用意します」


「なるべく早くお願いね」


 さて、急遽鏡を用意することになったわけだけど、いろんなものが入っている【ストレージ】にも、流石に姿見は入ってない。

 どこかで調達する必要がありそうだけど、どこに売っているだろうか。


「ひとまず、この町のお店を回ってみようか」


 この町で売っているなら簡単なんだけど、果たして。

 私達は、一度家を後にし、お店がある通りへと向かってみる。

 お店は結構な数があり、そのほとんどが飲食店のようだ。

 最初の通りすがりに聞いたように、珍しい魔物の肉を使った料理とかもあって、ちょっと目移りしてしまうけど、今はそれよりも鏡である。

 しばらく回って見たが、鏡を扱っているお店はないようだった。

 うーん、この町では売ってないのかな?

 よくわからないので、適当なお店の人に聞いてみることにした。


「鏡? ああ、以前までは売ってたんだがな、今じゃ持ち込むこと自体が禁止されてるな」


「え、どういうことですか?」


 話によると、例の遺跡騒ぎがあった後、帰ってきた多くの冒険者達が、突然鏡を割り始めたらしい。

 最初は、悪夢によってパニックになっていたからだと思われていたが、その行動は次第にエスカレートしていき、やがて他の家に押し入って、鏡を割っていくまでに発展したようだ。

 事態を重く見た町長は、その冒険者達を拘束し、事情を聞いたが、彼らは鏡から化け物が現れると、よくわからない言動を繰り返すだけ。

 しかし、その誰もが遺跡に行って帰ってきた人達ばかりだったので、これは呪いの一種ではないかと考え、原因と考えられる鏡を置いておくのは、リスクがあると考えて、町の鏡は一時町の外に運び出されることになった。

 そして、呪いの全容が明らかになるまでは、この町では鏡を一切持ち込むことを禁止することとなり、町から鏡を扱う店は消滅したということらしい。


「ま、そんなわけだから、この町で鏡を手に入れるのは諦めた方がいい。まあ、もしかしたら誰かしらは隠し持ってるかもしれんが、譲ってもらうのは難しいだろうよ」


「そうですか……ありがとうございます」


 まさか、鏡を持ち込むこと自体を禁止されているとは思わなかった。

 でも、その理由はわかる。証言からして、例の神様が関わっているのは間違いなさそうだし、マーレさんのように、崇拝するのではなく、危機感を抱いて排除しようとしたのがその冒険者達なんだろう。

 実際、鏡がなければその神様は現れることができないのだから、鏡を排除するのは間違った行為ではないだろう。

 ただ、そうなってくると、鏡を届けるのが難しくなってくる。

 いや、鏡を調達するだけなら、別の町から買えばいいだけの話だし、持ち込みに関しても、【ストレージ】に入れておけば、気づかれることなく運べそうではあるけど、そもそも鏡を持って行くこと自体が正解なのかという話。

 恐らくだけど、マーレさんは鏡を隠し持っている。だからこそ、例の神様に会うことができたんだろう。

 神様に会うことを考えるなら、願いは叶えるべきだろうけど、鏡を持って行ったことによって、変に強化されたりしたら困る。

 鏡に関係している神様だし、鏡の数が増えたら、何が起こるかわからない。

 下手をしたら、私達まで魅了されて、信者となってしまう可能性もあるわけだ。

 そう考えると、下手に鏡を持ち込むことは控えた方がいいのかなとも思う。


「どうしようかな……」


 私は、今後の行動をどうするべきか、腕を組んで悩むことになった。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
鏡を割るとかホラー映画の様相を呈している( ˘ω˘ )
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