第五百二十七話:神様の情報
その後、日が暮れるまで変身を繰り返し、ようやく満足したのか、リクは大人しくなった。
今まで、神力のある場所を住処にしたこともあったけど、今回のように、私という生きた神様が常にそばにいる状況というのはなかなかなかったらしい。
リクは、病原体の神様という珍しい種だけど、その特性故に、神様からも結構恐れられる存在なのだという。
まあ、その気になれば、神様すら病気にして、命を奪うこともできるわけだからね。神様も、自分の身に危険が迫るとなれば、自衛はするし、わざわざ近づけたいと思う神様もいないだろう。
だからこそ、私という宿主のようなものがいる状況は珍しく、それでいて私の神様としての姿を自由にいじることができるとなれば、試したくもなるということらしい。
私としては迷惑以外の何者でもないけど、一応、メリットも存在する。
というのも、リクは私の神力を変質させて姿を変えているようだけど、その際に、いくつかの特性を付与することができるらしい。
例えば、先ほどの災厄竜の姿ならば、自在に病気を振りまくことができるようだ。
リクの力に依存しているため、私がやろうとするといくつかの制限はあるようだけど、普段の姿では絶対にできないことも、リクの調整次第でできることもあるのだという。
もちろん、リクの性質上、基本的にはマイナス方面、それこそ病気を振りまくとか、毒を作り出すとか、そういう方面が強く、他はそこまででもないというのは留意しておく必要があるけどね。
これをうまく使えれば、対神様との戦闘に置いて、何か役立つ部分もあるかもしれない。
力自体も、純粋に上がっているようだしね。
まあ、リクが制御している関係上、リクが望まない限りは狙った姿にはなれないし、下手したら唐突に竜の姿になってしまうというとんでもないデメリットがあるから、うまく使うのはなかなか難しそうだけど。
「ハクお嬢様、大丈夫ですか?」
「なんとかね……もうやりたくないけど……」
一応、人前ではやらないようにとお願いはしたけど、どこまで聞き入れてくれるかはわからない。
いざという時に、とっさに隠蔽魔法を張れるように警戒しておいた方がいいかもしれないね。
なんか心労が増えた気がする。なんでこんな目に。
「とりあえず、報告はしておかないと」
流石に、こんなとんでもないデメリットを背負ったことを報告しないわけにはいかない。
最低でも、ルーシーさんと、お父さんには報告した方がいいだろう。
そう言うわけで、ルーシーさんを呼び出すことにする。
すでにスタンバイしていたのか、呼べばすぐに現れてくれた。
「ルーシー、ここに参上しました。ハク様の異常を止められず、申し訳ありません」
「やっぱり見てました?」
「はい……すでに、創造神様にも報告してあります。ハク様が望むのなら、竜珠に変わる器を用意することもできると思いますが……」
そう言って、心配そうな表情を浮かべるルーシーさん。
いざとなれば、リクを別の場所に移す用意はあるようだけど、問題は、リクが納得するかどうか。
今までは、神力がある場所ならどこでもいいと思っていたから、最悪神様に頼めば何とかしてくれると思っていたけど、私の体をいじくるという別の楽しみを得た今、素直に頷いてくれるとは思えない。
無理矢理に切り離すことはできるかもしれないが、その場合は大人しくするつもりはないだろうし、下手をしたら、神界で病気が流行ってしまう可能性もある。
そう考えると、下手に切り離すわけにもいかないから、結局私の竜珠に留めておくしかないんだよね。
「それに関しては、いざという時にフォローしてくれたら嬉しいです。人前で災厄を振りまきたくはないので……」
「かしこまりました。他の天使とも連携して、なるべく被害が広がらないように努めます」
天使が協力してくれれば、何とかなるだろう。
いざという時のカバーストーリーみたいなものも作れそうだし、最悪の事態は免れてくれると嬉しいところだ。
さて、こうしてルーシーさんを呼び出したんだし、もう一つやるべきこともやっておこう。
「リク、この際だから聞きますが、あなたはクイーンを知っていますか?」
『クイーン? ああ、知ってるよ。たまに呼び出されることもあったし、世界中いろんな場所で暗躍してるからね』
「そう言うことなら話は早いです。実はですね……」
私は、今この世界がクイーンを始めとした、異世界の神様によって、侵略されていることを話す。
リクは、召喚されてこの世界に来たようだけど、その召喚主は見ていないという。
しかし、異世界の神様という点や、クイーンを知っているところから見て、クイーンに呼び出されたのは間違いないだろう。
つまり、リクはクイーンと同じ世界から来たことになる。
であるなら、クイーンや、連れてこられた神様について、何かしら知っていてもおかしくはない。
せっかく捕まえたのだ、話くらいは聞いておいてもいいだろう。
『なるほどね。つまり、この世界にいるクイーン達を見つけ出して,追い出したいってことね』
「はい。ちなみにですが、リクはどちら側ですか?」
『僕らは基本的に中立、というか、好き勝手にやるだけだからね。クイーンのような別の神に利用されることもあるし、逆に神を蹂躙することもある。召喚主の意向を叶えるのなら、クイーンの味方ってことになるかもしれないけど、見てないしね。むしろ、今宿主となってくれてるハクの願いを叶える方が僕ら的には理に適ってるよ』
「それを聞いて安心しました」
ひとまず、リクはクイーンに与する気はないようだ。
クイーンが手当たり次第に神様を呼び出している理由はわからないけど、他の神様のことを考えると、単に味方を増やしたいというわけではなさそうかな?
いずれにしても、味方が増えるのはありがたいことである。
「なら、クイーンや、連れてこられた神様については、何か知りませんか?」
『うーん、神の名前とかならある程度は知ってるけど、何をしようとしているかまでは知らないよ。興味もないしね』
「では、場所はどうですか? リクは、世界中に広がって病気を振りまくのでしょう?」
『そうだけど、今回はまだそんなに広まる前だったからね。そんな詳しいことは知らないよ』
「そうですか……」
世界中に広がれるなら、何かしら情報を持っているかもしれないと思ったけど、そう言うわけではないようだ。
少し残念だけど、世界中に広まっているイコール未知の病気が広がっているということでもあるから、広まらないでよかったとも言える。
『ああでも、クイーンじゃないけど、連れてこられたであろう神なら見かけたよ』
「本当ですか?」
『うん。まあ、多分現実世界にはいないと思うけど』
「どういうことですか?」
どうやら、その神様は、鏡の中に潜んでいるらしい。
鏡面世界とでも言えばいいのかな? そこにいるから、現実世界で会うのは非常に難しいようだ。
しかし、一つだけ現れる条件があるらしい。
「その条件とは?」
『人が狂気に染まった時、その人物の前に現れる。あいつは人の狂気が何よりの好物だからね』
狂気と聞くと、以前の雪山を思い出す。
あの時は、ただいるだけでも、正気を削られていくような、怖気が走る場所だった。
あれと似たような性質があると考えると、近寄りたくもないが、異世界の神様を見つけるためには、調べるしかない。
次の目的地は決まったようだ。
私は、ルーシーさんと頷きあい、詳しい話を聞いていく。
果たして、どんな神様なのか。
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