第五百二十八話:お父さんに報告
その後、その神様がいる場所に行く前に、お父さんにも報告をすることにした。
竜珠は、お父さんのアドバイスによって作られたものだけど、このように変形するのは明らかに異常である。
原因ははっきりしているし、姿をいじられるだけで特に問題はないとは思うが、一応、見てもらう必要はあるだろう。
そう言うわけで、すでに夜も近いが、竜の谷に向かうことにした。
〈なるほど、それで竜珠を見せに来たと〉
「はい。何か問題はあるでしょうか?」
竜の谷へと転移し、いつもの洞窟に向かうと、お父さんは難しい顔で答えた。
そもそも、竜珠が変形するというのはほぼありえない。
その材料は、その竜が最も大事にしている鱗であり、作る際に多少形は変われど、作った後で変わるというのはありえない。
あるとしたら、それは竜でもどうにもできないくらいの強力な外部の力が加わった時。
リクは一応神様だし、そう言う意味では条件に当てはまっているから、変形した理由にはなるけど、それがいいことがどうかは、微妙なところだ。
〈力を取り込み、自分のものとして利用できるのなら、特に問題はないだろう。だが、話を聞く限り、それはどこぞの神の仕業なのだろう? 我としては、一刻も早く追い出すべきだと思うが〉
「それは私も思いますが、でも、ここで放り出せば、世界に病気が広がることになります。抑えておくという意味では、こうして留めていた方が安全では?」
〈多くの人のことを考えるならな。しかし、我はそちらよりも、ハクの方が心配だ。聞けば、姿を変質させられたと言うではないか。ハクの美しい銀の鱗が侵されたと思うと、今すぐにでもそいつを殺したくなる〉
「ど、どうか抑えてください。私は大丈夫ですから……!」
お父さんは、私の竜珠を睨みつけながら、低い声で唸った。
私に向けられたものではないとわかっているけど、そうして睨まれると、ぞくぞくする。
蛇に睨まれた蛙、というほどではないにしろ、そんな威圧感のある目で睨まれたら、普通の人は恐怖で何もできなくなるだろう。
私は、お父さんだってわかってるから、そこまでの恐怖はないけどね。でも、それでも威圧感を感じるのだから、プレッシャーはやばいと思う。
「それで、竜珠は特に問題はないんですね?」
〈明らかに異常ではあるが、脆くなっていたり、容量が限界ということはなさそうだ。本来の用途で使う分には、特に問題はないだろう〉
「それを聞いて安心しました」
とりあえず、竜珠が失われるようなことはなさそうで、一安心である。
まあ、リクもせっかくの住処を手放したくはないだろうし、多少なりとも守ってはくれるだろう。
あんまり行き過ぎて、私の体にまで異常が出たらあれだけど、今のところは竜珠だけに留まっているようだし、今は問題ないと思う。
〈今日はもう遅い。泊っていくといい〉
「ありがとうございます。お言葉に甘えますね」
まあ、帰ろうと思えば、転移で一瞬で帰れるから、問題はないんだけどね。
でも、久しぶりにお父さんに会えたし、お母さんとも会っていきたいから、ちょうどいいだろう。
でも、王都にも顔を出さないといけないから、明日はそっちに行く必要があるかな。
病気騒ぎで、全然戻れていなかったしね。
私は、今後のスケジュールを立てつつ、久しぶりの家族団欒を楽しむのだった。
翌日。お母さんが用意してくれた朝食を食べた後、王都へと戻ってきた。
家に帰った途端、お兄ちゃんとお姉ちゃん、そしてユーリから、熱烈にハグされてしまったが、相当心配していたらしい。
一応、通信魔道具で連絡はしていたんだけど、私が病気にかかったと聞いて、すぐにでも会いに行きたいと思ったようだ。
実際、ミホさんに頼めば、それも可能だったと思うけど、私の方から、病気を移すといけないからと、何とか留まっていてもらったのである。
だから、ようやく帰って来て、嬉しかったんだろう。
私も、心配をかけたという自覚はあるので、甘んじて受け入れることにする。
「もう体は大丈夫なの?」
「うん。もうすっかり治ってるよ」
「私に言ってくれればいつでも移したのに。あんまり無茶しちゃだめだよ?」
「ありがとう。でも、流石にユーリに負担をかけるわけにはいかないよ」
ユーリは、相手の怪我や病気を自分の体に移し替えるという能力を持っている。
それを使えば、私の病気もそっくり移すことができたと思うけど、流石にそれを積極的にやるほど落ちぶれてはいない。
というか、ユーリはただでさえ無茶をするんだから、その言葉はブーメランな気がする。
最近はだいぶましになったとはいえ、以前はスラムの住民とかの怪我を請け負ったりしていたしね。
「しばらくは大人しくしてろよ?」
「そうしたいのは山々なんだけど……」
「なんだ、また事件か?」
病み上がりという意味では、確かに大人しくしておいた方がいいのかもしれないけど、そうも言ってられない事情がある。
リクが言っていた、鏡に潜む神様。
話によると、例の遺跡の近くに町があるらしく、そこで目撃したようだ。
神様案件となれば、調べないわけにはいかない。
体もきちんと治っているし、ここで大人しくしている場合ではないのだ。
「本当なら止めたいところだが、神様が関わってるんだったか」
「うん。だから、すぐにでも行かないと」
「わかった。だが、十分気をつけろよ? 何か手伝えることがあったら、いつでも言ってくれ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
お兄ちゃん達の無事も確認したので、さっそく件の町へと向かうことにする。
確か、砂漠があるんだっけ? だったら、暑さ対策はしておいた方がいいかな。
最悪、エルがいれば、問題はなさそうだけど、砂漠なんて、こちらの世界でも一度も行ったことがない。
一体どんな場所なのか、ちょっと楽しみではあるね。
支度を整え、一度聖教勇者連盟へと転移で戻る。
話によると、例の遺跡は、ここから南西の方角にあるらしい。
すでに行ったことがある場所なので、聖教勇者連盟の人達は、転移でそこに行くことが可能である。
飛んで行ってもいいけど、転移で行けるなら、そっちに頼んだ方がいいよね。
というわけで、神代さんを通じて、転移要員を用意してもらった。
「さて、どんな町なのか」
転移ができる転生者によって、町の近くまで転移してもらう。
私は、わずかな期待と不安を抱えながら、町を目指すのだった。
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