第五百三十話:遺跡の呪い?
「すいません、少しいいでしょうか?」
「うん? おや、これまた可愛らしいお嬢さんだ。どうかしたかね?」
「さっきのやり取りを見てたんですけど、何なのかなって」
「ああ、そのことかい。まあ、ここではなんだし、上がりなさい」
そう言って、男性は私達を家へと招き入れてくれた。
家の中は案外涼しく、砂漠の暑さを忘れさせてくれる。
氷の魔石が使われているってわけではなさそうだけど、なんだか不思議だ。
椅子を勧められ、茶菓子がふるまわれると、男性は軽く笑いながら話し始める。
「いやはや、少し見苦しいところを見せてしまったね」
「あの人達、多分トレジャーハンターだと思うんですけど、ああいうのはよくあることなんですか?」
「恥ずかしながらね。私は、彼らのことを思って言っているのだが、なかなか受け入れてくれないんだよ」
「よろしければ、なぜ反対しているのか聞いても?」
「君は礼儀正しいね。なあに、なんてことはない、ごくありふれた理由だよ」
そう言って、なぜ反対しているかを話し出す。
まず、あの遺跡を発見したのは、町の冒険者だったという。
魔物を狩っていて、少し迷っていたら、遺跡を発見したという具合だ。
その後、調査のために町の冒険者を集い、行ってみたが、中はトラップだらけで、かなりの犠牲を出したようだ。
これは堪らんと、しばらく放置していたら、そこに聖教勇者連盟の方から、遺跡を調査したいという提案をされたという。
実質、自分達で調査するのは難しいと思っていたので、実力もある聖教勇者連盟なら安心だろうと任せたら、その後、聖教勇者連盟では、謎の病気が流行り、壊滅状態に陥ったと風の噂で聞いた。
これは呪いに違いないと思い、完全に封鎖することを決めたが、どこから聞きつけたのか、遺跡目的のトレジャーハンターが集まってしまい、お宝を持ち帰るんだと大騒ぎ。
呪いのことを話しても全く聞き入れてもらえず、仕方ないので、物理的に町から出られないようにして、封殺することにした。
もちろん、反発は大きかったが、これも命を守るため。下手をしたら、この町も呪いに侵されるのではという不安もあったから、こうして反対しているのだという。
「聖教勇者連盟の方々以外にも、遺跡に調査に行った冒険者は、皆原因不明の悪夢にうなされた。私の娘も、その一人で、そのせいか全く部屋から出てこなくなってしまったし、同じ過ちを繰り返すわけにはいかないと思っているんだよ」
「そうだったんですね」
確かに、遺跡に行った人々が、原因不明の病気に倒れて行ったら、そりゃ呪いだとも思うか。
実際は、リクが病気を振りまいたからだけど、そんなの普通の人にはわからないだろうし、呪いとして片付けても不思議はない。
というか、聖教勇者連盟以外にも、この町の冒険者も悪夢にうなされてるってことは、こっちにも病気を振りまいたんだろうか?
そんな話は聞いていないけど。
『そこのところどうなんですか?』
『僕らは何もしてないはずだよ。まあ、僕らがいるものに何かしら触れていたら、それを通じて夢という形で何か見ても不思議はないけど』
『曖昧ですね……』
リク自身に、夢に干渉する能力はないけど、病気の症状の一つとして、悪夢を見せることくらいはできるらしい。
そして、その人がリクに感染しているのなら、リク自身が夢に現れることも簡単なんだとか。
聖教勇者連盟の人達に悪夢を見せていたのは、リクの仕業ってことだね。
でも、こっちの町の冒険者は、そもそもリクは手だししていない。だから、関係ないと思うけど、無意識のうちに関わっている可能性はあるかもしれない。
正直、はっきりしてほしいけど、もし本当に関わっていないのなら、本当に呪いって可能性もなくはないかもね。
「お嬢ちゃん達は、トレジャーハンターというわけではなさそうだが、間違っても遺跡に行こうなんて思っちゃだめだよ?」
「わかりました。ご忠告ありがとうございます」
本当に呪いかどうかはともかく、その遺跡には何かありそうではあるよね。
もしかしたら、例の鏡に潜む神様が関係しているかもしれないし、実際に見てみたいところではあるけど……。
いやその前に、この町ではその神様が目撃されたって話だよね?
目撃されたと言っても、見たのはリクだから、この町の人が見ているかどうかは知らないけど、目撃例を探ってみるのもいいかもしれない。
『リク、その神様の特徴ってどんなものですか?』
『特徴は無数の青い目だね。でっかい頭にたくさん目がついてる感じ。大抵は、鏡から頭だけ出していたり、鏡の中にいるのを見たりする程度だから、体の方はよくわからないけど、結構大きいのは確かだよ』
『なるほど』
いまいち想像がつきにくいが、たくさんの青い目が付いた化け物って感じだろうか。
ひとまず、聞いてみることにする。
「無数の青い目が付いた怪物? うーん、聞いたことはないが……」
「そうですか……」
「……いや、待ってくれ。確か、娘がそんな話をしていたような気がするな」
「娘さんが、ですか?」
確か、さっきの話にも少し出てきていたよね。
思わぬとことで目撃情報を得られるかもしれない。
「その話、詳しく聞かせていただけませんか?」
「うーむ、そうしたいのは山々だけど、私もちらりと聞いただけだからね。娘に直接聞くのがいいだろう」
そう言って、娘がいるという家の場所を教えてくれた。
娘さんは、すでに結婚しており、今は少し離れた場所で暮らしているらしい。
と言っても、同じ町の中だから、会おうと思えばいつでも会える距離らしいが。
確か、遺跡に行ってから、部屋に閉じこもるようになったと言っていたけど、ちゃんと話を聞けるだろうか?
「ありがとうございます。聞いてみますね」
「できれば話し相手になってやって欲しい。最近は元気がなくて、見ていて心配になるからね」
町長にお礼を言い、さっそくその家に向かうことにする。
どこにあるのかと思ったけど、少し道を進んだ先にあった。
近すぎない? いや、家族の家だし、こんなものなのか?
確か、お相手は冒険者の人らしいけど、たまたま家が近かったって可能性もあるけどね。
とりあえず、玄関をノックする。しばらくすると、一人の男性が出てきた。
「うん? なんだお前らは」
「突然の訪問失礼します。町長さんから話を聞いて、娘さんに話を聞きに来たんですけど……」
「町長の娘、ってことは、俺の妻か。今はそっとしておいてやりたいが……いや、子供と話したら多少は気もまぎれるか。わかった、中に入りな」
そう言って、中に招き入れてくれる。
男性は、部屋の通路を進み、とある扉の前までくると、軽くノックする。
返事はない。男性は、若干眉間にしわを寄せながら、扉に向かって話しかけた。
「マーレ、お客さんだ。気分が落ち着いてるなら、話を聞いてやってくれ」
「……」
「俺はリビングの方にいるから、何かあったら呼べよ」
返事はないが、いつものことなのか、特に気にすることなく、戻っていく。
途中、私達に向かって、扉の前で待つように言った。
扉には鍵がかかっているようで、こちらからは開けることはできない。それでも、娘さん、マーレさんかな? が話す気があるなら、扉越しに話を聞くくらいはしてくれるだろうとのこと。
なんだか気にはなるけど、話してくれるのを祈るしかないかな。
私は、しばらく扉の前で返答を待つ。
さて、どうなるかな。
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